朝晩の暑さも少しだけ和らいで秋の行楽シーズンがやってきた。そんな中、年齢や障害に関係なく誰もが旅を楽しめるように、専門の知識を持ったヘルパーが、お出かけや観光に同行するサービスが注目されている。車椅子でも、介助が必要でも、旅行をあきらめる必要はない。笑顔が生まれる介護の旅に同行した。

専門知識を持つヘルパーが同行

「きょうはよろしくお願いします」

車椅子で観光地・南九州市知覧にやって来た人たちに声をかけるのは、介護旅行を手がけるヘルパーの堤玲子さん。堤さんは、高齢者や障害のある人の外出を支援するための「介護の技術」と「添乗員の知識」を兼ね備えた専門家だ。

堤さんは「介護の技術」と「添乗員の知識」を兼ね備えた専門家だ
堤さんは「介護の技術」と「添乗員の知識」を兼ね備えた専門家だ
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現場で実際に車椅子を押し、出入り口を通ってみる。ぎりぎり通れる幅だ。メジャーで測ってみると66.5cm。このような幅が気になるという。

堤さんたちは県内の観光地や市街地に出向いて、車椅子が通れるスペースがあるか、通路の段差の有無、介助できるトイレがあるかなどを調べ、介護が必要な人の旅に役立つ情報を発信している。

「情報発信を先にすることで現場に来てからショックを受けたり、もっと行けたところがあったという人を減らしたい」と堤さんは語る。

老人ホームから天文館へ、久しぶりの買い物

鹿児島市にある有料老人ホームで、実際の介護旅に同行させてもらった。この日お出かけするのは伊東光子さん(84)。一人で歩くことが難しい伊東さんは、数カ月に一度、堤さんが同行する外出支援サービスを利用している。

お出かけ前の伊東光子さん
お出かけ前の伊東光子さん

「よかで~♪」

メイクもばっちりで、鏡に映る自分を見てウキウキ気分の伊東さん。買い物を楽しみたいと福祉タクシーで鹿児島市の繁華街・天文館へ向かった。

お出かけはいつ以来ですか?とたずねると、「1 ~2カ月?もうちょっと前かな?楽しいです」と楽しそうに話す伊東さん。

車の中でも手を握り合う伊東さんと堤さん。互いの信頼関係がうかがえる
車の中でも手を握り合う伊東さんと堤さん。互いの信頼関係がうかがえる

しかし、介護が必要な人が外出をためらうケースは少なくない。病院への通院や役所への届け出などの外出は介護保険が適用されるが、旅行や買い物、冠婚葬祭などは介護保険が適用されず、外出を諦める人が多いのが現状だ。

そこで注目されているのが利用者が自費で負担する外出支援サービスだ。料金は介護の程度で異なるが、堤さんの会社の場合は4時間で1万2000円から。移動や食事、排泄の介助など介護サービスを受けながらお出かけすることができる。

今回訪れた天文館の老舗洋服店は伊東さんのお気に入りで、2年ぶりに買い物にきた。

「伊東さん元気でしたか?お久しぶりでしたね」

馴染みの店員さんと久しぶりに再会し、さっそく洋服選びだ。

「こんなのは?前開きでどうですか」

事前に利用者が行きたい場所はリサーチ済みのため、少し狭い店内の通路も車椅子でスムーズに移動できる。

「すてき!」

自分の目で見て、触れて納得いくものをみつけるのが買い物の醍醐味。久しぶりの買い物で伊東さんはお気に入りの洋服を買うことができた。

伊東さんの希望を事前に把握することで、楽しくスムーズに買い物をすることができる
伊東さんの希望を事前に把握することで、楽しくスムーズに買い物をすることができる

安心して食事を楽しめるサポート

続いてはお昼ご飯だ。大好きなカレーライスが食べたいという伊東さんの願いに応えてやってきたのは、老舗百貨店・山形屋のレストラン。

「これ(エプロン)していいですか?」

堤さんは衛生用の手袋をつけてご飯を取り分けたり、場合によっては食材をはさみでカットするなど食事の介助もする。そのため、利用者は安心して食事を楽しめる。

レストランで昼食を楽しむ伊東さん(鹿児島市・山形屋)
レストランで昼食を楽しむ伊東さん(鹿児島市・山形屋)

身内の介護経験がきっかけ

利用者に寄り添う堤さん。外出支援サービスの仕事に就いたのは自身の経験がきっかけだった。

「自分自身の身内の介護。父とおばのふたりの車椅子を押したりしてたんですが、(助けてくれる人が)もう一人いたら、もっと遠くに連れて行けるのにと、ずっと思ってきた」

20年前、父親とおばの介護を一手に担っていた堤さん。2人を旅行に連れ出した時の笑顔が忘れられず、2015年に外出支援サービスの会社「UDラボ」を立ち上げた。利用者は年々増え、ちょっとしたお出かけから県内外への介護旅行などたくさんの思い出に寄り添ってきた。

この日お出かけした伊東さんは「最高に楽しかったです。買い物もできたし、天気も良かったし」と笑顔で話した。

「行きたいところに行く、会いたい人に会う、そして楽しんでもらう。どんな方でも何らかの方法でお連れしたり、お連れする方法をお伝えしたり、一緒に外出する方法を考えて行けたらと思います」と堤さん。

自然と笑顔がこぼれる介護旅行。高齢化が進むこの時代に需要はますます高まりそうだ。

(動画で見る:あきらめない旅のかたち 高齢者や車椅子利用者も安心して楽しむお出かけ支援サービスとは 「行きたいところに行き、会いたい人に会ってほしい」

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鹿児島テレビ
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