悔しさの先——Shigekix、挑戦を止めない覚悟
2025年11月9日、東京・両国国技館。20年以上の歴史を誇る世界最高峰の1on1ブレイキンバトル「Red Bull BC One World Final」が、東京では15年ぶりに開催された。
会場を埋め尽くした7722人の観客の視線が注がれる中、一人のB-Boyが準決勝のステージに立った。
Shigekix——2020年、史上最年少で世界王者に輝いたブレイカー。
満を持して臨んだ自国開催のこの大会で、Shigekixは準決勝で敗退した。
対戦相手は同じ日本のB-Boy Issin。 Issinはこの日、優勝を果たし、B-Girl Rikoとともに史上初となる日本人男女ダブル優勝という歴史的快挙を達成する。
だが、その輝かしい結果の陰で、Shigekixが抱えた思いは複雑だった。
バトル後のインタビューで悔しさをにじませるShigekix「悔しいっす。もう本当にそれしかない」——バトルを終えた後、Shigekixはそう口にした。
世界が注目した"カムバック"
「BC Oneはもうロマンがありますね」——大会2日前のインタビューで、Shigekixはそう語った。
誰もが夢見る舞台。ブレイキンの世界で育ったダンサーたちが、必ず一度は憧れる場所。
2020年、新型コロナの影響で無観客開催となったオーストリア・ザルツブルク大会では、当時18歳で史上最年少優勝を果たし世界の頂点に立った。
その後も、全日本ブレイキン選手権3連覇、アジア競技大会金メダル、パリ五輪日本代表と、トップを走り続けてきた。
そして再び、BC Oneの舞台へ。
「本当にこのBC One World Finalっていうステージに立つこと自体がなんかこう毎回覚悟を決めるみたいな感じ」と大会2日前のインタビューで彼は語っていた。
さらに、それが日本、東京で開かれるという意味は特別だった。
「ここで自分が自国開催で日本代表して出るという機会を光栄に思っています。だからこそ最高の姿をみんなに見せて熱くしたいなと思います」——その言葉には、カムバックへの強い決意が滲んでいた。
準決勝、両国国技館で散った夢
Shigekixの体調と気持ちは最高の状態だった。
「かなり体も調子が良くて、そして気持ち的にも2日前なので、正直今はかなりリラックスしている」と語っていた彼は、いつも通りの一日として過ごすことで、フィジカル的にもメンタル的にもベストな状態を迎えられると信じていた。
トーナメントを勝ち上がり、準決勝へ。相手は近年、世界や日本のトップでしのぎを削ってきたB-Boy Issin。
Issinは1回戦で、パリ五輪予選で敗れた因縁の相手Amirに完全勝利で雪辱を果たし、勢いに乗っていた。準決勝は、ハイレベルな攻防の連続となり、観客を熱狂させた。
だが、結果はIssinの勝利。Shigekixの4年ぶりのBC Oneでの戦いは、準決勝で幕を閉じた。
試合後のインタビューで、Shigekixは自身のパフォーマンスについて冷静に振り返った。
「パフォーマンス自体はいいものが出せてましたし、ダンスで自分の動きでよかったと思う部分とか、最後の最後まで結構エンジンというかエネルギー切らすことなく思いっきり踊れた」
冷静にそう振り返りつつも、出し切ったかと問われれば答えは否である。
「僕が見せたかったのはやっぱり、自分の出身の日本で2個目のベルトを掲げる姿を見せたかった」
BC Oneに3位決定戦はない。準決勝で負けた瞬間、それ以上自分を表現する場はなくなる。
敗戦後の彼の言葉には飾り気はなかった。
「勝ってないやつがカッコよくないと思うので、ちゃんと勝ちたいなと思いますね」
もちろん、勝ち負けがすべてではない。
観客の中には、彼の踊りを一番カッコいいと思ってくれた人もいるだろう。それもひとつの形だ。
しかし、プレイヤーである以上、ちゃんと勝って輝く姿を見せたい。
「本当に勝つ姿を見せたい」——BC One敗退後、その思いを改めて胸に刻んだ。
1週間後の横浜——再び立つステージ
11月16日、横浜赤レンガ倉庫。
BC One敗退からわずか1週間後、Shigekixは「YOKOHAMA URBAN SPORTS FESTIVAL '25」の「SUPER BREAK "Special Edition 5on5 Crew Battle"」に、所属クルーXII After Oursのメンバーとして出場し、優勝を果たした。
そしてこの日のインタビューで、Shigekixは自身の心境をさらに深く語った。
「本当に勝つ姿を見せたい」——その真意
「勝ち負けがすべてじゃないっていうのは本当にそうで、最終的には絶対そうなんですけど」——Shigekixはそう前置きした上で、こう続けた。
