年間約1万7000人が亡くなるとも言われる「ヒートショック」。浴室で起こるイメージが強いが、冬場は急激な温度変化によって家中どこでも起こりうる。自宅でできる簡単な対策や入浴時の注意点を取材した。
リビングと脱衣所に14度の温度差
広島市安佐北区にある築40年以上の一軒家。この日の朝、暖房のきいたリビングは23.8度だった。だが、廊下を抜けて浴室へ向かうと、脱衣所は9.8度。同じ家の中で14度もの温度差が生じていた。
「実は、その温度差がヒートショックの大きな原因です」と話すのは、広島市安佐南区の心臓・血管の専門病院「広島ハートセンター」院長、木村祐之先生だ。
木村先生は「ヒートショックで亡くなる方は年間約1万7000人とも言われています」と明かす。これは2024年の交通事故死亡者数2663人の6倍以上にあたる。
急激な温度変化が引き起こす危険
ヒートショックはどのようにして起こるのか。そのメカニズムを木村先生に聞いた。
「温度が急激に変化すると、心臓や血圧が大きな影響を受け、さまざまな病気を引き起こすことがあります」
ヒートショックには、急に寒くなる場合と、急に熱くなる場合の2通りがある。

例1)暖かい室内 → 寒い脱衣所へ
血管が急に収縮し、血液が押し込まれるように流れ込むため、血圧が一気に上昇。心臓に負担がかかり、脳卒中や心不全の危険が高まる。
例2)寒い脱衣所 → 熱い浴槽へ
今度は血管が一気に広がり、血圧がストンと下がる。脳卒中や失神を起こし、意識を失ったまま溺れて亡くなるケースも少なくない。
木村先生は「寒いところで血管が縮むと血圧がビューッと上がり、逆に熱い風呂に入ると血圧がストンと下がる。その落差が命を危険にさらす」と説明する。
今すぐできる簡単な対策は?
血圧への影響が出る温度差は“10度以上”が目安とされる。
木村先生は、「寒い玄関に急に出たり、暖かい寝室から暖房のない場所に移動して着替えたりするときにも同じ現象が起こりえます」と指摘。ヒートショックのリスクは浴室だけでなく、家のあらゆる場所に潜んでいる。
身近な生活空間でヒートショックを防ぐには、日頃から温度差を意識しておきたい。
そこで、今すぐできる簡単な対策が「温度計」だ。一級建築士・川端順也さんは「温度を“見える化”すること」を強調する。
「リビング、トイレ、脱衣所などに温度計を置けば、自分がどれだけ寒い環境で服を脱いでいるのかわかります」
温度計を置く位置は 床から高さ90センチぐらいが理想。
「温度は上ほど暖かく、下ほど冷たいので、中間の高さが体感に近い。洗面台の上などがちょうど良い」とアドバイスする。
入浴中に“肩までつかる”なら…
ヒートショックを避ける入浴法として木村先生がすすめるのは半身浴。

「肩までつかると血管が一気に広がって頭部の血流が下がり意識を失うことがあります。お湯は40~41度、半身浴でゆっくり入るのが大事。肩まで浸かる場合は急に立ち上がらないこと」
とはいえ、寒い季節は温泉などで熱い湯に入る機会も増える。その場合は、まず手足を温めてから入ることで大きな血圧変化を抑えられるという。入浴前に手を握ったり開いたりして末梢血管を広げておくなど、軽い運動やマッサージも効果的だ。
周りの人が入浴時間の長さに注意しておくことも重要。もし浴室内でぐったりしているのを見つけたら、すぐに引き上げて意識があるか確かめる。手足が動かしにくい、言葉が出にくいなど“いつもと違う”様子があれば、ためらわず救急車を呼ぼう。
ヒートショックは高齢者、とくに動脈硬化が進みやすい男性に多いとされる。高齢者は血管が硬くなり対応力が落ちるため、急に血圧が上がると血管にヒビが入って出血することもあるという。
しかし木村先生は続ける。
「若い人でも、生活リズムの乱れ、睡眠不足、強いストレスなどがあればリスクは高まります」
若い世代も他人事ではない。寒さが深まるこれから、家の中の温度差に注意し、予防を心がけたい。
(テレビ新広島)
