会期終了が迫る大阪・関西万博。富山から多くの人が訪れているなか、特別な思いを胸に会場を訪れた漁師親子の旅に密着した。彼らが万博で発見したのは「美味しい未来」だった。

未来の食卓を支える親子の想い

閉会を惜しむように、連日20万人を超える人が訪れる大阪・関西万博。「未来社会の実験場」をテーマに様々な社会課題の解決策が提案されている。

この日、富山から訪れたのは朝日町の泊漁協の漁師、山本陽介さんと長男の大海くん(小学5年生)。20年前に子供の頃から好きだった海の仕事に転職した山本さんに対し、大海くんの将来の夢は少し違った。
「ユーチューバーになってパパの魚がおいしいよって言う動画を撮りたい」
大海くんは父親の仕事を手伝う日もあり、「船の運転をしてみたい」と話す一方で、自分なりの漁業の未来像を描いているようだ。
危機に瀕する藻場の現実

2人が万博会場で訪れたのが日本館。

その一角に「あれ藻・これ藻・それ藻」と書かれたコーナーがあった。植物「藻類」に扮したハローキティが展示され、新たなエネルギー源としての活用や自然環境を改善する働きなどその可能性に着目した展示だ。

山本さん親子にとって馴染みのワカメやモズクも展示されていたが、現実はどうだろうか。
「モズクもそうだし、ワカメもそうだし、当たり前のように昔はたくさん生ってて採れたものが採れないんですよ」と山本さんは語る。

灰付けワカメで知られる朝日町では、古くからワカメ漁が盛んに行われていたが、近年その面影はない。高級食材のクロモズクも不漁が続いている状況だ。
「継いでくれればうれしい。だけど環境が変わってきている。子供たちが大きくなって漁業者になった時に。やっていけるのか、すごく不安はある」
救世主となるウニと企業の挑戦

そんな山本さんに光明が指したのが、ベンチャー企業ウニノミクスの朝日町への進出決定だった。ウニノミクスは海洋環境の変化により増加したウニを集めて陸上で養殖し、商品価値を高めて販売する企業だ。

ウニが海藻を食べつくし、「藻場」と呼ばれる豊かな漁場が失われつつある海の救世主としての役割が期待されている。

この企業の紹介動画に山本さん親子が出演。そして、ウニノミクスが商品を供給する回転寿司チェーン「スシロー」の万博会場内の店舗で動画が上映されることになり、山本さん親子が見に来たのだ。

「まわるすしは、つづくすしへ」未来の寿司を味わう


スシローの万博店では「まわるすしは、つづくすしへ」をテーマに、地球温暖化による海水温の上昇に適応し、最新技術で養殖した魚や、ウニノミクスのような海洋環境の改善を図る持続可能な漁業から生まれた「未来の魚たち」が提供されている。


スシロー未来型万博店の広報室、林麻夕美さんは山本親子にこうメッセージを送った。

「これからも美味しいお寿司を食べ続けていくために、こんな技術で将来魚が獲れるとか様々な企業が研究されて、私たちも未来は明るいということを表現したいと思ってますし、どうやって持続可能にしていくか日々考えていますので、みんな頑張っているから、大海くんも大人になって魚を獲る仕事になるかもしれないけど、一緒に頑張っていこうね」
山本さんは「素晴らしい。自分が思っていること、この変化、未来のことが本当に不安で、持続可能な未来につながるような取り組みをしていければいいと思います。本当に勉強になりました」と語った。

ウニノミクスの石田慎太郎社長は「今後も寿司がおいしく食べられるというのが『万博のレガシー(遺産)』として起こってほしい」と期待を寄せる。
2025年大阪・関西万博で示された未来社会が、この先やってくることを願わずにはいられない。未来を生きる子供たちのために。
「万博のスシローの寿司がおいしかったので、また食べたいです」と大海くんは笑顔で語った。