「やっぱりこう、自分の中のストーリーとして、やっぱここは勝つと思って挑戦してきてる。これまで数々の大会の中で、もちろん嬉しい結果で終えている時もあるんですけど、それはやっぱりオリンピックだったりとか、何度もここ絶対勝ちたいっていうところで勝てていないっていうのは悔しい。はたから見るとというか、応援してくださっている皆さんとかはずっと勝ってるように感じると言っていただけることもあるんですけど、悔しさだけが記憶に残っていて」
周囲からは「ずっと勝っている」と見えるかもしれない。
だが、プレイヤーである彼自身にとっては、「悔しさだけが記憶に残っていて」と語る。
「嬉しい記憶ももちろんあるんですけど、それは自分が結果を残した時に周りが喜んでくれているのを見て、すごく自分もうれしくなるみたいな。だからそういう思い出として残っていて、負けたりとか思うようにいかなかった時の悔しさっていうのはすごく色濃く自分の中で残っている」
悔しさ——それは決してネガティブなものではない。
「それがもちろん悔しいものでありつつ、すでに自分の原動力の源になってるなっていうのはすごく感じる」と彼は語った。
オリンピック後の重圧、そして成長
勝ちきれない試合、それはパリ五輪後の注目の高まりによるプレッシャーなのか——そう問われたShigekixは、意外な答えを返した。
「あまりそれは良い意味で変わらないのかなと思います」
プレッシャー自体は変わらない。だが、彼の視野は広くなっていた。
「自分のこう向いているというか、見ている視野っていうのがいい意味で広くなっていて、いい意味でより上を高みを目指している。自分自身の中で、挑戦と失敗というか悔しい経験の繰り返しをしているのかな」
今年も全日本選手権、世界で権威のある大会の一つであるOUTBREAK、チーム活動も含めて、実際に良い結果も多く出している。だが同時に、試練や悔しい経験も多い一年だった。
「僕にとってはやっぱり多分成長、新たなフェーズを迎える試練みたいな。物語としてまた新たな章に入ったというような感覚なのかなと思いますね」
Shigekix自身のブレイキンは、数年前と比べて「より深く、自分で言うのはおこがましいですけど、良くなってるって成長してるっていうのは間違いない」だからこそ、「乗り越えないといけない新たな壁だったりとか、自分の中でより高みを目指して追いもとめるものっていうのがある」のだという。
ブレイキンを通じた幸せ——子供たちとの約束
パリ五輪を機に、ブレイキンは多くの人にとって身近な存在になった。
Shigekixは全国ワークショップツアーを行い、各地で子どもたちとフロアを囲んできた。
「今年はブレイキンを通して幸せな時間が本当に多かったです。子どもたちの夢や目標を応援しながら、自分も一緒に頑張ると宣言しているので、“ちゃんとやったよ”って姿を見せたいんです」
子どもたちと夢を共有し、「一緒に頑張ろう」と約束したからこそ、自分も背中を見せ続けなければならない。その思いが、彼を前へと押し出している。
新たなShigekix——狭間の時期から飛躍へ
仲間も増えた。後輩の活躍も嬉しい。全国の子供たちと触れ合い、お互いの夢を共有して一緒に頑張ろうと言い合える環境がある。それが強く自分のモチベーションになっている。
「自分にとってかれこれ15年以上ブレイキンをやっていて、常に世界大会だったり国内の大会目標がある中で、ずっと走り続けるっていう生活をさせてもらっているんで、今この時間っていうのはすごくいい意味で、この新たなShigekixの形というのがいま形成されるそんな中、ちょうど狭間の時期なのかなと思います」
そして彼はこう続けた。
「多分すごくこの後なんか自分が想像もしなかったようなところにたどり着けるような気がしますね」
次なる目標——2026年アジア大会へ
Shigekixの視線は、すでに次の舞台に向いている。
「まずは来年にアジア大会が名古屋で開催されるんですけど、2026年やっぱそこは今回のBC One同様にサポートしてくださっている日本のファンの皆さんの前でいい姿を見せるチャンスなので、僕自身、プレイヤーとしてもそこは挑戦したいなと思える大会」
「そこにまず出場、そしてそこでいいパフォーマンス姿を見せるために、今年来月に控えている世界選手権であったりとか、その後続く国内国際大会でしっかりといい自分の位置を取りながらしっかりと来年のアジア大会につなげていきたいなと思います」
目の前の世界選手権。その先に続く国内外の大会。そしてその全てが、2026年名古屋アジア大会という大きな目標へとつながっている。
彼の挑戦はまだ終わらない。むしろ今、新たな章が始まろうとしている。
(フジテレビ・撮影中継取材部 渡辺大地)
