避難路断たれ…覚悟決める
真っ赤な炎が窓の外に迫り、避難路も全て断たれてしまった。

リーさん:
家にはいくつか窓があったのですが外の足場がずっと燃えていて、爆発音も聞こえました。何もできなくて、頭の中で「助けを待とう」と自分に言い聞かせました。
ここで救助を待つしかない…。覚悟を決めたリーさんは、友人に「私に何かあったら、子どもたちを頼む」「逃げられないかもしれない」とメッセージを送った。

「この部屋は間違いなく火の海になる。その時、死を実感した」
部屋で救助を待つリーさん。炎や煙に襲われるまでの時間との闘い。
そして、火災発生の通報から2時間10分後の午後5時ごろ、足場が燃え尽きた窓の外に見えたのは、消防士の姿だった。
消防士は「助けるから」と、ハシゴを出してくれたという。

夫婦に先に行ってもらい、息子と娘が好きなiPadと携帯を持って脱出したリーさん。もし、自宅が2階ではなかったら…もし、風向きなどによって窓の外から炎が入ってきていたら…。
まさに紙一重の脱出だった。
リーさん:
妻はその場で立ち尽くしていました。娘はすぐに私のところへ走って来て、抱きしめてくれました。息子はずっと涙を流していましたね。

無事、家族と再会できたリーさんだが、ある後悔が、心に重くのしかかっている。
リーさん:
廊下で出会った夫婦と自宅に戻った後、2人は近くで「おばあちゃん!おばあちゃん!」と叫んでいる女性の声を聞いたと言っていました。その後、声は聞こえなくなったそうです。無事に避難できたのか、気を失ったのか、今となっては、もう誰にも分かりません。あの時、声があった方向に探しに行くことも考えられましたが…。

「もしかしたら、もう1人助けられたかもしれなかった」。そんな思いが頭をよぎったという。
“3方向への延焼”
失われた多くの命。
出火元とされる海側のF棟から、計7棟にも燃え広がった今回の火災。ここまで被害が拡大した要因とは何だったのか。

徐々に見えてきた現場の状況から、専門家はこう指摘する。
元麻布消防署長 坂口隆夫氏:
3つの方向に延焼していった、そういう特徴のある火災。

“3方向への延焼”。
1つは、激しく燃え上がった「上方向」。
坂口隆夫氏:
ちょうど(建物が)コの字型になっています。それで、煙突のような形になって燃えている。

このマンションは1棟に4カ所、ほぼ外壁に囲まれた狭い空間があり、これが煙突のように働いて、炎や煙が急速に上昇したと分析する。
2つ目は、映像を見ても分かる通り、防護ネットを伝った「横方向」だ。

そして3つ目が…
坂口隆夫氏:
窓に燃えやすい発泡スチロール等が貼られていたということですから、これが燃えてガラスが破壊されて、それで中に延焼していった。通常であれば、これだけ中に延焼していくってことはない。耐火構造の建物は。

発泡スチロールに燃え移ったことで窓が割れ、部屋の「中方向」にも広がった可能性があるという。
香港の建物に詳しい現地の専門家はこの発泡スチロールについてどうみるのか。
香港工程師学会 陳世昌氏:
(工事の)破片が窓を割ったりしないよう窓をふさぐことが本来の目的。普通は木の板や鋼板などが使われることが多いですが、発泡スチロールの方が費用は抑えられます。
上(うえ)・横(よこ)・中(なか)への3方向で急拡大した炎。
同様の火災は日本でも起こりうるのか?
坂口隆夫氏:
日本のマンションというのは法律で一住戸が、コンクリートの壁・床等で区画されており、他への延焼はしにくい構造になっている。

また11階以上の建物には、スプリンクラーの設置義務があることなどから、今回のような大規模な火災は起きにくいという。
ただし、坂口氏は今回の火災で致命的だったことが「火災報知器のベルが鳴らなかった」点だったと指摘する。
坂口隆夫氏:
火災に気づくのが遅れてしまった。自分のマンションに設置されているものがどういうものがあるのか。それをやはり住んでいる人は確認をしておく必要があると思う。
(「Mr.サンデー」11月30日放送より)
