購入したばかりの自転車部品に不具合が生じた。
メーカーのカスタマーサポートに電話をかけて相談したところ、その場で
「そのような事象はこれまで報告されていませんので、こちらでは対応できません」
という返事が返ってきた。
「え?」と思ったが、「ここで粘って“カスハラ”と言われたら嫌だなぁ」という考えが頭をよぎり、会話を終了した。
とはいえ困った。前例がないといっても実際に不具合が起きているのだ。
そこで再度電話をかけたところ、別の担当者からすんなり
「保証対象ですので新しいものを交換します」との答えが返ってきた。
最初の電話は何だったのかー。
「今、このような“逆カスハラ”とも言える状況が増えています」
と話すのは「日本ハラスメント協会」の村嵜要代表理事。詳しく話を聞いた。
■昔は「従業員の責任」だったが、今は「客が悪い」
【日本ハラスメント協会 村嵜要代表理事】
“カスハラ”対策が進み、企業はこれまで以上に従業員を守らなければいけなくなりました。
昔はお客さんを怒らせてしまったら従業員が責任を問われることが多かったと思いますが、今は「客が悪い」という風潮が強くなっています。
企業が『カスハラ対応ポリシー』を続々公表し、対応策として「法的措置」や「取引やサポート提供の停止」などを掲げる中で、店やコールセンターのスタッフがポリシーを盾に「ちょっと強気に出やすくなっている」というのはあると思います。
しかし、企業側に落ち度がある場合でも、「“カスハラ”だと思われたくないから」と客が我慢してしまうのは問題です。
これは、“逆カスハラ”につながってしまいます。
正当なクレームという場合も当然あります。
例えばレストランで注文したものと違うものが出てきた場合、指摘するのはごく普通の正しい行為です。
“カスハラ”を意識しすぎて言うべきことも言えなくなってしまうのでは本末転倒。
嫌な気持ちが残らないよう、しっかり伝えるべきです。
注意すべきは「言い方」。
どんなに正しい内容でも、感情的になって怒鳴ったりしたら、“カスハラ”になってしまいます。
冷静に、必要なことだけを指摘するということを意識しておくことが大切です。
〈“カスハラ”とは〉
対価を支払い商品やサービスの提供を受けた際、自分勝手に「正当な根拠なく気に入らないこと」をサービスの域を超えた要求をすること
〈“逆カスハラ”とは〉
正当なクレームをカスハラと拡大解釈、一方的に対応を拒否して客に不利益を与えたり、逆ギレ、暴言、嫌味を言って客を不快にさせたりする行為
■店も客も要注意!「余計な一言」がハラスメントに
最近、私自身が経験したことです。
コンビニで買い物をして帰宅したら、最後に購入したはずのホットスナックが入っていなかった。
引き返してレシートと袋を見せたところ、すぐに用意してもらえました。
本来ならここで終わりです。
ところが…
対応した店員さんが「その場で確認しないお客さんも悪いですよね」と言ったのです。
それまでの「すぐに対応してくれてありがとう」という気持ちが一転しました。
クレームに対する対応はしてくれたけど、余計な一言で不快にさせる…これは“逆カスハラ”につながり、せっかくの対応が台無しです。
同様に、客側も注意が必要です。
正当なクレームを指摘したあとに「もうこんな店来たくないわ」などと捨て台詞を言ってしまうと、“カスハラ”になってしまいます。
期待を裏切られて感情的になってしまう気持ちはわからなくもないですが、カスハラを防止するためには必要な内容だけを的確に伝えてください。
―余計なことは言わない―
大事です。
■「決めつけ」は客に不利益をもたらし“逆カスハラ”に
企業が“カスハラ”対策を進める中で、顧客対応がマニュアル化された一律のものになってきているように感じられます。
もちろん、不当と思われる要求などに対し「うちの会社は対応ポリシーを定めているので、これ以上の対応はできません」ということ自体は正しいことです。
しかし、対応する担当者が、詳細な確認なく「前例がないから(マニュアルにないから」と判断してしまうのは大変危険です。
結果として客が不利益を被ることとなり、“逆カスハラ”になってしまいます。
経験値の高い人ほど、「そんなことはあり得ない。不当な要求だろう」と思い込んでしまいがちです。
しかし、想定外のことや把握していなかったことで顧客にとっての不利益は起こります。
サービスを提供する側は「決めつけずに柔軟に対応していく」ことが大切です。
今後ますます、増えるであろう“逆カスハラ”。
企業は“カスハラ”対策のポリシーを定めるだけでなく、現場のスタッフが適格に実践できるよう、しっかりと落とし込んでいってほしいと思います。
(日本ハラスメント協会 村嵜要代表理事)