ネットフリックスに代表されるサブスク、定額制の動画配信サービス。
この分野に上映時間の短い「ショート映画」に絞ってこの分野に参入した起業家がいます。
鳥取県米子市出身の岩永祐一さん、「映画を自由化する」を合言葉に利用拡大を狙う業界注目のサービス、その戦略に迫ります。
ホームレスの男性が盲目の女性の家に忍び込み、奇妙な共同生活を始める…アイルランドで制作された映画、上映時間はわずか18分です。
こうした上映時間の短い「ショート映画」に特化した配信サービス「SAMANSA(サマンサ)」。
月額490円で国内外で制作された500本以上の「ショート映画」が見放題です。
このサービスを立ち上げたのが…。
SAMANSA・岩永祐一さん:
ビジョンは映画を自由化する。世の中にない作品やクリエイター、才能を見つけてきて、彼らの作品を配信、マーケティングをしている。
岩永祐一さん(37)、米子市出身です。
この日は、東京大学のキャンパスで開かれた映画制作サークルのイベントで講演しました。
大学生:
いつもおもしろいなと思ってみている短編動画。より映画がコアで好きな人たちの間で、短編のおもしろいものをとにかく見てみたいという人たちがサブスクをしているイメージ。
映画好きの学生もショート動画にはまり始めています。
「SAMANSA」の会員は現在、約5万人。
大手と比べるとかなり小規模ですが、2026年1月からは航空大手・ANAの機内モニター向けに配信が始まるなど、業界も注目するサービスです。
ありそうでなかったショート映画のサブスク配信。
どのような戦略を取っているのか、トレンドの発信地・東京・渋谷にある「SAMANSA」のオフィスを訪ねました。
SAMANSA・岩永祐一さん:
予告だったり切り抜きをインスタやYouTubeショートだったり、ティックトック、X(エックス)に上げて、そこから集客をしている。映画のサービスでうちほどバスっているところはほかにはない、グローバルで見てもないと思う。
サイトへの集客は主にSNSを通じて。
自社で編集した短い予告編を投稿し、拡散を狙います。
これまでの最多視聴回数は8400万回。
SNSを積極的に利用し、会員の約6割が20代です。
SAMANSA・岩永祐一さん:
短い動画を本当に若い人が中心に見るような状況で、映画自体も短いものが見られる時代がやってくると思った。
大学卒業後、大手人材関連企業に就職した岩永さん。
本場で映像作りをしたいと、29歳でアメリカに渡りました。
ロサンゼルスの大学で映画の演出を学び、ハリウッドでも活動。
2021年に「SAMANSA」を立ち上げました。
「ショート映画」のヒントになったのは「ファスト映画」。
劇場公開される長編映画を10分程度に編集し違法アップロードされたものですが、再生数を急速に伸ばしたことに着目。
「タイパ=タイムパフォーマンス」、時間効率重視の流れにチャンスを見出そうとしましたが…。
SAMANSA・岩永祐一さん:
鼻で笑われながら、『ファスト映画が流行ってるからって短編が見られるわけないでしょう』みたいなことは言われた。
長編映画以外の新しい映画の市場を作ることが重要だと思ってSAMANSAを始めた。
まだ開拓途上の「ショート映画」のサブスク。
そのすそ野を広げようと、岩永さんは高校時代まで過ごした米子市での活動にも力を入れ、山陰のクリエイターが集まるイベントにも足を運びます。
SAMANSA・岩永祐一さん:
山陰でアニメを中心とした映画祭をやっていきたい。鳥取だから東京だからとかあまり関係ないと思っている。
映像の新たな世界へと漕ぎだした岩永さん。
そのルーツには、映画との深いつながりがありました。
昭和初期、米子市にあった劇場。
経営していたのは岩永さんの曾祖父・喜六さんです。
複数の映画館を経営、近隣の町や村で巡回上映もしていましたが、映画人気は次第に下火となり、廃業を余儀なくされました。
岩永祐一さんの祖母・キヨ子さん:
巡回映画が入らなくなり借金が溜まって、銀行が急げ急げと浜村の映画館も全部取られてしまった。
当時を知る祖母・キヨ子さん、同じ家業を選んだことに驚いたといいます。
岩永祐一さんの祖母・キヨ子さん:
サラリーマンの方が気が楽で良いと思うけど、本人が好きだからね。おじいさんがえらい目みたから、おじいさんも好きだった商売が、映画も芝居も。
岩永さんはクラウドファンディングも活用しながらオリジナル作品の制作にも力を入れています。
「日本生まれ」のサービスとして動画配信の世界で存在感を示したいと意気込んでいます。
SAMANSA・岩永祐一さん:
すごく有名な俳優がネットフリックスのドラマや映画に出演するし、監督もそこで作っているが、本当にそれで良いのかとは思う。日本のサービスの中でした方が日本にとっても良いと思う。日本版ネットフリックスなのかわからないが、日本に限らず、世界中の人が良いと思えるものを日本から出したいと思う。
このSAMANSAの作品は、境港市の夢みなとシアターをはじめ、沖縄県の那覇空港にあるミニシアターでも上映されるなど、リアルな映画館にも進出しています。
夢みなとシアターでは、高齢者福祉施設の人たちも利用し、短時間で見やすいと
いう声もあったということで、地元で新たなニーズの創出にも期待です。