びわ湖のほとりで見つかった数々の落書き。被害にあったのは“日本三名橋”の一つと言われる名所です。
後を絶たない名所での落書き。先月には、京都・嵐山で先月350本以上の竹に落書きが確認され、一部は伐採される事態に。
また、国宝に指定された寺では、落書き被害に二度遭ったものの、寺の判断ですぐに修復することができないという苦労も。
決して“いたずら”では済まされない落書き行為。深刻な被害の実態を取材しました。
■「急がば回れ」由来の“日本三名橋”「瀬田の唐橋」に落書き被害
【記者リポート】「落書きがありますね。これなんですかね。スプレーで書かれたような…幅も1メートルくらいですか。ひどいですね」
琵琶湖の南端にかかる「瀬田の唐橋」に書かれた落書き。
日本書紀にも登場するこの橋は、古くから京都への交通の要衝であり、歌川広重の浮世絵にも描かれていて、“日本三名橋”の一つともいわれています。
室町時代には、「もののふの矢橋(やばせ)の舟は速けれど急がば回れ瀬田の長橋」という短歌も…
「急がば回れ」ということわざは、この短歌に由来すると言われています。
しかし、そんな由緒ある橋でみつかった数々の落書き。
取材の中で周辺も含めて10カ所以上で見つかり、滋賀県と大津市はそれぞれ警察に被害届も提出しています。
■地元の人たちは「許せない」と怒り
地域の人たちは…
(Q:唐橋は地元の人にとっては?)
【地域の人】「自慢の一つよね。どこに出しても恥ずかしくない。だから本当に悲しい」
【地域の人】「これ(瀬田の唐橋)が見えたところがすごく気に入って、マンションを買った。買い物行くのもこの橋渡ったり、散歩するのもこの景色見ながら散歩するので私たちの生活の一部。だからそんな落書きなんて許せないです」
【地域の人】「歴史のある場所で、風光明媚な場所でもあるし。なんてことして下さるんでしょうね。大変怒っています」
地域に愛されるこの橋では、いくつもの歴史上の舞台にもなっていたことにちなみ、100対100の綱引き大会を開催したこともありました。
さらにその数年前には老朽化のためこの橋を塗り替えるにあたって、何色にするのかで住民の間で大論争になったことも。
■落書きを消す作業は手作業で…
取材をしていると、橋を管理する滋賀県の職員が手で拭き取って落書きを消す作業が始まりました。
【県の職員】「機械でやったら壁がはがれてしまうので、塗料はがし(剤)で拭き取るしかない。大変ですね、本当にもうかなわんですわ。これも全部税金ですからね」
橋のすぐそばにある「橋守神社」の平井さんも様子を見に来ていました。
【龍王宮秀郷社 平井章夫代表役員】「これ大事な橋なんで、歴史的な橋ですのでよろしくお願いします」
(Q:今までこういう事はなかった?)
【龍王宮秀郷社 平井章夫代表役員】「なかったです。初めてですね。言いようがないですね。やった人は反省してもらったらええけどね」
■京都・嵐山でも350本以上の竹に落書きが 一部は伐採する事態に
実は、こうした名所への落書き被害は後を絶たず、京都・嵐山の「竹林の小径(ちくりんのこみち)」でも、先月350本以上の竹に落書きが確認されました。
落書きによる傷で竹が枯れて倒れる危険性もあるため、京都市や地元の人たちが一部の竹を伐採する事態に…
また奈良市にある世界遺産・春日大社でもことし9月に重要文化財の柱などで落書きが見つかったほか、京都市の知恩院でも去年、国宝の柱に落書きのような傷が見つかっています。
■落書き被害に遭った寺 寺の判断で消すことはできず
被害に遭うと、その後どのような影響があるのか。過去2回、落書き被害に遭っている京都市の西本願寺を訪れました。
【西本願寺内務室田中大眞さん】「こちらですね。もう修復されて、現状、こういった形できれいに元通りといいますか」
400年近くの歴史がある御影堂の柱に10年前、落書きを発見。すぐに消そうとしましたが…
【西本願寺内務室 田中大眞さん】「国宝という建物になるので勝手に(修復)することができませんので、文化庁の方にもご報告させていただいて、専門にしている人に来て頂いて、全くもって新しいものに変えるのではなくて、今あるものを極力残すように修復するということですね」
国民的財産のため寺の判断で消すことができないうえ、専門業者に依頼して元の状態に戻すのに、かなり時間を要し苦労したといいます。
何とか修復して安堵したのも束の間、その2年後には重要文化財の門に落書きされ、再び文化庁に連絡して修復することに。
【西本願寺内務室 田中大眞さん】「誰でも通れるので、24時間いつでもずっと見続けることは出来ない。多くの支えによって今もずっと残されているので、それが意図的に傷をつけられるのはあってはならない」
■「1つ落書きがあると2つ目の落書きの抵抗がぐっと下がる」落書きは早く消すことが対策に
専門家は“注目される場所”だからこそ落書きの被害に遭いやすいと指摘します。
【東京都市大学建築学科 小林茂雄教授】「観光地の落書きはそこに来たという証を残したいんですよね。自分がここにいたっていうような記念を残したいもちろん魅力的な観光地で多く書かれるわけですね。
魅力的じゃない人の心を動かさないような観光地でほとんど落書きは書かれません。落書きっていうのは悪いことなんですけど、1つ愛情表現の裏返し、そこにもつ愛着の裏返しであると考えられる」
(Q:有効な対策は?)
【東京都市大学建築学科 小林茂雄教授】「1つ落書きがあると2つ目の落書きの抵抗がぐっと下がります。落書きがあればあるほど別の人が落書きをしたくなるような気持ちを誘発する。だから落書きをされたらできるだけ早く消去することが次の落書きを生まない大きな対策」
大きな対策になる物だけではなく人の心も大きく傷つける悪質な行為。落書きは決して許されるものではありません。
■落書きで賠償金の支払いを命じられたケースも
「落書き」は犯罪行為です。賠償金の支払いが命じられるケースもあります。
ことし3月、新潟市の重要文化財「萬代橋」の落書き事件で、当時19歳の男2人が落書きを消す費用として約400万円を請求され、支払いました。
「落書き」をすることでどのような代償があるのか元大阪地検検事の亀井弁護士が解説しました。
【亀井正貴弁護士】「民法709条の不法行為に該当するので損害賠償義務を負うんですね。損害は何かというと、現状を回復するための費用です。
例えば専門的な技術を使う人の費用や、橋は交通を規制する可能性があり、人件費とかそういう費用を合わせていくと何百万という可能性も出てくるということです」
「落書き」で問われる主な罪は以下の通りです。
・器物損壊罪:3年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金・科料
・文化財保護法:5年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金
【亀井正貴弁護士】「基本的にはそのものの効用を害しますから、壊れていなくても器物損壊罪が成立する可能性があって、重要文化財だとさらに重い刑罰になります」
軽い気持ちであったとしても、大きな代償を支払うことになる「落書き」。決して許される行為ではありません。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年12月12日放送)