去る2020年9月28日から10月2日。渋谷でコワーキング兼イベントスペースを運営するPlug and Play Japanが、スタートアップのピッチイベントを開催。

様々な最新サービスの中から、今回プライムオンライン編集部では「メンタルヘルス」に注目。この領域に特化し、スマートフォンのアプリを通じたサービスを提供するスタートアップ2社の代表にインタビュー。

日々の生活で心の悩みを感じた時、どのように対処するのが良いのだろうか? 最初の一歩が分からない事も多いのでは? メンタルヘルスの問題を解決するヒントを探ってみたい。

AIロボとのチャットで感情を記録

感情を記録し、AIロボと会話するスマートフォンアプリ「emol(エモル)」を提供するemol株式会社の千頭沙織(ちかみ・さおり)CEO。大学時代の自身の経験をきっかけに、アプリの開発に着手することに。サービスの詳細やこれまでの経緯について話を聞いた。

―― 「emol(エモル)」とは、どのようなアプリなのですか?

emol(エモル)の画面。AIロボ「ロク」とチャットが出来る
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アプリを立ち上げると、画面に丸くて白いキャラクターが登場します。「ロク」と言うキャラクター型ロボットで、そのAIと会話をしながら感情の記録を残して行きます。

どのような時にその感情になるのか、後から俯瞰して見る事で、メンタルヘルスのケアに役立てます。

―― どのようなきっかけで、このアプリを作る事になったのですか?

重たい話になってしまいますが、私自身メンタルの弱い人間でした。人に言われた事を気にしてネガティブになってしまったり。性格は真面目な部分があり、頑張ってやり過ぎたり。

それで大学時代に、しんどくなってしまって、誰に助けを求めたら良いかも分からず、自殺未遂をしたという経験があります。

その後も引きずって、人と関わることを避けるようになってしまいました。

それで、私のようにうまく人に相談できないような人にも、寄り添える存在が必要なのではと思うようになりました。人の心に寄り添う、癒やしのような存在を作りたい。そう考えたのが、emolを開発するに至ったきっかけです。

千頭沙織(emol株式会社・CEO)

―― 実際に使用しているユーザーの反応はいかがですか?

AIのロクに日々の愚痴を言う方が多いのですが、「○○があってむかつく!」と話しかけている間に、だんだん冷静になり、自分の感情を俯瞰して見ることが出来るという声があったり、後は単純にロクがかわいい、癒やしになる、という感想もあります。

やはり当初想定した通り、「人間ではない存在」が何か心の拠り所になりうるという実感はあります。

―― AIはどれくらいの精度で会話が出来るのでしょう?

正直ユーザーの方からは「おバカ」と言われています(笑)。ただ、AIの設計をする際に「絶対に人間を裏切らない」「絶対にユーザーの味方である」という事を大切にしています。

例えば「今日はこんな嫌なことがあった」と話しかけると、「しんどかったですね」と、共感したり、励ましてくれたり。また嬉しいことがあれば、一緒に喜んでくれるという様に。

まだトンチンカンな返しをする事がありまして、そういう時は愛嬌で許してくださいという感じです。

―― AIロボット「ロク」は、心理カウンセラーの代替となるような存在でしょうか?

よく「心理カウンセラーのリプレイス」と言われる事もありますが、弊社としてはそのようには考えておりません。家族、友達、ペットといった存在を目指しています。心理カウンセラーのように、治療まで行う専門家ではありません。

―― 心理カウンセラーとは異なるという事ですね。とはいえ、心理学を前提にサービスを設計されているかと思いますが、心理学のどの分野をベースにされているのですか?

認知行動療法をベースにしています。「認知の歪み」を正していくというアプローチです。例えば物事を必要以上にマイナスに捉えている場合がありますが、その事に客観的に気づく事で、行動を正していきます。

さらに今進めている事があります。ACT、アクセプタンス&コミットメント・セラピーと言って、認知行動療法の新しいやり方なのですが、問題を解決するよりも、問題自体を受け入れて自分の糧とする、といった考え方です。よりポジティブな方にも効果が見込めます。

今はまだ開発中なのですが、このACTの考え方を用いたデジタルセラピーの機能をアプリに実装する予定があります。

―― 最後に未来についてお伺いさせてください。AIと人間はどのような関係になっていくのでしょう?

