買い物すらできず劣等感
脱会のきっかけは、信者ではなかった父親の死だった。仏教式で行われた葬式へは参列さえ許されなかった。
その不甲斐なさなどから、心身のバランスを崩し、ある朝、起き上がることさえできなくなった。
幼い頃から母や教会の指示に従って生きてきた。だから脱会後に「自由に行動していい」と言われても困惑した。
スーパーで何を買いたいかさえ選べず、当たり前のことができない自分に強烈な劣等感を抱いた。脱会して20年以上が経つが、今もフラッシュバックは続き、その度に摂食障害や自傷行為を繰り返してしまうという。
宗教2世の共感
銃撃事件の犯行は、自らと同世代の宗教2世によるものだった。
事件を知り、最初に思ったのは「私も山上被告になっていたかもしれない」ということだったという。「いまだに憎い人が大勢いる。彼らのせいで今も苦しめられる」と無力感を語る。

約1年前、ニュースで、山上被告が拘置所に届く手紙全てに目を通していることを耳にし、自らも山上被告に手紙を送ったという。
便箋6枚に、自分と同じ宗教2世だからこそ共感できる思いをしたためた。「あなたの行為は許されないが、同じ境遇で苦しむ人が多くいる。『あなたは一人ではない』と伝えたかった」と振り返る。
命を奪った行為自体には共感できない。しかし、「そこまで追い込まれた境遇と、宗教2世が抱える問題を社会には理解してほしい」と話している。
山上被告の公判は、予備日を含めて19回の期日が指定されており、2026年1月21日に判決が言い渡される。
11月13日からの弁護側証人尋問では、母親や宗教学者、宗教2世の支援を続けてきた弁護士らが、家庭状況や旧統一教会の活動実態について証言する予定だという。
(松岡紳顕)
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