銃撃事件は“暴発した象徴”

帰国から10年ほどが経ったときに、安倍晋三元総理の銃撃事件が起きた。

冠木さんは「山上被告の行動は絶対に許されない」と前置きしつつ、「教団に家族を壊された痛みや、親を救えなかった無力感は理解できてしまう」と目を伏せる。

事件を、長年放置されてきた宗教2世問題が「最悪の形で暴発した象徴」だと捉えている。

「もっと早く支援や情報が届いていたら、あんな事件は起きなかったかもしれない」

裁判を通じて期待するのが、教団の実情が明るみになることだという。

さらに、今回の裁判を「個人の復讐」ではなく、社会全体が宗教2世の苦しみと向き合う契機にしてほしいと願っている。

「事件後に関心が高まったけど、社会はすぐに忘れてしまうのではないか。私たちのような被害が二度と起きないよう、そうした団体を監視し続ける社会であってほしい」

看護師の夢も断念…

埼玉県に住む40代女性も、裁判に注目する宗教2世の一人だ。

幼少期に母親がキリスト教系新宗教「エホバの証人」の信者になり、女性も教義に沿った生活を強いられた。

友人との付き合いや学校行事への参加は制限され、恋愛や学業よりも布教活動が優先された。周囲からは腫れ物扱いされ、同級生から無視や悪口を受けた。

布教のため、母と各家庭を訪問する際には、同級生宅のインターホンを押すこともあった。その度に「誰も出てきませんように」と、母の背後でうつむき祈った。

大学などの高等教育より、布教活動などを優先するよう求める教義から、将来の目標だった看護師の夢も断念させられた。

持病の足の手術を受けた際には、教義によって輸血拒否を強いられ、「このまま死んでしまうのでは」という恐怖も経験した。