宮崎県新富町の航空自衛隊新田原基地で、最新鋭ステルス戦闘機F-35Bの訓練が開始されてから1カ月が経過した。夜間の垂直着陸訓練も行われ、基地周辺では家屋内で1分以上騒音が続く状況が常態化している。防音対策が施された住宅でもテレビの音が聞き取れず、電話での会話も困難になるなど、住民の生活に深刻な影響を及ぼしている。防衛省はF-35B配備の理由を「柔軟な運用体制の構築」と説明する一方、住民からは過去の約束との相違や、訓練回数の増加への懸念から不信感が募っている。
F-35B訓練1カ月、騒音常態化
航空自衛隊新田原基地では、最新鋭ステルス戦闘機F-35Bの訓練が開始されてから1カ月を迎えた。夜間の垂直着陸訓練も実施され、基地周辺の住民は1分以上にわたって続く騒音に、日々晒されている。

新富町で農業を営む石川博己さん(66)の自宅は、新田原基地の正門の目の前に位置する。石川さんの祖父は新田原基地ができる前からこの土地に住んでおり、代々引き継いでいるという。

家には、国や町からの補助を受け、各部屋にエアコンを設置し、窓などにも防音対策が施されている。

窓のサッシには、隙間をなるべくすくなくする鍵も取り付けられている。

ガラスの厚みも通常とは異なり、壁や天井にも防音の綿が敷き詰められているという。
家屋を揺らす垂直着陸音

12月1日には、3回目となるF-35Bの夜間飛行訓練が行われた。

午後5時半ごろ、石川さんが普段過ごすリビングでテレビを視聴していると、F-35Bの垂直着陸訓練が始まった。

この時、F-35Bの機体は上空でホバリングしていて、約1分半にわたり家全体が騒音に包まれた。

記者:
家も少し揺れる。テレビの音も一切聞こえなかった。
石川博己さん:
地響きするような音、重量感のある音でしょ。テレビはいいが、電話がやはり大変。

石川博己さん:
「ちょっと待ってください。飛行機が飛んでいるので聞こえません」と伝えなければならない。外とあまり変わらない。
騒音レベルは地下鉄の車内並み
家の中で騒音計を使って音の大きさを計測したところ…

テレビがついた状態での音量は50dB弱。環境省によると、これは昼間の住宅地と同程度の音量だ。

一方、F-35Bが垂直着陸している時は、70dB前後で地下鉄の車内と同程度。石川さんは、こうした騒音の中で日々を過ごしている。
また、防衛省によると、基地から約3km離れた新富町役場の屋上で聞こえる垂直着陸時の騒音の大きさは、さらに大きく、約90dBに達するという。

防衛省は、「排気ノズルを下に向ける垂直着陸態勢をとることでエンジンやジェット噴射の音が通常の着陸よりも大きくなる」と説明している。
石川博己さん:
夜間訓練自体は、F-15でも行われてきたが、F-35Bの垂直着陸訓練はしない約束のもどたったから、今は大変な思いをしている。飛ばないでほしいと思うぐらい。しかし、それでは訓練にならないからだめなんでしょうけど…
防衛省の方針転換と 住民の不信感
2025年2月、防衛省は緊急時以外は行わないとしていた新田原基地でのF-35B垂直着陸訓練を実施する方針に転換した。

これに対し、地元からは騒音被害の増大を懸念する声が上がり、10月には防衛省が最大月平均約100回としていた垂直着陸訓練を約80回に、夜間訓練も約40回から約20回にそれぞれ削減する軽減策を示したが…

石川博己さん:
垂直着陸訓練の回数については…微妙です。回数が増える可能性は十分にある。防衛省の言葉を信用していないから。守ってくれるといっても、いざ始まったらここは一番先に狙われるところだから、ここに住んでいる人はそこまで守られる保証はないと思う。
地元、騒音軽減策のさらなる充実を要望
当初の説明から一転して訓練を行っていることについて、地元では様々な声が上がっている。

新富町区長会の河野國夫会長は、「2024年の受け入れの時からの約束を反故にした。約束を覆すようなことがあったら、防衛省、基地との信頼関係が無くなる」と訴え、防音区域の拡大など、町民への負担軽減策の充実を求めている。
「防衛のためやむを得ない」、家族会は理解求める
一方、自衛隊員の家族で作る新富町自衛隊家族会は、訓練の必要性への理解を求めている。

新富町自衛隊家族会 大西英二会長:
やむを得ないものがある。すべてが命に関わる。安全のためには訓練は必要。家族会の会長としても、町民の皆さんに頭を下げてでも、練習させてやってと言いたい。

新田原基地へのF-35B配備の理由について防衛省は、「艦艇や、滑走路の短い飛行場での離着陸など、柔軟な運用ができる体制を構築するため」と説明している。
F-35Bの配備と、それに伴う日常的な騒音。それは、新田原基地が日本の安全保障環境強化の最前線にあることを示していた。
(テレビ宮崎)