全国すべての都道府県で初めて1000円を超えることになった最低賃金。県内では74円上がり、時給1030円に引き上げられます。引き上げ幅は過去最大で県内でも初めて1000円を超えました。適用まであと1カ月。県内の関係者を取材しました。

今年8月に開かれた県内の労働者と経営者の代表などでつくる審議会。現行の時給956円から1030円への引き上げを佐賀労働局長に答申しました。

【佐賀地方最低賃金審議会 甲斐今日子会長】
「なかなか労働者側と使用者側の歩み寄りが認められず、公益見解という形で提案させていただいた。最低賃金の役割、まずは最低賃金近傍で働いている人たちの生活の安定のことを考えなければならない」

引き上げは22年連続。今回の引き上げ額は74円で、時給で示すようになった2002年以降、過去最大となりました。

【県経営者協会 福母祐二専務理事】
「非常に高いという感触を持っている」

そう話すのは県内の280社が加盟する県経営者協会の専務理事、福母祐二さん。
県内の最低賃金を決める佐賀地方最低賃金審議会で20年近く使用者側の委員として携わっています。
今回の審議会では国の目安である“64円”の引き上げ額に対し、全国的な賃金改定状況調査や県経営者協会の会員の平均の賃上げ引き上げ率をもとに当初から“42円”を提示していました。

そもそも最低賃金とは地域における“労働者の生計費”“賃金”“通常の事業の支払能力”を考慮して定めなければなりません。

今年度の改定について審議会は、「県内企業を取り巻く経営環境を踏まえれば、特に中小企業・小規模事業者の賃金支払能力の点で厳しさを増している」とする一方、「生活必需品の高騰により、最低賃金額に近い労働者の生活は一層厳しくなっている」と強調しています。
この決定について福母さんは…

【県経営者協会 福母祐二専務理事】
「今回の決定の根拠が労働者の生計費をメインに考えられていた。その点については非常にバランスを欠いていたのではないかと、使用者側委員5人全員が一致した」

採決では使用者側の委員が退席する場面も。採決時の退席は過去の審議会でも例がなく今回が初めてだということです。
この退席は強い反対の意志を示すためと最低賃金の決定方法について今後の不安や心配の気持ちも含まれていました。

【県経営者協会 福母祐二専務理事】
「大幅な最低賃金の引き上げが2年続いているので、このままだと企業経営が難しいというのを本当に感じている」

取材にあたった川浪さんとお伝えしていきます。

Q.労働者にとっては、賃金が上がるのは歓迎ですが、経営者側にとっては、賃金を上げたい気持ちはあるが、経営への影響を懸念する声も強いようですね。

A.県経営者協会では今回、初めて会員にアンケートを実施しました。
今回の決定について「高い」と回答した企業は7割を超えました。
一方で25パーセントが「妥当」だと回答、労働者の生活を重視している経営者も多いことがわかりました。

「高い」と回答した理由は「人件費負担が増大し経営を圧迫する」「自社の賃上げ率より高い」「決定された引き上げができるほど利益が出ていない」「価格転嫁できないレベル」などがあげられました。
県内の企業は今回の改定をどうとらえているのか取材しました。

鹿島市に本社を構える祐徳薬品工業、医薬品の製造・販売を行っています。
製品は卸業者を通して医療機関に出している分が約8割、残りが薬局や薬店、ドラッグストアに出しています。

【祐徳薬品工業 吉武浩幸代表取締役会長】
「この8割を占めている医療用医薬品は国の薬価制度にかかっていて、価格は法定価格で国が販売価格を決めている。国は“賃金を上げることでその分、価格転嫁してください”と言いながら、薬価は調査をかけ、下げていくという仕組みになっている」

薬価制度では毎年販売価格を調査し、薬価より安く販売していたらそこまで薬価も下げていく仕組みになっているといいます。

【祐徳薬品工業 吉武浩幸代表取締役会長】
「我々としても原材料価格が上がる中で販売価格は下がっていく、人件費も上がるということで、経営的も厳しくなっていく」

祐徳薬品工業では幸いにも今年度の改定で大きな打撃を受けることはなかったといいますが、来年度以降は“対応を考えないといけない”と不安を漏らします。

【祐徳薬品工業 吉武浩幸代表取締役会長】
「今後もこういうふうにどんどん上がっていくようになると、人事制度に手をつけないと対応できなくなる。退職金をやめれば対応できるかもしれない…」

また新しい最低賃金は、法定通りだと10月29日からですが企業側の必要な準備期間への配慮として、3週間ほど先の11月21日から引き上げられることになりました。

【県経営者協会 福母祐二専務理事】
「これほど大幅に上がるとまず資金繰りの問題で金融機関に融資のお願いをする。そうすると通常でも3カ月はかかる。3週間程度では企業の実態、ニーズに応じた引き伸ばし、延期というには物足りない」

国や県はさまざまな支援を行っていますが、国の支援策は申請書類が多く、専門家の助けが必要だったり時間がかかったりするといいます。
また県は他県に比べると企業への支援策に力を入れているといいますが当然、予算に限りがあります。

さらに心配されるのが“年収の壁”を理由とした就労調整です。
11月21日から引き上げられることでパート従業員やアルバイト従業員が扶養から外れないよう年末の繁忙期に働き控えをすることを懸念する企業も多いといいます。

【県経営者協会 福母祐二専務理事】
「九州でいうと、大分や熊本は来年の1月1日発効、こうなると12月の就労調整は回避できる可能が高い」

労働者の処遇改善が期待される一方、十分な価格転嫁が出来ず、企業の負担は大きくなり存続ができなくなれば雇用が失われる懸念もあります。

【県経営者協会 福母祐二専務理事】
「もうこの最低賃金の決め方自体が制度疲労を起こしている、時代に合っていない。そういった見直しの必要性があるという意見がたくさん出ていることから、大きなターニングポイントになるのかな」


【スタジオ解説】
Q.日本では長く続いたデフレから脱して、物価が上がり始めました。連動して賃金が上がることは、日本の経済や私たちの生活にとってもいいことですよね?
A.今年は夏の参院選でも各党がこぞって公約で賃上げを掲げるなど最低賃金の大幅な引き上げに進むムードもありました。
一方、地方の中小企業にとっては、このまま大幅な賃上げが続いていくと事業が継続できるのか、雇用が守れるのか不安も大きいようです。
総論として賃上げには賛成でも決め方や引き上げ幅をめぐっては今後も議論が続きそうです。
ここで特定最低賃金についても紹介します。

特定最低賃金は地域別の最低賃金よりも高く定める必要があると認定されていて、県内ではいずれも製造業の「一般機械」「電気機械」「陶磁器」の3つの産業で設定されています。
今回の最低賃金の大幅な引き上げなどを受け、審議会では特定最低賃金の必要性の有無について現在も議論が続いています。

サガテレビ
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