3年連続の優勝目指す王者・新田(第1シード)黄色のタレント軍団
黄色のタレント軍団、新田高校男子バレー部。
令和に入ってから、春高3回、総体4回の県大会優勝に輝く名門バレー部だ。現在春高県大会2連覇中で、今の3年生の代は県内大会でほぼ負けなし。今年のチームも盤石な布陣で新田史上初、そして県勢最高に並ぶ全国ベスト8を狙う。
今年1月に監督交代 日の丸を背負った新監督が掲げる新田の“多彩なバレー”
今年1月の春高全国大会を最後に、37年間新田男子バレーボール部の監督を務めた門田典久氏が勇退。門田氏はコーチとなり、元全日本セッターの髙橋幸造氏が新たに監督に就任した。松山市出身の髙橋監督は松山工業、近畿大学を経て、2003年にセッターとしてTOYO TIRES(当時V1リーグ)に入団。その後移籍した豊田合成トレフェルサ(現・ウルフドッグス名古屋)時代の2009~10年には、全日本代表にも選出された経歴を持つ。
その髙橋監督は4年前に帰郷。3年間、門田前監督のもと新田のコーチを務め、今年監督に就任したが「プレッシャーはない」と語りチーム作り自信を見せる。その髙橋監督が掲げるのは“多彩なバレー”。一人一人の個性を活かし、攻撃的なチームを構築する。
髙橋監督「セッターの髙木を中心としたフロントバックからの攻撃や、誰がどこからでもクイックや時間差攻撃に参加したりと、多彩な攻撃パターンがあるチーム」

豊富な攻撃パターン 県選抜メンバーだらけの贅沢なアタッカー陣
髙橋監督が掲げる“多彩なバレー”を体現する中心がセッターの髙木大愛(3年)だ。小・中・高と全てのカテゴリーで全国大会に出場。経験豊富なチームの司令塔である。トスワークの質はもちろん、常に周りを俯瞰して見る観察力も髙木の武器。大人しい性格だがチームメイトのコミュニケーションを大切にし、アタッカーのその日のコンディションで上げるトスを変える新田バレーの“顔”である。
その髙木のトスに合わせる攻撃陣は破壊力抜群だ。中央にはエースの増井総二郎(3年)と万能型ミドルブロッカー西谷斗真(3年)が構え、クイックや時間差攻撃を駆使し速くて高い攻撃で相手を翻弄。またサイドやバックからは2年生のアウトサイドヒッター笠松來や期待の1年生ルーキー河野晃大の強烈なスパイクが飛んでくる。
守っては守備職人・金子一心(3年)とキャプテン藤田遼太郎(3年)の安定したレシーブに加え、増井と西谷のブロックで流れを持ち込む。
今挙げた選手らがスタート予想だが、全員が国民スポーツ大会(以下、国スポ)の愛媛県選抜チームのメンバーであり、ほとんどの選手が去年の決勝を経験しているのも強みだ。

「コートに立つ前に10割決まる」重んじる礼儀と規律
髙橋監督「バレーボールで今後ご飯を食べていける選手ははっきり言って少ないと思うが、“バレーボール部にいたことで”ご飯が食べられる子たちを育てたい」
新田バレー部のもう一つの強さの秘訣は礼儀正しさだ。
バレーボール選手である前に人としての部分の指導に力を注いできた。髙橋監督が赴任した4年前、男子バレーボール部の評判はあまりよくなかったと振り返る。改善するため、時に中心選手を野球部の練習に連れていきバレー部と野球部の違いをその目で感じてもらうなどの荒療治に打って出たこともあった。その甲斐あって、部員の評判は今や校内全部活で1.2を争う真面目な部員たちに成長した。「他の先生たちからバレー部員の言動をほめてもらった時が案外一番うれしいんです」と髙橋監督は頬を緩める。
特に今年の3年生は「良い子」が集まった。成績優秀な部員もいたり、クラスでも信頼される生徒が多いという。普段はやや厳格な雰囲気の髙橋監督だが、意気揚々と選手たちのことを話す様子はわが子を自慢しているようだ。
圧倒的実力と経験値で近年の愛媛県高校バレー男子の王座に鎮座し続ける新田が、令和の黄金時代突入へ、一点の曇りなし。

打倒新田!シルバーコレクター 三島(第2シード)が36年ぶりの頂点目指す
令和以降、準優勝の数は春高と総体3回ずつの計6回を数えるシルバーコレクター三島。その6回の決勝はすべて新田に敗れている。対新田への闘志はどの高校よりも強く、メンバー全員が地元出身者で中学からのチームメイト。地元の誇りを胸に、公立の雄が新田一強時代に終止符を打ち、平成元年(1989年)以来の全国出場を狙う。

