■注目集まる手作り冊子「ZINE」個性あふれる自由な表現が人気
「手作りの冊子」を意味する『ZINE(ジン)』
出版社が発行する雑誌「MAGAZINE(マガジン)」とは一線を画し、「出版社を通さず、個人が自由に、自費で作った冊子」を指します。
全国各地でZINEの販売イベントが開催され、人気を集めています。
9月に神戸で行われたイベントには、ZINEを販売する作者とこれを買い求める人が800人以上が集まりました。
矢野経済研究所によると、ZINEを含む同人誌の市場規模は急拡大中で、消費金額は2024年度には推計(予測値)1341億円に達しています。
コロナ禍が終わり、販売会の参加者が増加していることなどが要因とみられます。
■マニアックな趣味も「作品」に
ZINEの最大の特徴は「自由」であること。写真・イラスト・エッセイなど、どのような手法でも表現できます。冊子の形も決まったカタチはありません。
会場には超マニアックなコレクターの作品も並びます。吉田さんは昭和のパチンコ店で配られていたマッチのラベルを集めてZINEを制作しています。
「今日の新作はこちらなんですけど、パチンコ屋さんのマッチラベルっていう」と吉田さん。
「こういうのとか、色々あかんやつ・・・ダメか」と少し心配そうに語りながらも、「パチンコ屋さんのものだけを、たぶん私日本イチ集めている」と自信を見せます。
吉田さん曰く『野暮ったい図案が多い』これらのマッチラベルですが、そのパチンコ店が存在した記録として貴重な作品となっています。
■建築士の究極の「妄想」がつまった雑誌
一級建築士の大武千明さんは仕事で感じたモヤモヤをZINE制作に活かしています。
「こんな家あったらいいのになっていうのを思い描くことは結構あって、職業柄、思うことも多いんですけど、それが実現できるのかというと、お客さんの要望と合えばできるけどお客さんがそれを望んでいなければ実現できないですし・・・」
大武さんは万年筆で「究極の理想の間取り図」を描きます。不動産サイトから実在する土地を選び、妄想であっても、プロとして建築基準法を守って図面を書くのだそうです。
「どうせなら高い・・・めちゃくちゃ高い何億円っていう建物を妄想しています」と笑顔で語ります。
次回作のテーマは「汚部屋(おべや)」。
実は大武さん、数年前に体調を崩し、日常生活がままならなくなった時期に「汚部屋暮らし」を経験したそうです。
「いつもはキレイな間取りを書いていますが、決して完璧な人間ではない」
ZINEは、そんな個人的なことをさらけ出したり、吐き出したりできる場所にもなっています。
■大手書店にも並ぶZINE 売り上げの10%を占める書店も
ZINEの勢いは大手書店にも変化をもたらしています。個人の出版物にもかかわらず、書店の棚にずらりと並ぶZINE。
書店員は「はじめは1つの棚だけだったんですけど、それなりに動きがいいので(売れているので)棚3つと、エンド台に置いています」と説明します。
この店ではZINEの取り扱いを始めたところ、全体の売上の10%程度を維持するなど絶好調だそうです。
「人それぞれですけど、1冊の方もいれば、5,6冊まとめて買って帰られる方もいらっしゃいます」と書店員は話します。
紙媒体の売り上げに苦しむ出版業界ですが、ZINEは書店に客が訪れるきっかけになっているようです。
MAGAZINE(雑誌)業界に身を置く元AERA編集長のジャーナリスト浜田敬子さんは「2,3年くらい前からZINEがすごい人気」と注目していたと言います。
「ニッチすぎて大手の出版社では雑誌を作れないような、1000部単位の冊子が”ZINEフェス”や”文学フリマ”という流通する場ができたことが、市場拡大につながった」と、浜田さんは指摘します。
矢野経済研究所によると、ZINEを含む同人誌の消費金額は推計1341億円(2024年度・予測値)。
ZINEが出版業界の救世主となるかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月30日放送)