コメの価格高騰が続き政府が増産を打ち出す中、生産規模の拡大につながるとして注目されている栽培方法があります。田んぼに直接種もみをまく「直播栽培」です。
この直播栽培に取り組む岩手県八幡平市の農業法人の今を取材しました。

稲穂がたわわに実った田んぼで、10月3日、八幡平市の農業法人「かきのうえ」が収穫作業を進めていました。

作業を見守る代表の立柳慎光さん(46)は、5年前に生産規模の拡大のためこの会社を立ち上げました。

農業法人「かきのうえ」代表 立柳慎光さん
「例年よりは若干高温の障害だったり水不足は感じていたが、作柄としてはそれほど悪くない」

立柳さんの家は8代続くコメ農家ですが、若いころは家業を継ぐつもりはなかったといいます。

立柳慎光さん
「つらくて汚れて、それでいてお金にならない。子どもの頃思っていたイメージを次の世代に見せたくない。自分のなかではカッコよくきれいに、もうかる農業をしたいと思って始めた」

自分が思い描く農業を実現しようと、立柳さんが5年前から特に力を入れてきたのが「直播栽培」という手法でした。

直播栽培とは、田んぼに苗を植えるのではなく、直接種を播く栽培方法です。
県内で導入している農家はまだ全体の1%未満(県調べ・2024年時点)にとどまっていますが、苗を育てたり田植えをしたりする手間が省け、コストの縮小にも役立つと注目されています。

本来農作業ができない冬に種をまくこともでき、栽培の規模の拡大につながると期待されています。

立柳慎光さん
「極力最低限の人数で、時期をずらして種をまくことによって、人数や機械を増やさないようにして(栽培)面積を増やす」

2025年の直播栽培では猛暑や渇水の影響が懸念されたものの、水の管理を徹底したことで稲は順調に育ち、無事に収穫を迎えました。

立柳さんは、最新機器の導入にも積極的です。

立柳慎光さん
「(ドローンは)露を落とすためにかけている。1~2時間も待てば普通に刈れるが、(待つと)刈れる面積が限られてくるので」

露で濡れている稲を収獲する場合、従来であれば乾くまで待たなければなりませんでしたが、露を風圧で飛ばすことで作業の効率化につなげています。

この日は、春に「あきたこまち」の種もみをまいた1haの田んぼで刈り取りを行いました。

直播栽培は、コメの増産の方針を打ち出した政府も注目している技術で、普及促進を図ろうと、2027年度から補助金を導入することを検討しています。

立柳さんも、農家の高齢化が進み農業を辞める人が増えているなかで、地域全体の生産力を維持するためには直播栽培の技術が欠かせないと考えています。

立柳慎光さん
「今の70代80代の方たちがリタイアすると、ものすごく面積が余ることになるので、今の技術を使って各経営体ごとに、どれほどの面積をカバーできるかがカギになってくると思う」

刈り取ったもみは、2025年春に高校を卒業し農業を始めた長男の恒河さん(19)が運びます。
自分が仕事をするようになって改めて父の偉大さに気づいたといいます。

長男・恒河さん
「(父が)疲れているのは分かるが、朝もめっちゃ機嫌が良くて、そこがすごい」

立柳さんの会社では収穫後、乾燥ともみすりを経て玄米の状態にするまでを自社で行っています。

2025年、JA全農いわてが示した農家への前払い金いわゆる概算金でみると、主力品種のひとめぼれは60kg当たり3万1000円と、2023年の2.5倍になっていて、コメの高値は当面続くとみられています。(2023年は1万2400円)

そうしたなかでも、立柳さんのもとにはコメを求める外食産業の企業などが頻繁に訪れ、JA以上の価格を提示しているといいます。

立柳慎光さん
「今、福岡・大阪・東京、あちこちから年間契約できないかということで、取引の契約の話が来ている」

その一方、立柳さんは、今の状況が続けばコメ離れが進むのではと懸念しています。

立柳慎光さん
「生産者としてはちょっと高いと思う。やっぱり30kg1袋1万2~3000円くらいで売れれば、何とかやっていけるラインじゃないかと思う」

立柳さんは地域の食を守るため、可能な限り継続を断念する農家から農地を借り受けて栽培を続けています。

立柳慎光さん
「今たしかに消費者からすると、高くて買えないような値段になってきている。できるだけ面積をこなして収量を取って、日本人がせめて食べるくらいのコメは作っていきたい」

農業を若者が希望を持てるような産業にしていくため、立柳さんの挑戦はこれからも続きます。

岩手めんこいテレビ
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