“天神ビッグバン”で、新たなビルの建設が相次ぐ福岡市中心部。市役所北口の目の前にある、そば処『みすゞ庵』が、入居するビルの再開発に伴い、2025年12月20日で閉店すると発表。「懐かしい味を最後にもう一度」と常連客など多くのファンが詰めかけている。
「閉店前にもう一度」客が行列
そば処『みすゞ庵』は、1952年に開店。以来73年、昼どきの店内は、市役所の職員をはじめ、天神で働く大勢のサラリーマンや買い物客らで常に賑わってきた。

「天神に来たら必ず立ち寄る」という昔からのファンも多い。現在の建物は、1994年10月に完成し、『みすゞ庵』と『ベスト電器』の共同所有となっている。

人気メニューは、『カレー南蛮そば』。出汁の効いた程よい辛さのカレースープが蕎麦によく絡んで、寒くなってきた時期には、体が温まる一品だ。

更に多くの人が注文するのが『カツカレーそば』。カツカレーとソバが、両方楽しめる欲張りメニュー。ランチタイムが終わる頃には、いつも売り切れてしまう。

この日、閉店を知って駆け付けた男性客から「別の所でお店、営業しないんですか?」と尋ねられる『みすゞ庵』社長の小籏三保子さん。「ないです。もうここで最後」と答えると、「もう1回、閉店の日までに伺います。ご馳走様でした」と男性客は、小籏さんにお礼を言って店を後にした。
『ベスト電器』閉店で“引退”決断
惜しまれながらの閉店。市役所前という好立地で、年中、お客が絶えない人気の店をなぜ、閉めてしまうのか?

その理由を小籏さんは、「みなさん、『美味しかった』って言ってくれて、『その美味しかった』に励まされて、ずっとやってきたようなもんですけどね。私も87歳だから、そろそろ辞めなきゃと思っていたんですよ。で、ベスト電器も閉店するから…」と店舗が入るビルが、新しく再開発で壊されることになったのを機に、小籏さんも店を閉めようと決断したと明かす。

『長きに渡るご愛顧に深く感謝申し上げます』。11月15日、閉店を知らせる張り紙を店先に出したところ、早速、別れを惜しむ客が長い列をつくった。

「店の前を通るとカレーの香りがね、ガーンってするんですよ。それがね、最高で」と懐かしそうに店の思い出を語る常連の男性客。「店が閉まるって聞いたんで、久しぶりに食べてみようかと思って」と数年ぶりに足を運んだという客など、『みすゞ庵』の味を惜しむ人達は後を絶たない。

客からの温かい声や閉店を惜しむ声の数々。「みなさん、いっぱい来ていただいて、びっくりです。こんなにお客さんが見えると思わなかった。あの張り紙、出した途端。毎日、食べに来てくださる方が、いっぱいいらっしゃるから、それが嬉しいです」と小籏さんは、満面の笑みを浮かべた。

12月20日の閉店まで1カ月余り。『みすゞ庵』の周りでは、福岡市が“天神ビッグバン”と称して、高さ制限や容積率の規制緩和による民間再開発促進事業が着々と進んでいる。

福岡市役所前の一等地が今後、どのような形に生まれ変わるのか。懐かしい味を惜しみつつ、市民は、様変わりする天神の変貌に期待を寄せている。
(テレビ西日本)
