海に浮かぶ風車で電気を作る洋上風力発電。
長崎・五島市で使う電力の約8割を賄うエネルギーの地産地消に迫りました。

人口約3万3000人の離島の街、長崎・五島市。

船に乗り沖合へ向かうと見えてきたのは、2026年1月から稼働する8基の風車。
最大の特徴は海に浮かんでいることです。

戸田建設・五島洋上風力プロジェクト部 野又政宏部長:
一番驚かれるのが、浮いているように見えないところ。(風車が)動いてしまうと、きちんと発電できないので。そこら辺を浮いたモノを制御しながら、ピタッと止まるのが浮体式の技術。

風車は棒形の釣りの浮きのような構造で、中が空洞の浮体部分と支柱で成り立っていて、巨大なチェーンでつなぎ留められています。

浮体の部分に、鉄よりも安価なコンクリートを多く使うことで低コストを実現し、量産化もしやすくなったといいます。

洋上風力発電には、風車を海底に固定させる着床式と海に浮かべる浮体式があります。

現在は着床式が主流で、浮体式で商用運転しているのは国内では五島と北九州沖にある2基のみ。

この8基が稼働すれば、日本初の「浮体式ウインドファーム」となります。

戸田建設・五島洋上風力プロジェクト部 野又政宏部長:
ポテンシャル(潜在能力)は確実にある。

このウインドファームが稼働を始めると五島市の電力の8割を再エネで賄えるようになり、地元も歓迎ムードです。

島内に電力会社をつくり、地元で電力を販売。
エネルギーの地産地消になるほか、新たな雇用を生み出しているといいます。

五島市役所ゼロカーボンシティ推進班・川口祐樹係長:
本店が福岡市にある九電(九州電力)に流れていた電気料金の一部が地元に循環する。お金がちゃらんころんと五島で回っていく仕組みがちょっとずつできた。

また、建設前は漁業関係者などからは漁獲量への影響を懸念する声もあったといいます。

ところが、海中部分の柱のそばには魚の群れが。
風車の支柱がすみかになり、多くの魚が集まるようになっていました。

四方を海に囲まれた日本。
洋上風力発電には理論上、国内総電力量の倍以上の潜在力があるとの試算もあります。

また、ヨーロッパでは遠浅の海が多く着床式の風車を建てやすいとされていますが、日本は深い海に囲まれているため設置場所の選択肢や可能性が広がる浮体式の技術に期待が集まっています。

一方で、洋上風力発電の普及拡大には課題もあると専門家は話します。

国際環境経済研究所・竹内純子理事:
五島列島でようやく始まったが、ほとんどまだ世界では使われていない浮体式の技術。これを大量に普及させる必要がある。コストがどこまで安くできるのか。

また、発電効率を上げるために欠かせない風車の大型化への対応も課題となっています。

五島の風車は高さ100メートルですが現在、世界で主流なのは250メートルクラス。
今は350メートルクラスの開発が進んでいるといわれています。

そして2025年8月には、秋田県や千葉県沖などで進んでいた洋上風力発電のプロジェクトから三菱商事が撤退すると発表。

入札時の想定から資材価格が大幅に高騰したことが原因としていて、莫大(ばくだい)な開発コストは重い足かせとなっています。

三菱商事の撤退を踏まえ、政府は今後どのような対応を考えているのか、経済産業省は「事業完遂が一番大事。実現性や実行性など、計画の中身を重視する制度にする」としています。

逆風を追い風に変えうる可能性を秘めたプロジェクトが進む中、浮き彫りになる洋上風力発電の課題。

これからの在り方について、国際環境経済研究所の竹内理事は「エネルギーの自給率を上げる。これは我々が海外から買ってくる化石燃料を減らすことになるので、海外に出ていくお金を少なくする効果がある。平坦な土地が少ない日本にとって洋上風力が重要ということも現実。政策としては大きなビジョンを掲げつつ、焦らずに着実に産業育成、エネルギー転換に取り組んでいくことになる」と話します。

2040年度までに再生可能エネルギーを全体の半分程度にすることを目指す日本。
転換点にある今、その戦略が問われています。

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