10月17日、岩手県北上市の林で見つかった遺体は、クマに襲われ死亡した近くの温泉旅館の男性従業員だったことが、21日、判明しました。
温泉旅館の代表の男性は岩手めんこいテレビの取材に対し、悲痛な胸の内と複雑な心境を語りました。
瀬美温泉代表取締役 岩本和裕さん
「ショックだし、後悔している。言葉では表せない」
北上市の温泉旅館・瀬美温泉の代表取締役・岩本和裕さん(53)は、10月21日の午前、岩手めんこいテレビの取材に応じ、この時点では身元が判明していなかった従業員・笹崎勝巳さん(60)が無事に帰ることを信じ声を詰まらせました。
瀬美温泉代表取締役 岩本和裕さん
「(生還を)信じている、私の中では。『こんなにつらいのか』という時間が、正直あった。ありますよ今も。待つしかない、笹崎を」
瀬美温泉では、10月16日の午前11時過ぎ、露天風呂の清掃作業をしていた笹崎さんが突如行方不明になりました。
現場からは血痕や動物の体毛が見つかっていました。
瀬美温泉代表取締役 岩本和裕さん
「(午前)11時くらいから私と出掛ける予定だった。その前に館内の掃除を指示して、戻らなくて、マネージャーが見に行ったら、そういう状況だった」
17日、温泉から50mほど離れた林で、身元不明の男性の遺体が見つかり、そばにいた1.5mほどのクマを猟友会が駆除。
この上で警察は、遺体はクマに連れ去られた笹崎さんとみて、21日まで身元の特定を進めていたのです。
かつて岩本さんとプロレス団体の経営に携わった縁で、2025年3月から瀬見温泉に妻や幼い2人の娘とともに住み込み、従業員となった笹崎さん。
岩本さんは、毎朝、娘を見送っていた笹崎さんの姿が目に焼き付いていると言います。
瀬美温泉代表取締役 岩本和裕さん
「優しくて本当に家族を大事にしていた。奥さんや子どもへの愛情の注ぎ方は、本当に父親の見本ではないか」
警察は21日に司法解剖の結果などから遺体は笹崎さんと断定。
背中と首の損傷からクマに襲われ死亡したと結論付けました。
瀬美温泉は現在、クマ被害の防止策を検討していて、安全策の整備が終わるまで当面休業となっています。
ほぼ埋まっていたという宿泊予約が、全てキャンセルとなる中、岩本さんは今の思いをこう語ります。
瀬美温泉代表取締役 岩本和裕さん
「まずは、笹崎さんの家族、穏やかな生活を送れるようにしてあげて、それから営業の方は(行う)。当然スタッフもいるので、最低限、理解をいただける態勢を取ってから運営していきたい」
深い喪失感の中、命を守る対策と営業再開との間で葛藤する瀬美温泉。
後を断たないクマの出没で、痛ましい事故が相次ぐ現実が、地域の観光や人々の生活に重くのしかかっています。