クマ被害への対策です。2025年度、全国で出没が相次ぎ死者は過去最悪の9人にのぼっています。猟友会員の減少や専門的な知識を持つ人材が不足する中、注目されているのが狩猟免許などを持ち野生鳥獣の捕獲や管理を行う自治体の職員「ガバメントハンター」。全国に先駆け活動している小諸市の「ハンター」を取材しました。
■「ガバメントハンター」が注目
10月17日、小諸市の山林。
小諸市“ガバメントハンター”・桜井優祐さん:
「これが獣道で、下っているのもあるんですが、この辺に(わなが)かけてある」
シカ用のわなの確認をするのは、小諸市農林課の桜井優祐さん(40)です。
市の職員でありながら狩猟免許を持っている桜井さん。野生鳥獣の管理・捕獲も行う「ガバメントハンター」です。
桜井さん:
「(野生鳥獣が)出てきやすい環境がすぐそこにあるので、いかに鳥獣被害をもたらしてしまう個体を管理していくことが重要」
今、「ガバメントハンター」が注目されています。
■過去最悪 クマによる死者
全国で相次ぐクマの出没。県内でも長野市の善光寺周辺に現れるなど里地での目撃も増えています。
人を襲う被害も。秋田県では散歩をしていた女性が襲われけがをしました。
2025年度、クマによる死者は全国で9人に上り、過去最悪となっています。被害急増の要因は、山の餌が少ない、山と里地の境界線がなくなってきていることなどがあげられています。
さらに、捕獲・駆除を担う猟友会員の減少。対策を行う自治体に専門知識を持つ職員が不足していることも要因の一つで、喫緊の課題となっています。
■“公務員化”することが重要
10月10日、県議会有志が阿部守一知事に要望したのが「ガバメントハンター」の導入。狩猟免許や専門的な知識を持つ職員を自治体に置くべきだと説明しました。
阿部知事:
「民間の人たちにやっていただいている状況だと、もし万が一のことがあったときに、行政として中途半端な責任の負い方にならざるを得ない。公務員化することが必要だとかねてから思っていた」
“ガバメントハンター”導入を要望・宮沢敏文県議:
「ガバメントハンターは長野県の小諸市が全国で初めて活用した制度で、とても効果を生じまして、意識も高まった。野生鳥獣と共生していくためには個体調整も必要、その問題点を知識を持った人がやらないとまずい」
小諸市はクマ・イノシシ・シカなどによる農業被害を減らそうと全国に先駆けて2011年に専門の大学教授を「ガバメントハンター」に採用して始めました。
冒頭で紹介した桜井さんは、もともと一般職員として採用されましたが、銃猟や罠猟などの免許があったことから、2023年から「ガバメントハンター」になりました。
小諸市“ガバメントハンター”・桜井優祐さん:
「どう対策を取れば、鳥獣被害が減るのか。ただ防ぐだけでは問題解決に至りませんので、有害鳥獣駆除という形で、駆除の方も積極的に進めていかなければいけない」
この日の業務は設置したわなの確認作業。
小諸市“ガバメントハンター”・桜井優祐さん:
「シカ、イノシシ、クマはもちろん、中型のキツネ、タヌキなど中型獣もいます」
この場所は「保護区」となっていて通常の狩猟は禁止されていますが、国との調整で個体数管理のため市がわなを設置しています。
桜井さん:
「山林からすぐ目の前から畑が広がっていたりと、野生動物が出てきやすい場所に農耕地が広がっているというのが特色かもしれない」
■「専門的知識」「ハンター目線」
ガバメントハンターのメリット(1)「専門的知識」「ハンター目線」
ガバメントハンターが「専門的な知識」と「ハンター目線」でわなの設置などに当たるため野生鳥獣の捕獲数は劇的に増加。ニホンジカは設置前の2010年、年間44頭だったのに対し2016年には311頭と7倍以上に増えました。
桜井さん:
「狩猟者目線、ハンター目線でさまざまな調整とか業務のやり取り、捕獲に関わるやり取りを進めていくことができるというのが大きなメリット」
■「捕獲までの流れがスムーズに」
ガバメントハンターのメリット(2)「捕獲までの流れがスムーズに」
そして、もう一つ大きなメリットが、被害などが発生した場合に「捕獲」までの流れがスムーズになったこと。これまで、クマ被害などが起きるとまず猟友会が現場を確認し行政に報告。行政が捕獲可否を判断し、猟友会へ依頼、実行といった手続きが必要でした。
「ガバメントハンター」が現場に行くことで「確認」から「捕獲依頼」をその場で行えるように。手続きが簡略化され、捕獲までの時間が格段に短くなりました。
実際に真価を発揮した例があります。
2024年、生ごみを一時保管する倉庫にクマが現れました。前日も来ていて生ごみの味を覚えてしまったとみられます。
倉庫の横にわなを設置しましたが、わなには入りません。桜井さんはハンター目線で「わなのサイズが小さすぎるためクマが警戒している」と判断。
通常、わなの交換は2日ほどかかりますが、すぐに猟友会などと相談・連携しその日のうちに大きなわなに変えました。
すると13時間後、再び現れたクマはわなの中へ入り捕獲に至りました。体重10キロほどのオスの成獣でした。
北佐久連合猟友会の市川誠副会長も行政との調整がスムーズになったと話します。
北佐久連合猟友会・市川誠 副会長:
「行政がまず行って、その場でもう捕獲だと言ったら、(猟友会に)依頼をすれば済むという簡単な話になったかなと」
桜井さん:
「現場の判断とか調整については、ほぼ信頼をいただいていると自覚している。任せる、こちらの現場判断をもって実働するよと、その信頼関係の中で、スムーズにいろんな手続きを進められている」
■「緊急銃猟制度」で役割が重要に
その役割がさらに重要となりそうなのが、法改正で2025年9月から施行された「緊急銃猟制度」です。
住宅街などに出没した場合、市町村の判断で銃を使用した捕獲ができるようになりました。
小諸市“ガバメントハンター”・桜井優祐さん:
「実際にこの場面で撃った時に大丈夫かどうか、撃つ方向性、周りの安全管理がこれでいいのか。実際に狩猟をやってる人、銃を取り扱ってる方であればより適切に(判断)できる」
また、民間ではなく「公務員」が現場で指揮することで責任の所在が明確になることもメリットの一つだということです。
相次ぐクマ被害。行政と猟友会などの狩猟者をつなぐ「ガバメントハンター」が今、注目されています。
小諸市“ガバメントハンター”・桜井優祐さん:
「地域性とか、これまでの出没の背景を分析しながら、出没の機会をどう減らしていくか、行政側として考えていきたい。捕獲に従事している皆さんと行政側の橋渡しできるような調整役として、今後も担えれば」