弊社では「一人一台ケアロボット」という未来を考えています。AIと言えば「便利なもの」という捉え方があると思うのですが、我々は概念が少し違ってまして、AIを「人間ならざる存在」と捉えていて、今後はそのような存在が重要になってくるのではと。

未来では人間以外の存在が友達になっていて、人間に攻撃してくる事は無く、絶対的に味方をしてくれる。なんでも話せて、心の拠り所になる、家族以外の存在を一人一台持っている。そんな未来の到来を思い描いています。

生体情報でストレスチェック

気軽にストレスチェックを行える「COCOLOLO(ココロ炉)」などのアプリを提供するWINフロンティア株式会社の板生研一(いたお・けんいち)CEO。スマートフォンで生体情報を測定できるのが特徴だ。サービスの詳細やビジネス展開について話を聞いた。

―― WINフロンティアは2011年創業との事ですが、どのような活動をされているのですか?

私は元々ソニーに勤めていました。そこでエレクトロニクスやエンターテインメント事業に携わり、「人の感情を揺さぶるものは何なのだろう?」という事に興味を持つようになりました。

父親が東大でウェアラブルデバイスの研究をしているのですが、そのような機器を利用すれば、生体情報から個人の感情の揺れが分かるのでは?と考え、服に装着するセンサーを用いて、心拍のゆらぎ情報からストレスを見える化する取り組みを始めたのが、創業のきっかけです。

板生研一(WINフロンティア株式会社・CEO)

―― スマートフォンで生体情報を測定できるアプリ「ココロ炉」ですが、これはどのようなサービスでしょうか?

まずスマートフォンのカメラに人差し指を当てます。指先は血液の流れにより皮膚の色や明るさが瞬間的に変化しています。その画像をカメラで検出して、心拍のゆらぎという情報を取得します。

その情報をサーバ側で解析しアプリに結果を返すのですが、「ストレス気味」「リラックスしている」「集中している」「疲れている」といった判定が出ます。

結果に応じて、ちょっとしたソリューションも提案します。200種類以上のアドバイスがありまして。他にも癒やし系の音楽や瞑想を補助するコンテンツなどを提供しています。そんなアプリになります。

「ココロ炉」利用イメージ

―― すごろくのようなゲーム性のある「ココロロドリル」も提供されています。

こちらは法人向けのサービスになります。実際の歩数とも連動しているのですが、マス目を進むと健康に関するクイズが出題されます。体も使いながら、ヘルスリテラシーを上げていくようなアプリです。

健康経営に取り組む企業にとって、もともと健康に問題意識のない方は、なかなか継続しないという悩みがあります。アプリを楽しんでいるだけで、気づいたら続いていた。そのような感覚が大事だと考え、ゲーミフィケーションの要素を取り入れました。

ココロロドリル

―― コロナショックを経験する中で、新たに感じたニーズはありますか?

私自身も在宅ワークを経験するようになり、良い面、悪い面、両面あると思っています。

特にメンタルヘルス面では、やはり人との繋がりが希薄になる事で気持ちが不安定になります。そこをいかにケアできるかという点が大切です。

一方で、満員電車のストレスから解放された、その時間を運動に当てよう、と言った良い面もありました。

いずれにしても、人々の健康に対する意識を大きく変えたのですが、企業にとっては、これまで顔が見える状態だった社員の健康状態を、どのように把握したら良いのかという課題も出てきました。

我々としては新たなビジネスチャンスでもあります。今後は、単にストレスを測定して見える化するだけではなく、健康に関するリテラシーを上げていくサービスを浸透させて行きたいと考えています。

―― 最後になりますが、テクノロジーに関してはどのような分野に注目していますか?

我々は生体情報をセンシングする事で内面を推測していますので、いかに生体情報を簡単に測定出来るかが重要です。

現状では指先をカメラに当てるという能動的な行動を伴いますが、今後はもっと無意識に測定できるテクノロジーが登場するのではと。

例えば顔色だけで判定したり、もしくはセンサーも体に貼り付ける、場合によっては埋め込むという事もありえるかもしれません。

このような非接触のセンサーに関しては、まだまだ伸びしろのある領域だと考えています。

(渋谷のラジオ「渋谷社会部」2020年9月29日放送 / 進行:寺 記夫 プライムオンライン編集部)