10月26日から28日までの3日間、マレーシアの首都クアラルンプールでASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議が開催された。
今回の会議では、東ティモールが念願の新規加盟を果たしたほか、「アジア軽視」とされてきたアメリカのトランプ大統領が第一次政権以来8年ぶりに出席。
アメリカ中心に行事が組まれる中、直前のスケジュール変更もあった日々を振り返る。
トランプ大統領に用意された署名式
最大の注目はトランプ大統領の8年ぶりとなる出席だった。会議にあわせて、7月に国境の対立が軍事衝突に発展したタイとカンボジアが和平協定に合意し、停戦の仲介に関わったトランプ氏が署名式に立ち会うことになっていた。
各国首脳の到着を控えた10月24日。
会場のKLCC=クアラルンプール・コンベンションセンター内で署名式の会場を事前取材すると、設営スタッフが慌ただしく準備を進めていた。
テーブル上には、当事者のタイとカンボジア、停戦を仲介したASEAN議長国マレーシア、さらにアメリカのプレートが並んでいた。この部屋周辺のエリアは、翌25日の朝には警備強化のためカーテンで閉ざされ、関係者以外の立ち入りが制限された。
署名式の日時は事前に発表されず、我々は26日夕方に行われるとの情報をもとに準備をしていた。
しかし、25日未明にタイ政府が現国王の母・シリキット王太后の死去を発表。タイのアヌティン首相は王室の儀式に出席するため、署名式を午前中に前倒しするよう関係国のカンボジア、マレーシア、アメリカに要請した。
ただ、トランプ大統領のマレーシア到着が26日午前に予定されていたため、開始時間は直前まで調整された。
トランプ大統領が到着…署名式前倒し
26日午前10時すぎ、クアラルンプールの空港に到着したトランプ大統領は、タラップを降りると、出迎えた民族衣装の人たちの踊りにあわせてダンスで応じ、楽しげに会場へ向かった。
注目のタイとカンボジアの和平合意・署名式は、タイに配慮する形で当初のスケジュールより前倒されて昼すぎに始まった。
トランプ大統領は冒頭、シリキット王太后の死去に触れて哀悼の意を表し、続いて自らの仲介の功績を国際会議の場でアピールした。
トランプ大統領:
「「本当に感動的なことだ。多くの人々が不可能だと言ったことを成し遂げた。この和平協定だけで、おそらく何百万の命を救った」
タイのアヌティン首相とカンボジアのフン・マネット首相も笑顔で称えて握手を交わし、協定には両国があらゆる挑発行為を控えることなどが盛り込まれた。
世界の8つの戦争を終結させた前例のない偉業だとしてノーベル平和賞の受賞に意欲を見せるトランプ大統領に花を持たせた形だが、国境地帯では停戦後も小競り合いが続いたままで、根本的な解決に繋がるかは不透明だ。
アジア太平洋地域でアメリカの影響力強化は…
トランプ大統領はASEAN諸国との首脳会議で、「東南アジアの国々とアメリカは100%共にあり、今後も何世代にもわたり強力なパートナー、友人であり続ける」と述べた。
これまで「アジア軽視」とされてきたが、東南アジアで強まる中国の存在感を留意し、アメリカの影響力を強化して地域の平和と安定に関与する姿勢を見せた。
一方、関税や貿易をめぐる交渉では一部の国と合意に至っていない。
ロシア産の原油購入をめぐり隔たりがあるインドのモディ首相は今回、対面での会議への参加を取りやめ、トランプ大統領との会談を回避した可能性も指摘されている。
日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4カ国で協力する枠組み「クアッド」も2025年中に開催される見通しは立ってない。
27日午前、滞在先のホテルを出発したトランプ大統領は、沿道に集まった人たちに車内から手を振り、2日間のマレーシア訪問に満足した様子で日本へと向かった。
東アジアサミットは日米首脳不在に
今回の会議では、2002年にインドネシアから独立した東ティモールが新たにASEANに加わった。2011年に加盟を申請していて、カンボジア以来26年ぶりの新規加盟で、ASEANは11カ国体制となった。
開会式で念願を果たし目に涙を浮かべたグスマン首相は、日ASEAN首脳会議の際に挨拶に向かった日本の高市首相に敬意を表して手の甲へキスをする一幕もあった。
一連の会議で議長国マレーシアのアンワル首相は、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘やロ
シアのウクライナ侵攻など不安定な国際情勢を念頭に、ASEANの結束とともに、地域の安定のために新たな協調関係を促進すべきだと繰り返した。
27日には、日本、アメリカ、中国、ロシアなどの首脳が意見を交わす最大の山場のEAS=東アジアサミットが開かれた。ただ、この日から来日するスケジュールを組んだトランプ大統領と、その対応が優先された高市首相は出席を見送り、日米の首脳不在での開催となった。
主要議題は、国軍が実権を握り内戦が続くミャンマー情勢や、海洋進出を強める中国とフィリピンの船が度々衝突している南シナ海の領有権問題。
フィリピンのマルコス大統領は南シナ海をめぐり「国際法に基づき毅然とした態度で臨む」と強調し、一部の参加国も賛同した。
一方、中国の李強首相は「地域と世界の平和や発展のため、各国と協力していく」と述べ、双方の主張は例年通り平行線をたどった。
ASEAN関連首脳会議の成果と今後
ASEAN諸国にとって今年の最大の成果は、この地域に大きな影響を及ぼすアメリカのトランプ大統領が出席し、関心を持ち続ける姿勢を公言したことだ。
一方、会場周辺では連日、パレスチナ問題でイスラエルを支援するトランプ政権に反感を抱く人たちによる抗議デモが行われていた。
地政学的な要衝にあり、国際情勢の影響を受けやすいASEAN。首脳会議の成果文書は全加盟国が同意する共同声明ではなく議長声明の発表が定着していて、関係国の足並みを揃えるのが困難な中、議論は南シナ海問題の当事者フィリピンが議長国となる2026年の会議へ持ち越される。
