気持ちが沈んだとき、ふと立ち寄れる場所があるだけで心が軽くなることがある。そんな“居場所”を目指して、地域に開かれた小さな書店が秋田市に誕生した。本だけでなく、人の「好き」が並ぶ棚を通じて、訪れる人同士がゆるやかにつながる。日々の暮らしにそっと寄り添う、新しい憩いの場のかたちを紹介する。

図書館勤務と介護経験から生まれた発想

秋田市民の台所として親しまれる秋田市民市場。その1階に、2025年8月、小さな書店がオープンした。

秋田市民市場の一角にある書店「程々」(秋田市)
秋田市民市場の一角にある書店「程々」(秋田市)
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店の名前は「程々(ほどほど)」。にぎやかな市場の中で、ひと息つける静かな空間が広がっている。

店を開いたのは、秋田市出身で26年間図書館に勤めていた大石美和子さん(50)。祖父の在宅介護を経験したことで、家でも職場でもない「第三の居場所」の必要性を強く感じたという。

「家と職場以外の居場所をつくりたいと思い店を開いた」と語る店主の大石美和子さん
「家と職場以外の居場所をつくりたいと思い店を開いた」と語る店主の大石美和子さん

「気持ちが参っていた時に、家と職場以外の居場所が欲しくなった。それが店を開こうと思ったきっかけ」と大石さんは語る。

好き”を並べる「一箱オーナー制度」

店内には、レシピ本や絵本など店主が選んだ本が並び、読書ができるカウンターも設置されている。

ポン酢やアクセサリーなど本以外のものが並ぶ棚
ポン酢やアクセサリーなど本以外のものが並ぶ棚

だが、目を引くのは本棚に並ぶ“本以外”の品々。ふぐ屋のポン酢、手作りのひまわりのブローチ——その理由は「一箱オーナー制度」にある。

この制度は、本棚の一部を箱として貸し出し、借りた人が自由に本や雑貨を並べることができるというもの。書籍なら月額2100円、雑貨などの物販は3400円。

ハンドメイドの雑貨を並べた棚
ハンドメイドの雑貨を並べた棚

棚主は自分の“好き”を発信でき、訪れた人はその“好き”に触れることができる。

大石さんは「本や物を通して人と人がゆるやかにつながれる。そんな仕組みをつくりたかった」とその真意を語った。

推し活”と交流が生まれる場所へ

現在、棚はほぼ埋まっている状態。日本在来馬の情報をまとめたガイドブックを並べる棚主もいれば、「アートの小部屋」と題した引き出しにハンドメイドのブローチを並べる人もいる。

日本固有の馬が大好きな棚主が自費で制作した本など、棚には個性が光る品々が並ぶ
日本固有の馬が大好きな棚主が自費で制作した本など、棚には個性が光る品々が並ぶ

それぞれの棚に、それぞれの物語が宿っている。

店主の大石さんはこの制度を「推し活の場」としても捉えている。棚主同士の交流、棚主と来店者のつながり——それがこの店の目指す“居場所”のかたちだ。

地域に根ざしたやさしい憩いの場

「すごく頑張ったりつらかったりしたときに、肩の力を抜いてふらっと立ち寄れる場所にしたい」と語る大石さん。

程々を「肩の力を抜いてふらっと立ち寄れる場所にしたい」という大石さん。
程々を「肩の力を抜いてふらっと立ち寄れる場所にしたい」という大石さん。

「程々」は、ふらりと立ち寄れて、心地よく、自分の“好き”を発信できる場所。

本と雑貨、そして人の思いが交差するこの空間は、秋田のまちに新たな憩いの場を提供している。

秋田テレビ
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