愛知県幸田町で9月21日、軽トラックで“世界一”を競うレース「Kトラワールドシリーズ」が開かれた。農作業などで活躍する軽トラが、この日はレーシングマシンに変身。わずか1000分の1秒を争う、熱き戦いの裏側に迫った。

■軽トラ“世界一”を決める戦い『Kトラワールドシリーズ』

愛知県幸田町の「幸田サーキット」で9月21日、軽トラばかりの自動車レース『Kトラワールドシリーズ』が開かれた。

全国から集まった軽トラレーサーが、車の改造の程度で分かれたクラスごとにタイムを競う。

ニュースONE
ニュースONE
この記事の画像(18枚)

町中でよく見かけるオーソドックスな見た目の軽トラから、かっこよく文字やラインを装飾したクルマも。

レース用の太いタイヤに交換する様子は、F1レースのピットさながらだ。

ニュースONE
ニュースONE

ドライバーたちは、細かなシフトチェンジを繰り返しながら1000分の1秒単位のタイムを競う。軽トラ“世界一”を決める、熱い戦いが幕を開けた。

■岐阜の庭師・金子さんが参戦 実は「元レーサー」

Kトラワールドシリーズに出場する、庭師の金子大二郎(かねこ・だいじろう 73)さん。昔から木登りが得意で、「その身体能力が、軽トラやカートに生かされている」という。

東京から岐阜に引っ越し、庭師を始めて10年。軽トラは毎日使う仕事の相棒だが、実は大二郎さんはおよそ50年前、全日本カート選手権に出ていた元レーサーだ。

金子大二郎さん:
「庭師で軽トラを使っていて、娘(姪)に『大ちゃん、軽トラのレースがあるよ』と言われて、軽トラ面白そうだなと思って。うちに軽トラが何台も仕事上あるので、やってみようか」

ニュースONE
ニュースONE

休日には、大会本番と同じサーキットで練習する。大二郎さんの軽トラは車高を下げて走りを安定させていて、シートもレース用に取り換えた。

金子大二郎さん:
「G(加速度)がかかったとき、体をしっかりおさえてくれる」

ニュースONE
ニュースONE

記者が特別に助手席に乗せてもらった。

直線でアクセルを思い切り踏むと、軽トラはぐんぐん加速して時速120kmに達し、ジェットコースターのような速さを感じる。カーブでは体が投げ出せれそうになり、耐えるのに必死だった。

ニュースONE
ニュースONE

金子大二郎さん:
「結構体力使うでしょ。時速150kmは直線で出る。このコースは(直線が)短いので、120kmか130km。農家のおじさんが農道で走っているようなトラックが、サーキットで普通の乗用車より速く走るので、面白くて楽しい」

■ギャップが魅力?“美術の先生”が初出場

大二郎さんと一緒に練習をする岐阜県瑞穂市の寺尾美樹さん(てらお・みき 37)は、今回初めて軽トラのレースに出場する。

寺尾美樹さん:
「スポーツカーが速いのは当たり前じゃないですか。みんなが知っている車で、かつ速くない車が速いっていうのが、ギャップがあって面白い」

ニュースONE
ニュースONE

そんな寺尾さんは、普段は中学校の美術の先生だ。

寺尾美樹さん:
「元々車が好きで、大学生の時に自動車部に入って(レースを)やっていたんですけど。ワクワクが欲しい。私たぶん負けず嫌いなんで、人と競うことが好き」

寺尾さんの“ギャップ”に、同僚は…。

寺尾さんの同僚:
「とてもお美しいというかおしとやか。そんな雰囲気から、こんなレースの話が出てくると思わなかったので、びっくりしました」

ニュースONE
ニュースONE

秘めた闘志は、軽トラレースにぶつけるつもりだ。

■“1000分の1秒”を競う「最速決定戦」スタート

迎えた「Kトラワールドシリーズ」当日。庭師の大二郎さんと寺尾さんはチームを組んで、レース本番に臨む。

サーキットのピットには、個性あふれる軽トラがずらりと並んだ。ド派手な黄色のボディに、荷台にはF1カーのような羽がついているものもあった。

参加者:
「見た目だけね。ウイングといって、飛行機が飛ぶ原理と逆で、地面に押し付ける力が発生する。普通だとスピンしちゃう車が、(地面に)吸い付くようになる」

ニュースONE
ニュースONE

全国から集まった強敵たちを前にしても、大二郎さんは自信満々の様子だ。

金子大二郎さん:
「自分たちはいつも通りトップ狙いでいく」

ニュースONE
ニュースONE

大会では、エンジンやタイヤなどの改造の度合いで8つのクラスに分かれ、サーキット1周のベストのタイムを競う。

寺尾さんは、いちばん“素”の軽トラに近いクラス。大二郎さんは、改造度合いがより高いクラスで出場する。

ニュースONE
ニュースONE

金子大二郎さん:
「狙うは“てっぺんポディウム(表彰台)独占”」

■寺尾さんの挑戦 アクシデントで“一周勝負”に

寺尾さんのタイムアタックが始まった。

しかし、ピットに戻ってしまった。何やら不安そうな表情…アクシデントだろうか。

寺尾美樹さん:
「(エンジンの調子が)よかったと思ったが、今やばいかも」

ニュースONE
ニュースONE

エンジンの温度が上がり、オーバーヒート寸前に。

金子大二郎さん:
「1周アタックのみにした方がいいよ」

大二郎さんのアドバイスを受けて、“一周の勝負”にかけることとなった。

ニュースONE
ニュースONE

寺尾美樹さん:
「まだ1分切れてないので。1分切らないと」

目標タイムは“1分切り”だ。

「負けず嫌い」と言っていた寺尾さん。軽トラレースデビュー戦で念願の59秒台で、見事クラス2位に入った。

ニュースONE
ニュースONE

寺尾美樹さん:
「楽しかったです。まだきょうが始めてのレースなので。初参戦でこれだったら、まだ伸びるかな。これからもやります」

■57秒台前半なるか…大二郎さんのレースは

大二郎さんのクラスでは、“1周57秒台前半”が優勝争いの目安だ。

コースのぎりぎりを狙って快調に走り、1回目の走行での記録は「57.78秒」と、まずまずの滑り出しとなった。

ニュースONE
ニュースONE

しかし、大二郎さんもタイヤの状態を気にしているようだ。

金子大二郎さん:
「温度が熱くなっているせいか、ふにゃーってなる。もしかしてエアー上げたほうがいいかも」

路面の状況に合わせてタイヤの空気圧を調節し、再びタイムアタック。

ニュースONE
ニュースONE

急カーブは体を大きく傾け、直線は一気に加速。

ヘアピンカーブは、数センチのずれが命取りだ。ハンドルを左右に微調整する。

最終カーブはスピードを落とさず、一気に走り抜けた。

ニュースONE
ニュースONE

タイムは「57.491秒」と、57秒台前半をたたき出して見事に優勝を果たした。

金子大二郎さん:
「来年はトレーニングをして、今年のタイムよりは上げようと思います。満足というか楽しい」

ニュースONE
ニュースONE

軽トラの限界を突破する、熱い戦い。大二郎さんたちの挑戦は続く。

東海テレビ
東海テレビ

岐阜・愛知・三重の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。