揚げパンに、ソフト麺に、ワカメご飯。きっと誰もが心の奥に、もう一度食べたいと願う思い出の「給食メニュー」があるだろう。

ところが、羽田空港がある東京・大田区には、そんな定番を凌駕する伝説のメニューが存在するという。
「たこぺったん」って知ってますか?
大田区民:
たこぺったん!

大田区民:
たこぺったんだけはすごい覚えてます。食べたときの衝撃がさ。
「たこぺったん」!? 一体どんなメニューなのか?

大田区民:
初めて食べた時は、なんだこの天ぷらみたいなのと思って。
と、18年前の記憶を語る男性はさらに、卒業アルバムの好きな食べ物に「たこぺったん」と書いてしまった友人まで紹介してくれた。

「たこぺったん」好きの友人 :
しっかり味濃くて、なんだろう。たこ焼きをぎゅって潰した感じで、もうジャンキーだったんで、美味しかったです。
「たこぺったん」、その謎のメニューはかつて成人式で行われた「今食べたい!思い出の給食」ランキングで堂々の1位を獲得したこともある。

ついには大手スーパーの総菜売り場や駅の立ち食いそばにまで進出してしまったという「奇跡の給食メニュー」。
その復活物語を辿ると、子どもたちのリクエストをどうしても応えてあげたい心優しき栄養士と、大企業の姿勢さえ正してしまう“オラが街の誇り”があった!
ご存じだろうか? 今や、全国区となっている「揚げパン」も、実は東京・大田区が発祥の地であると言われていることを。

きっかけは、戦後の復興期。学校を休んでしまった子供にも届けたいとコッペパンを油で揚げ、砂糖をまぶすことで堅くならずに食べて貰うためだったという。
伝説の給食“たこぺったん”誕生物語
そんな、優しさあふれる大田区で「たこぺったん」が生まれたのは1995年頃のこと。生みの親は、当時、区立中学の栄養士だった尾形文子さん。

「たこぺったん」誕生の物語を、現在79歳になる尾形さんに聞くことができた。
Mr.サンデー取材班:
はじめまして~
尾形文子さん:
こんにちは。
快く取材に応えてくれた、のだが…
Mr.サンデー取材班:
「たこぺったん」はなぜ生まれたんですか?

尾形文子さん:
生まれたっていうか、そんな大それたのじゃなくて、自分としては苦肉の策だった。

と、謙虚すぎるほど謙虚に忘れかけた記憶をたどり始めた。
それは、今からおよそ30年前。ある生徒から給食でたこ焼きが食べたいとのリクエストだったという。
尾形文子さん:(再現)
たこ焼きか〜、給食では無理よね〜

と、頭を抱えたところから始まる。
尾形文子さん:
ああ、子供ってたこ焼きが好きなんだって。でも学校にはたこ焼き器はないし、「さあどうしようかな」とかいろいろ悩んで…
ならば、「揚げればいいのでは?」と考えたものの壁にぶち当たる。
尾形文子さん:
(少なくとも)カロリー考えて、1人2個ぐらいは量的に要るかなと思って。
そう、とにかく、短時間で数百人分を作らねばならない学校給食。
たとえ、1人2個だとしても生徒の倍の数を揚げる必要がある。かと言って、1個を大きくすれば…
尾形文子さん:
(丸いまま)大きいと火の通りが悪くなっちゃうんですよね、芯まで熱が入らない。
実は、学校給食には厳しい衛生基準と同時に厳密な加熱温度管理のルールがある。それらをクリアしつつ、たこ焼きを出すのはやはり無理か… と思った、その時!!
尾形文子さん:
じゃあ、これ潰したらどうかな?と思って、ちょっと潰したんですね。

一見、「かき揚げ」のようだが、味は「たこ焼き」という、不思議なモノが出来上がった。

その時、閃いた名前が…
尾形文子さん:
だから、たこ焼き、たこでしょ?ちょっと潰して、ぺたって…

だから、「たこぺったん」
本人は、何気なく名付けたというが、その可愛いネーミングに子供たちは…
児童:(再現)
ねえ、「たこぺったん」てなに〜?
児童:(再現)
「たこぺったん」っておいしいの?
尾形文子さん:(再現)
はい、はい、食べてのお楽しみ〜!
尾形文子さん:
やっぱり子どもって名前にすごく敏感なのかな?不思議に思ったんでしょうね。今まで聞いたことない名前が出てくるから。
材料の工夫で必要な栄養素も満点
素晴らしかったのは、ネーミングばかりではない。学校給食に必要な栄養も兼ね備えたメニューに仕上がったという。

