島根・松江市にゆかりの深い文豪・小泉八雲とその妻のセツ。
現在NHKで放送中の朝ドラで2人の物語が注目されている。
そして吉沢亮さん演じる「錦織友一」のモデルで、2人の出会いを橋渡ししたと伝わるのが、英語教師の西田千太郎という人物だ。
その西田氏の松江市内の旧宅から、八雲に関連した手紙や書簡など300点以上の貴重な史料がこのほど発見された。
関係者は「地域の宝」として大きな期待を寄せている。

八雲の“親友”西田千太郎の旧宅から大量の史料

明治時代の松江の教育者・西田千太郎は、松江で教鞭を執った小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が、同僚として最も信頼を寄せた友人である。
千太郎は、八雲と会ったばかりのセツが英語を話せず意思疎通が難しかった時、通訳のような役回りをこなし、2人の距離を縮めたと伝えられている。
その千太郎が暮らした家が、今も松江市の中心部に残されている。

今回この旧宅から発見された史料には、千太郎の日記や八雲が千太郎に宛てた書簡など、八雲と千太郎の深い交流を示す文書が数多く含まれている。
島根大学法文学部の講師で小泉八雲を研究する宮澤文雄氏は「これだけの史料が出てきたので、どのような形で保存するのか、もっともよい活用の仕方を検討していくことになる」と話す。

吉沢亮さん演じる「錦織友一」のモデル西田千太郎 八雲との交流の足跡

この日は、集まった地域住民などに見つかった史料について説明した。
史料には、明治24年ごろから「ヘルン」の名前を見つけることができるという。
そして存在があまり知られていない八雲の写真、千太郎と八雲の関係性の深さを裏付ける文書など300点以上に上る。

その一つが、八雲が千太郎の子どもたちにプレゼントした「ちりめん本」である。

千太郎の日記には「明治27年6月11日、ヘルン氏、小児等ニ日本昔話譚英訳書一箱(二十部)ヲ送ラル」と記されていた。
当時すでに松江を離れていた八雲が、千太郎の子どもの英語の勉強のために日本昔話の絵本を送ったという記述だ。

宮澤講師は「現物が残っているとは思っていなかったので、今回この家から現物が見つかった」と驚きを隠さない。

またこの家を訪れた来客の名簿も発見され、その中にはヘルン(八雲)の名前が25回も登場するという。
そして宮澤講師は「(八雲が)客間の上座に座った」と推測する。

また日記には「明治23年12月19日、ヘルン氏来訪、密柑贈ラル」、「明治23年12月21日、ヘルン氏ラムネ二瓶ヲ贈ラル」という記述もあり、病気のため療養していた千太郎のもとを八雲が手土産を持って何度も訪れていた様子がうかがえる。

宮澤講師は「ヘルンと千太郎の思い出がたくさん詰まった家だと思う」と、旧宅の貴重さを語る。

 築約150年の空き家から「びっくり仰天」の史料発見

これらの史料は、これまで人の目に触れることもなく、タンスや押入れの中で長い間眠っていた。
この旧宅は、千太郎の死後も子孫が住んできたが、約30年前から空き家となってしまい、築150年以上経って朽ちていく一方だった。

そうした中で立ち上がったのが地域の住民だ。
自治会長の今岡克己さんは千太郎の旧宅であることを知っており、空き家になっていたことを心配していたという。
その後、年に数回、県外から家の手入れに来ていた千太郎の子孫に空き家の保全と活用を提案し、借り受けることにした。
そして掃除のために家の中に入ると「びっくり仰天」予想外の発見があったという。

「そうしたら今までわからなかった、知らなかった西田家の歴史、ヘルンからの手紙も出てきている。これは町内会のレベルの話じゃないと」と今岡さんは語る。
そこで宮澤講師などの研究者に相談し、史料の整理を進めることになった。

「地域の宝」に“化ける”ことに期待

宮澤講師は、膨大な史料をデータベース化し分析する予定で、作業は年単位の長期間かかると見ている。
「いろんな研究者の力を借りながら、八雲のことや千太郎の活躍した部分、教育者としての評価を、松江の歴史として改めて考えていくきっかけになる価値がある」と話す。

松江市では小泉八雲の妻・セツがモデルの朝の連続テレビドラマ「ばけばけ」の放送をきっかけに、地域振興に役立てようという動きも出ている。
今岡さんは「ここに日本中からいろんな人が来て、松江にそんな歴史があったのかと学んでいただける場になれば最高」と期待を寄せる。

今岡さんと宮澤講師は、千太郎の功績を広く知ってもらおうと、整理がつき次第、旧宅の見学会や史料の一般公開を検討している。
長い眠りから覚めた史料が、新しい「地域の宝」に“化ける”日も近いかもしれない。

(TSKさんいん中央テレビ)

TSKさんいん中央テレビ
TSKさんいん中央テレビ

鳥取・島根の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。