買い物すらできず劣等感

脱会のきっかけは、信者ではなかった父親の死だった。仏教式で行われた葬式へは参列さえ許されなかった。

その不甲斐なさなどから、心身のバランスを崩し、ある朝、起き上がることさえできなくなった。

幼い頃から母や教会の指示に従って生きてきた。だから脱会後に「自由に行動していい」と言われても困惑した。

スーパーで何を買いたいかさえ選べず、当たり前のことができない自分に強烈な劣等感を抱いた。脱会して20年以上が経つが、今もフラッシュバックは続き、その度に摂食障害や自傷行為を繰り返してしまうという。

宗教2世の共感

銃撃事件の犯行は、自らと同世代の宗教2世によるものだった。

事件を知り、最初に思ったのは「私も山上被告になっていたかもしれない」ということだったという。「いまだに憎い人が大勢いる。彼らのせいで今も苦しめられる」と無力感を語る。

約1年前、ニュースで、山上被告が拘置所に届く手紙全てに目を通していることを耳にし、自らも山上被告に手紙を送ったという。

便箋6枚に、自分と同じ宗教2世だからこそ共感できる思いをしたためた。「あなたの行為は許されないが、同じ境遇で苦しむ人が多くいる。『あなたは一人ではない』と伝えたかった」と振り返る。

命を奪った行為自体には共感できない。しかし、「そこまで追い込まれた境遇と、宗教2世が抱える問題を社会には理解してほしい」と話している。

山上被告の公判は、予備日を含めて19回の期日が指定されており、2026年1月21日に判決が言い渡される。

11月13日からの弁護側証人尋問では、母親や宗教学者、宗教2世の支援を続けてきた弁護士らが、家庭状況や旧統一教会の活動実態について証言する予定だという。
(松岡紳顕) 

▼情報募集
調査報道スポットライトは、みなさまから寄せられた声をもとに記者が取材し、社会課題の解決を目指します。「宗教2世を巡る問題」や「旧統一教会を巡る問題」についても継続取材しています。情報提供して下さる方は、ぜひこちらまでご連絡下さい。 https://www.fujitv.co.jp/spotlight/

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(7枚)
松岡 紳顕
松岡 紳顕

フジテレビ 報道局記者。1991年生まれ。
福岡とカナダで育ち、慶應義塾大学法学部、米アメリカン大学WSPジャーナリズム専攻を経て、2015年に全国紙へ入社。
2023年秋にフジテレビに転職しました。
これまでの担当は、知能犯罪、反社会的勢力、宗教2世問題、農水省、宮内庁など。
現在は25年7月に新設された「調査報道統括チーム」に所属し、報道の新しい形を模索しています。
趣味は冬山登山です。不正を働く公務員や権力者、ヘイトスピーチに関する情報提供をお待ちしております。