瀬戸内海から冬の味覚、カキが次々と姿を消している。瀬戸内市の漁協でも養殖カキが大量死していて、被害はかつてないほど甚大だ。
◆2021年の映像と比較すると…
「今年の場合は生きているカキがあるのかなというくらいひどい状態」
県内有数の養殖カキの産地、瀬戸内市邑久町。今シーズンの水揚げが本格化してから2週間ほど経過するが、生産者の伊東聖二さんはこれまでにない異常事態だといいます。
伊東さんによると、カキが死んでいるので付着物がたくさんあったり、泥が乗って逆に重たいのだという。「雨も降らず、海水温が早い時期からずっと高かったので、まずいとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった」と想定外の事態に驚きを隠せない。
2021年にこの漁協で水揚げされたカキの映像では、泥や付着物はほとんどなくカキの殻がはっきりと確認できる。2025年の物と比較すると違いは明らかだ。
◆2年もの、3年もの9割死ぬ
養殖期間が比較的長い“2年もの”と“3年もの”の9割が死んでいるほか、これまでほとんど被害が出たことがない“1年もの”にも影響が出ていて、半分近くが死んでいるとおいう。
「今年どうなってしまうのかというのが正直な気持ち。来年は駄目かな」
伊東さんはやるせない気持ちをこのように語った。
◆10個むいても1個良いカキが出るか出ないか…
邑久町漁協では例年、この時期には1日当たり7トンから8トンある生産量が2025年はその4分の1の2トンほど。殻むきの作業でも商品として出せるカキがほとんど出てきていない。
「この2つは死ぬ直前。これも1カ月くらいしたら死んでしまう」と、伊東さんが正常なカキと比較できるように、記者に状態のよくないカキを見せてくれた。色やサイズが大きく異なっている。
「例年だと10個むいたら7~8個は普通に良いカキがむけるが、(今は)10個むいても1個出るか出ないか。子供のころから見てきたが、さすがにこれほどひどいのは全く経験がない」
◆知事は視察で「(中身が)入っているのを探す方が難しい」
この歴史的不漁を受け、12月7日には岡山県の伊原木知事が視察に訪れた。
伊原木知事は「ちゃんとしたものが珍しそう。開いてしまっているものが(中身がない)ということですよね。入っているのを探す方が難しい」と、目の前に並べられたカキをかきわけ、その大半が死んでいる現状についてこう感想を述べた。
夏の猛暑による海水温の上昇や雨が少なかったことなどが原因の一つと考えられているが、まだ不明な点は多く、生産者からは支援を求める声が上がっている。
邑久町漁業協同組合の松本正樹組合長は「ここから20年、30年とカキを養殖していくためには、ここを乗り切らないといけない」と報道陣に語り、視察に訪れた伊原木知事に支援を要請した。
◆先の見えない深刻な被害に苦悩する生産者
瀬戸内の冬の味覚として長年親しまれてきたカキ。先の見えない深刻な被害に混乱が広がる中、求められるのは「早急な原因究明」だ。
伊東さんのもとには電話で多くの問い合わせが寄せられているそうだが「「今年は無理」と断っている。いつも楽しみにしているという言葉を聞くと、どうにかしてあげたいがどうにもならない」と、やるせない思いを語った。
瀬戸内の冬の味覚の提供にいつ応えることができるのか。生産者の苦悩は今のところ、終わりは見えていない。
(岡山放送)