全国各地でクマの出没が相次ぎ、人身被害も出ている。秋田県内でもクマの目撃情報は後を絶たず、2025年上半期に寄せられた情報は、前年同期の2倍以上に上る。こうした中、秋田大学大学院の医師グループが、クマから身を守る行動に関する分析結果をまとめた。首の後ろで両手を組んでうずくまる「防御姿勢」が、命を守れる可能性が高いことが分かった。
クマの目撃は前年同期比2倍超
秋田県の情報マップシステム「クマダス」によると、2025年1~6月末までの半年間に寄せられたクマの目撃情報は1364件に上り、前年と同じ時期(513件)の2倍以上となっている。

人身被害も発生し、5月18日には秋田と岩手にまたがる八幡平の観光名所「ドラゴンアイ」を散策するために登山をしていた能代市の40代の男性が、親子とみられるクマ2頭に襲われた。6月21日には五城目町の70代の男性が、自宅の倉庫から出てきたクマと鉢合わせしてけがをした。
県内で人身被害の件数が過去最悪だったのが2023年。70人がクマに襲われた。
この70人のけがの状況などを秋田大学大学院の医師グループが分析。その結果から、いざという時に私たちがとるべき行動が見えてきた。
受傷が多いのは「頭頸部」と「上肢」
研究グループのメンバーの1人で、秋田大学大学院医学系研究科整形外科講座の医師・石垣佑樹さんは、2023年10月に北秋田市の中心部で相次いで5人がクマに襲われた際、当時勤務していた北秋田市民病院でけがをした人の治療にあたった。

この経験から、クマに遭遇してしまった場合に少しでもけがを軽くし、命が助かる方法を探りたいと考えるようになり、2023年にクマに襲われた70人の傷の箇所やけがの程度などを分析した。

それによると、体の複数の部分が損傷を受ける多発外傷、指や手足の切断、全身麻酔による手術が必要だったなど重症の患者は23人だった。
そして傷の場所は、頭・顔・首などの「頭頸(けい)部」と「上肢」が多いという共通点があった。
石垣佑樹医師:
クマが餌を探したり威嚇したりする時に立った状態になる。クマが腕を振り下ろした時に、ちょうど人間の頭や首の辺りに攻撃がくるのではないかと考えている。
「防御姿勢」に一定の効果あり
一方、重症を免れた人のうち7人が、ある行動をとっていたことが分かった。ある行動とは「防御姿勢」で、この姿勢をとった人が全員、重症を免れていたという。

「防御姿勢」とは、首の後ろで両手を組み、うつぶせになったり体を丸めたりするポーズ。クマの攻撃から頭や首、顔、そして腹部を守る最後の手段として秋田県のホームページでも紹介されている。
今回の研究では、この「防御姿勢」が重症を防ぐために一定の効果があることが分かった。

石垣佑樹医師:
今まで実際にうつぶせによる防御姿勢を細かく研究したものはなかった。そこに信頼性をつけられたと思っている。一番大事なことは、クマがいるところに行かないこと。ただ今回の研究を広く知ってもらい、とっさの時、いざという時に一番自分の身を守る確率がある姿勢をとってもらいたい。
クマに襲われ重症を負った人の中には、けがの後遺症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)で元通りの生活に戻れない人も少なくないという。

石垣医師が話す通り、クマに遭遇しないことが一番だが、市街地にもクマが出没するケースが増えている今、命を守れる可能性が高い「防御姿勢」を覚えておくことが大切になりそうだ。
(秋田テレビ)