「中央は新田に劣るがサイドなら負けない」三島のカギはサイド攻撃
三島の武器であるサイド攻撃には鈴木秀太(3年)と眞鍋治貴(2年)がいる。今年の国スポの愛媛県選抜が新田のメンバーで固められる中、三島から鈴木と眞鍋の2人が先発メンバーに入った。
3年生の鈴木秀太は、身長180㎝、体重60kgと線は細いが、シャープな身のこなしで得点を量産する三島のエースだ。鈴木の武器は「守備から攻撃」を一人で遂行できること。レシーブを得意としていて、拾ってから動きが早くそのまま攻撃に移行できる。早いトスとの相性が良く、相手のブロックを置き去りにしたレフトからのストレートラインは鈴木の代名詞だ。
そして2年生の眞鍋治貴。迷いがない力強いスパイクと、決めた後に雄たけびを上げる姿はチームメイトにも力を与える。そして状況に応じて、ブロックの指先を狙いブロックアウトをとりにいくなど、パワーが武器でありながら器用さも持ち合わせる。さらにこの2人は後ろからでも得点を量産でき、彼らを活かすことが三島の生命線。サイドの迫力は県内ナンバー1だ。
国スポを経験した2人は合わせるようにこう話す。
「新田の選手に交じっても通用できた。でも彼らを超えないと全国はない」
間近で数週間を過ごしたからこそ、受けた刺激も大きかった。自分だけが通用しても勝てない。国スポが終わりチームに合流してからは、選抜チームでの経験を惜しみなくチームメイトに伝えた。
堀切元生監督「国スポから帰ってきてから、その2人をはじめ、チーム全体の意識が上がった。新田との差を残りの期間でどこまで縮められるか」

「今年は勝つ」2セット先取から新田に逆転負けした去年の屈辱を晴らす
去年の春高決勝。三島は新田を相手に2セット先取して夢の全国まであと1セットのところまで手が届いた。しかしそこから3セットを返され逆転負け。王者の底力を実感すると同時に堀切監督はベンチで異様な雰囲気を察知していた。
堀切監督「2セット先取したのに選手たちに焦りと迷いが感じられました。“2セット取ってしまった”のような異様な雰囲気が」
堀切監督自身も試合前「(セットを)取られて取って、取られて取って、フルセットで勝つ」と話していただけに、「2セット先取」という圧倒的アドバンテージが重すぎるプレッシャーとして三島にのしかかった。しかし決勝の舞台で新田を追い込んだことは、その後の自信にもつながっている。
堀切監督「今年の子たちとは“優勝するんだ”という意思の共有がしっかりできている」
鈴木秀太選手「地元の仲間でバレーがやりたくて三島を選んだ。公立がこれからも選ばれるためにも新田に勝つ」
もう準優勝はいらない。想定外にも屈しない。地元の誇りを胸に、目指すは春高ただ一つ。昭和、平成と栄冠に輝いた古豪が、令和の時代で新たなスタートを切る。

名門復活へ 伝統を胸に戦う松山工業(第3シード)
今大会のもう一つの注目校が、最多28回の春高出場を誇る名門・松山工業だ。その実力は確かで、今年も新人戦と県総体で3位、四国選手権では三島を上回るベスト4入りするなど、今大会も優勝争いに割って入る。率いる神野智臣監督は「粘ってラリーに持ち込めば勝負になる」と守備の練習に時間を割いてきた。全員でボールに執着し、粘って粘ってエースに託す。ブロックでは佐伯煌平(2年)と三波虎徹(2年)はともに180㎝越え。堅い守備で勝機を見出す。

エースのケガ…穴を埋めらるかが松山工業のカギ
松山工のエースでキャプテン松崎愛樹(3年)。圧倒的なパワーを武器に1年生からレギュラーでチームの絶対的存在だったが、夏に左膝前十字靭帯損傷の大怪我を負った。全体練習には参加しているがまだ万全な状態とは言えない。神野監督も「試合に出せるかは不透明」とし、松崎がいないことも想定してメンバー繰りを進める。
松崎の穴を埋めるのに期待がかかるのがオポジットの亀田隼人(3年)だ。173㎝と高さはないが、自慢の跳躍力で最高到達点はチーム最高320㎝で、キレのあるスパイクで得点を重ねるアタッカーだ。亀田も国スポ選抜チームで全国のチームと戦い「サーブは通用した」と自信を見せ、春高に向けては「自分が主人公になる大会にしたい」と語気を強める。
攻撃を司るセッターは徳永隆之介(3年)。サーブレシーブが乱れても質の良いトスを上げられる技術を持つ。神野監督は「トスに関しては新田の髙木に匹敵すると思う」と最大限の評価をしており、堅い守備で徳永にボールが返ればさらなる爆発力が期待できるチームだ。

明るさがチームの武器 果たして頂点に立つのは…
松山工を取材していて感じるのが陽気さ。練習は自分たちで律し厳しく取り組むが、チーム全員の仲が良く筆者に対しても非常にフレンドリーだ。
松崎愛樹選手「挨拶とかマジめっちゃ良い学校なんすよ!先生や外部の人とすれ違う時も『こんにちは!』ってこれ全員やってるんです!」
松崎選手は澄んだ目でこのように話してくれた。
神野監督は「今の時代、厳しくできないですからね。自由にやらせたらこうなりました」と笑うが、監督と選手の距離が近くフランクなコミュニケーションが多い。練習メニューも一部、選手たちが考えている。
かつて愛媛を席巻し、全国にその名を轟かせた松山工。このブランドに憧れ入学した、栄光の歴史を紡ぐ今の選手たちが第3シードからの大逆転を誓う。
春高バレー愛媛県大会は11月15日に開幕、23日決勝戦。
果たして頂点に立つのはどの高校か。
筆者:佐野快成(テレビ愛媛アナウンサー)