大田区立志茂田小学校 主幹栄養教諭・平尾綾さん :
開発した尾形さんは、本当に子供の成長を考えて、とてもいい料理を作ってくださったんだなっていうのを、私、栄養士として思っています。
と、実際に「たこぺったん」を作ってくれたのは現役の栄養教諭、平尾綾先生。
確かに、材料をよく見れば、長ネギ、キャベツ、ニンジン、さらには大豆、コーンと盛りだくさん。
大田区立志茂田小学校 主幹栄養教諭・平尾綾さん :
(これ一つで)五大栄養素がすべて含まれていて、栄養満点だと思います。
尾形さんは、あれほどの無理難題にガチガチの制約の中、完璧な形で応えてしまったのだ。
だからこそ、その美味しさは、30年が経った今でも争奪戦が起きるほどだという。
先生:
じゃあおかわり、「たこぺったん」6個あります。欲しい人〜!

児童:
はーい!
児童:
最初はグーじゃんけんぽん。
児童:
いえ~~~い!よっしゃー

児童:
たこぺったんおいしいから勝ってうれしいです。
しかし、時は経ち、生みの親である当の尾形さんは現場を退き、いつしかその存在さえ忘れていた。
成人式で「思い出の給食」第1位に
ところが、ある日、夫から驚きの事実を聞かされる。
尾形さんの夫 :(再現)
おい、たこぺったんって、お前が作ったんだよな!
尾形文子さん:(再現)
たこぺったん…?
尾形さんの夫 :(再現)
なに寝ぼけてんだ!あの、たこぺったん成人式の総選挙で1位になったんだよ!
尾形文子さん:(再現)
(急に思い出し)あ〜~、えぇっ!?
まさかの事態だった。

たこぺったん誕生から19年。
2014年に新成人を対象に行われた「今食べたい!思い出の給食」ランキングで「たこぺったん」は、様々な定番メニューを抑え堂々の1位に輝いていたのだ。
尾形文子さん:
えー!とかって思って。えー、そうなんだと思って。
Mr.サンデー取材班:
退職もされて、まさかそんなに広まってると?
尾形文子さん:
そうそうそう。だからびっくりしたのと、すごいうれしかったですね。
あの苦肉の作が、大田区内に広まったきっかけは 栄養士たちが定期的に集まり行っていたメニューの検討会だったという。

管理栄養士・宅間瑞穂さん:
新しいメニューがあったらね「こういうのありますよ」っていうふうにして、作り方とか…
管理栄養士・窪田ひとみさん:
その時に「たこぺったん」っていうのを。それで子供たちにウケてるっていうので、自分の学校でもやろうっていうことで…
給食メニューを商品化、人気総菜に
だが、物語は、ここで終わらない。
大田区内のソウルフードになった「たこぺったん」に目を付けた男がいた。
イトーヨーカドー大森店の西川晃石店長。

イトーヨーカドー大森店・西川店長:
商品を通じて地域の魅力を発信していきたいというのはずっと思っていたので…
揚げパンに続く大田区ならではの名物を作りたい。そんな思いで西川店長は「たこぺったん」をイベントの目玉にしようとしたのだが…
イトーヨーカドー大森店・西川店長:
お恥ずかしいところなんですけど、だいたい、たこ焼きを潰して揚げたようなものだっていう情報をいくつかのサイトで見つけたので…
さっそく試作してみることにした。
イトーヨーカドー大森店・西川店長:(再現)
はは〜、これならすぐに出来そうだな…
しかし、「たこぺったん」を少々勘違いしていた節があり…

