継続的にお伝えしている「語り継ぐ戦争の記憶」。
今回は、「学校日誌」に記された戦争です。

宮城学院女子大学の特任教授が膨大な記録を読み解き、教育の現場にどのように戦争が浸透していったのかを研究しています。

宮城教育大学附属小学校。ここに、古い学校日誌が大切に保存されていました。
太平洋戦争末期1945年の日誌です。

『午前0時五分ヨリ、二時卅分ニ至ル間、仙台市内要所大空爆、大火災ヲ生ズ』(宮城師範男子部付属国民学校 昭和20年7月9日より)

短く記録されていたのは1945年7月10日未明に起きた仙台空襲。仙台市中心部が約2時間半に渡って爆撃を受け、炎に包まれたと書かれています。

学校日誌は、日直の教員が学校での出来事を毎日記録するものです。
宮城学院女子大学の大平聡特任教授は、太平洋戦争前後の学校日誌を研究しています。

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「学校日誌だから残った記事というのがある。公文書や新聞にも記録されなかったような地域の小さな集まりなどが記録されているということがある」

大平特任教授は、学校日誌の記録だからこそ見えてくる当時の世相があると考え、県内の150校以上の日誌をくまなく分析しました。仙台空襲については約40キロ離れた現在の大崎市の学校の日誌にも記録されていました。

『仙台市、敵数十機ノ爆撃ヲ受ケ、火焔、天ニ沖スルヲ見ル』(大崎市・清滝国民学校 昭和20年7月9日より)

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「仙台の町の方の空が赤くなっている、明るくなっているのが見えたというのを(これまでの調査で)聞いていた。それを初めて日誌で確認できたのがこの記述。炎そのものが見えたのではなくて、炎が空の雲に反射などして、それが見えたということだと思う」

実は、仙台市内の学校には当時の学校日誌はほとんど残っていません。空襲で焼けたことに加え、積極的に処分されたという見方もあります。

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「(県外の)ある大きな市では、教育委員会がトラックを回して『保存年限過ぎた不要になったものはこのトラックに積め』と言い回収して回ったという」

川崎町には旧支倉国民学校の学校日誌が残されていました。
昭和16年12月8日太平洋戦争が始まった日の記述です。

『午前三時、日米戦争開始ス、永久ニ紀念スベキ日ナリ』(川崎町・支倉国民学校 昭和16年12月8日より)

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「先生たちの中にはこの戦争は勝てないのではないかという気持ちを持つ人多かったと思う。しかし、そんなことをおくびにも出したら、これは非国民と言われてしまうから、絶対口にはできない。」

そして、学校教育の中に戦争が入り込む様子が日誌から見えてきます。

『戦勝祈願ノタメ、若宮八幡宮ニ参拝ス』(大崎市・高倉国民学校 昭和16年12月8日より)

『白鳥神社ニ於テ、戦勝祈願祭アリ、町内児童参列』(村田町・村田国民学校 昭和16年12月10日より)

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「満州事変以後、地元の神社に戦勝祈願をするというのは、ずっと行われてきてることですね。これは勝たなきゃいけない、勝つんだ。そのために我々ができることは何でもしようということで、まず神頼みをする」

戦争はこうして学校の中に少しずつ入り込みました。

戦争が終わった1945年8月15日の記述は様々です。

『大詔ヲ全国臣民ニ対シ、御放送アラセラレタリ恐懼、々々、悲痛、々々、唯動哭アルノミ』(川崎町・川崎国民学校本砂金分教場 昭和20年8月15日より)
(口語訳)『終戦の詔勅が全国民に向けて放送された。恐れかしこみ、深く悲しみ、ただ泣き叫ぶ声があるばかりだった』

『陛下ノ玉音ニ接シ、臣節ヲ全フセザリシ罪萬死ニ値スルヲ感ズ』(気仙沼市・気仙沼国民学校 昭和20年8月15日より)
(口語訳)『陛下のお声に接して、自分が忠義を尽くしきれなかった罪は、死をもって償うほど重いと感じた』

終戦を受けての記述は大きく4つの傾向があると大平特任教授は分析しています。
最も多いのは敗戦を嘆く記述、次いで、玉音放送があったという事実だけの記述、何も書かれていないもの、そして、1割ほどですが平和な国への第一歩と捉えた記述もあったということです。

公の記録ですが、記述には日直の教員の視点が反映されるのが学校日誌の特徴です。

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「負けてこれからどうなるんだろうという思いが一番大きかった人と、戦争が終わった、これから平和な時代を作っていくんだと思った人と、その両極端の間にいろんな人がいたんでしょうね。」

そして、学校日誌は、私たちが「今」を読み解く重要なヒントになると話します。

宮城学院女子大学 大平聡特任教授
「一体いつ頃から、どんな形で戦争が教育現場に入り込んできたのかを知ることで、もしかすると私たちは自然にその道を歩んでしまっている可能性があるんじゃないかと。そこに気づけるためには、まず過去の実態を知ることだ」

学校日誌に記された戦争は現代の私たちに歴史の教訓を伝えています。

仙台放送
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