神戸の中心地「三宮」と「元町」の境界はどこなのか。長年はっきりとしなかったこの問題に決着を付けようと、“綱引き”が開催されました。
なぜここまで決着がつかなかったのか。
実は現在の「三ノ宮駅」があるエリアは「三宮」という地名ではなかったというのです。
現在の「元町駅」の場所にあった「三ノ宮駅」が街の発展に沿って東側の現在の場所に移ったことがきっかけという歴史的な経緯も見えてきました。
そして綱引きで決まった境界とは。
■昭和初期から神戸の街の象徴「三宮」と「元町」
南は海、北は六甲山に囲まれ、異国情緒ただよう港町・神戸。その中心は、JRや阪急・阪神の駅周辺の「三宮」と、中華街や旧居留地を抱える「元町」です。
関西テレビに残っている昭和10年ごろの街の映像でも、三宮と元町は神戸の象徴として解説されています。
【昭和10年ごろの映像のナレーションより】「ここ三ノ宮駅付近は、大神戸の心臓部でございます」
【昭和10年ごろの映像のナレーションより】「この通りは元町でございます。美しい街でございます」
■「三宮」と「元町」 地元の人でもあいまいな境界線
しかしこの「三宮」と「元町」がどこで分かれるのかはあいまいです。
JR三ノ宮駅前からJR元町駅へと歩きながら、街の人に尋ねると、「三ノ宮駅寄り」の序盤は「三宮」との答えが多数。
しかし、わずか1分ほど西・から「生田筋」のあたりまで進むと「突き当たりのベージュの建物から向こうが元町」と具体的に指さす人もいましたが、「元町」と答える人もいるなど答えが分かれ始めます。
そして「トアロード」より西側では多くが「元町」と回答しましたが、はっきりした境界は見えてきません。
■専門家「住居表示では分かれています」明言も…
神戸の歴史を研究する追手門学院大学の道谷卓教授に話を聞くと、「今の住居表示では分かれています」と明言します。
まずは実際に境界を案内してもらうと、一般的には「元町」と思われがちなトアロードから西側・「大丸神戸店」の北側のエリアも通り過ぎ、たどり着いたのは、その「大丸神戸店」の西側などのエリアを南北に貫く「鯉川筋」です。
この道路を挟んで西が「元町通」、東が「三宮町」だというのです。つまり、街頭で多くが「元町」と口をそろえた場所の一部も、住所上は「三宮町」ということになります。
■専門家「今の三宮は三宮という地名じゃなかった」駅移設で…
一方道谷教授は、「この境界が歴史的に正しいかどうかはちょっと微妙」とも話します。
【追手門学院大学 道谷卓教授】「もともと今の三宮というのは、三宮という地名じゃなかったんです」
道谷教授によると、明治7年、神戸―大阪間に日本で2番目となる鉄道が走った際、「三ノ宮駅」は今の元町駅あたりにありました。
昭和に入り町が東へ発展すると、国は現在の場所へ「三ノ宮駅」を移設し、元の場所には「元町駅」ができました。
【追手門学院大学 道谷卓教授】「駅名を『三ノ宮』にする話が出たとき、反発がありました。勝手に『三宮名乗るな』ということで」
「三宮・元町境界線論争」は、歴史的背景も複雑に絡み合った、とても根深いものだったのです。
■論争に終止符を打とうと開催された「第1回 神戸大綱引き大会」
この根深い論争に終止符を打とうと開催されたのが、「第1回 神戸大綱引き大会」。
チーム「三宮」と「元町」に分かれて、5番勝負で大綱を引き合います。「三宮」が勝てば「トアロードより東が三宮」となり、「元町」が勝てば「京町筋から西が元町」となります。(※行政区分の変更はありません。)
参加したのは地域住民や近隣の企業・店舗など総勢260人。リーダーは百貨店の店長2人が務めました。
三宮側は神戸阪急の杉崎聡店長(55)。「勝ちたいですね。体力つけるために週3回くらい6、7キロ歩きました」と意気込みを語ります。
元町側は大丸神戸店の松原亜希子店長(59)。「元町ラバーズとしては絶対に勝ちたい。法被つくっちゃたんで燃え燃えです」と燃えています。
■“5番勝負”の決着は…
1回戦は「子供・女性の混合」30対30。元町チームの小学生たちが一気に綱を引き寄せて先勝します。
続く2回戦は地元のプロラグビーチーム「コベルコ神戸スティーラーズ」の選手たちが加わり、わずか10秒で元町チームが連勝!。
■「どう見てもこっちが坂になっているから…」と訴えも…
追い込まれた三宮チーム。リーダーの神戸阪急・杉崎店長は「どう見てもこっちが坂になっているから…」と“坂有利”を訴える場面もありましたが、この意見は採用されず…
3回戦、三宮チームは、その杉崎店長自ら綱を握りますが、元町チームの選手たちの「圧倒的な筋肉」の前に“ボロ負け”。
最終的に元町チームが4勝を挙げました。
■「京町筋から西側を『元町』とする」ことに
結果、「京町筋から西側を『元町』とする」ことになりました。
三宮チーム・リーダーの神戸阪急・杉崎店長は「くやしい~。『京町筋』だいぶ向こうですね。まあいいです、頑張りますこの1年」と悔しさをにじませました。
そして元町チーム・リーダーの大丸神戸店・松原店長は「めちゃくちゃ嬉しい。勝つって思ってたので。気持ちがひとつになって(綱を)引くっていうのは素晴らしい」と語りました。
■長年の論争に“平和的な決着”を付けた綱引きを橋下徹さん・太田昌克さんが絶賛
長年の論争に、“平和的な決着”を付けた綱引きを、橋下徹さんも共同通信社・太田昌克論説委員も絶賛しました。
【橋下徹さん】「民間人が境界線の争いを解決しようと思ったら、こういう形でやるじゃないですか。大賛成ですよ。
政治家が境界線を確定しようと思うと、武力の争いになって、それこそ殺し合いになってしまう場合もあるわけです。
今回は『三宮』と『元町』の話だけれども、国と国の境界線の争いは、これが人殺しになってしまうことになるわけだから、こういう知恵っていうものを活用できないのかな。
僕はこれがすごく奥深い、原点の解決策だと思うんです。毎年やるっていうのも、確定させないっていうことで、またミソですよね。こういうことをやることで、両方の町がものすごく仲良くなるんですよね」
【共同通信社 太田昌克論説委員】「“綱を引き合って心を1つ”って。戦いなんですけれども、実はこの2つのコミュニティが絆がより強まるっていう綱引きですよね」
(関西テレビ「newsランナー」2025年10月6日放送)