イトーヨーカドー大森店・西川店長:(再現)
うん、うまい!いけるだろ!
部下:(再現)
カリッとして、美味しいですね…
試食会で「これはたこぺったんじゃない」
大田区の企画課職員、市川一さんに仲立ちして貰い、実際の栄養士さんたちに自信満々で味見してもらったのだが…
栄養士:(再現)
(食べて眉をひそめ)ヒソヒソ…
ついには、ハッキリと、こう言われてしまった。
栄養士 :(再現)
申し訳ないけど、これは「たこぺったん」じゃありません!
イトーヨーカドー大森店・西川店長:(再現)
えっ!? ……(フリーズ)
市川さんは、その時の雰囲気をこう話す。

大田区企画課・市川一さん:
本当に場が凍りつくっていうんですかね。もう本当にヨーカドーの店長さんの顔は、見れる状況ではなかったですね。
当然、その場は気まずいまま「お開き」に。仲立ちした市川さんも…
大田区企画課・市川一さん:
西川店長の表情を見ていると、この企画は、これでおしまいなんだと思っていたんですが…
ところが西川店長も、そこで引き下がる男ではなかった。
後日、早朝から学校の給食室に乗りこむと、そこで目にしたのは効率化とは無縁の地道な手作業と子どもたちへの深い愛情だった。

イトーヨーカドー大森店・西川店長:
朝8時半からスタートしてみんなで作られてるんですけど。一つ一つの具材だったり、それを裁断したり、それをきちっとこねて、きちっと成形をして揚げるっていう、工程一つとっても、我々が試作で作ったものとは本当に似て非なるものだという…

こうして、本気でたこぺったんと向き合い始めた西川店長のプロジェクトには、やがて子どもたち自身も加わったという。
児童:
学校で出てる「たこぺったん」は、もっちりしていたり油っぽくなかったりして、イトーヨーカドーさんのものは、少し油っぽかったり、カリカリしていて。

イトーヨーカドー大森店・総菜マネジャー:
売り場に出して(時間が経っても)売れるような商品を置かなきゃいけないもので、ちょっと硬めにわざと揚げてしまっていた部分も…
大人が本気で子どもの願いと向き合ったとき、ただの給食は、いつしか町の誇りになる。

こんな、前代未聞の開発プロジェクトを経て2024年、ついに発売された「たこぺったん」は、なんと1000パック以上売り上げる日もあるという。
イトーヨーカドー大森店・西川店長:
唐揚げとか。天ぷらとかの、いわゆる売れ筋商品と比べても、かなり上位の方に行きまして。

そして、今年の始めには、その評判を聞きつけた駅そばチェーンまでもが「たこぺったん」とのコラボ商品を企画。そこには、子どもたちお手製のポスターまで添えられていた。(※現在は販売終了)
地域独特の「思い出の給食」メニュー
今回、番組では、大田区以外で育った人にも思い出の給食メニューを聞いてみた。
北海道出身:
私、(二海郡八雲町は)函館からちょっとずれたところなんですけど、「二海カレー」っていって、白いカレーが出たりしてました。ホタテとかシーフード系のやつ。
埼玉県出身:
埼玉で言ったら、行田市の「ゼリーフライ」みたいな特産品が、朝霞市の給食でも出たみたいな覚えはありますね、コロッケみたいな感じなんですけど…
長野県出身:
「キムタクごはん」っていう…キムチとたくあんが細かく切って混ぜ込まれてるご飯なんですけど。結構取り合い、おかわりじゃんけんになってました。
きっと、それらのメニューも、誰かの大きな優しさと沢山の苦労があって生まれたものに違いない。
給食は世代を超えた共通記憶に
取材中、尾形さんが見せてくれたものがある。
尾形文子さん:
これは、子供たちに少しでも食べ残しを減らしたいという、一途の気持ちで、こういう図にして表してみたの。自分なりに…

Mr.サンデー取材班:
いろいろ工夫というか?
尾形文子さん:
そう。食べてほしかったから…
それは、どの学年が、どれくらい食べ残したかを一目でわかるようにした残量表。
尾形文子さん:
その日出したものが、すっからかんになくなって返ってくる時ね。あれはやっぱり、すっごいうれしかった。
その願いを叶えたのが、図らずも「たこぺったん」だったと言うわけだ。
「個食の時代」と人は言う。しかし、沢山の友達と同じものを食べ、同じ思い出を刻む給食は、世代を超えた記憶として、町の誇りにさえなりうる最強のツールなのかもしれない。
(「Mr.サンデー」3月1日放送より)
