今回の放送では、菅内閣で初入閣し防衛相として就任した岸信夫氏をスタジオに迎えた。兄である安倍前総理のレガシーをどう受け継ぎ、積み残した課題にどのように取り組むのか。日米豪印の外相会談、対台湾と対中国の関係、イージス・アショアの代替案、さらに現代のサイバー戦に至るまで、外交と安全保障を専門とする宮家邦彦氏をまじえて議論を行った。

日米豪印の外相会談を受け、中国は対話を行う態度を見せるか

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竹内友佳キャスター:
日本時間の6日夕方、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国外相会談が行われました。茂木外相は「4カ国は基本的価値観と自由で開かれた国際秩序強化という目的を共有している」。ポンペオ国務長官は「連携して共産党の腐敗・搾取・威圧から守らないといけない」と具体的な地域名を挙げ発言。岸さん、この受け止めは。

岸信夫 防衛相:
茂木大臣の発言。民主主義、法の支配といった基本的価値観を共有する国が協力していくことは基本的に大事なこと。地域の平和と安全・安心感において大きなメッセージを与えることができたのではないか。

反町理キャスター:
ポンペオ国務長官の発言は、事実上中国を名指ししています。

岸信夫 防衛相:
アメリカとして東アジアの安全保障の状況の厳しさを理解し、対応していくというメッセージはあった。日本はもちろん肌身で感じていること。周辺国と対話をしながら、いかに脅威となる国々をこちらの世界に引き出してくるか。特に中国の場合はそれが必要。

岸信夫 防衛相
岸信夫 防衛相

反町理キャスター:
これは事実上の「対中包囲網」と言い切ってよろしいか。中国からは4カ国がどのように見えるか。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
包囲網などできるわけがなく、そういう性質のものではない。中国の心構え次第で、責任ある国際社会の一員であるために少し話を聞いてみるか、となるかどうか。

反町理キャスター:
今回は外務大臣会談だったが、4カ国の防衛大臣の連携協議は今後どう進むか。

岸信夫 防衛相:
4カ国の防衛大臣会合はまだ特に予定されていないが、それぞれの国が日本にとって非常に大切なパートナーであることは間違いない。地域の安定につなげていくため、ぜひ考えていきたい。

台湾のWHOオブザーバー参加を支援

反町理キャスター:
日本の安全保障において非常に重要な台湾について。中国は台湾のことを核心的利益と表現するが、これに対してアメリカは台湾への武器輸出を拡大している。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
アメリカの外交の専門家であるリチャード・ハースという大物が最近論文を出した。今までのアメリカは台湾について「曖昧戦略」をとり、台湾有事の場合の態度自体を曖昧にしておくことが中国に対するは抑止力になるという考え方。しかしそれでは抑止できないから、台湾へ武力攻撃があればアメリカが守ることを明確にせよと述べている。論文でありアメリカ政府の政策ではないが、これは驚くべきもの。
さらに海兵隊のある大尉は、台湾に米軍が駐留すべきだと言っている。そのような形で明確に台湾を守る意図を示さないとかえって武力攻撃を招いてしまう、抑止のために必要だという議論。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

反町理キャスター:
一方で日本の安全保障から考えても、朝鮮半島有事以上にリスクが高いのが台湾有事だという専門家も多い。そこでまず現状維持を目指すとき、台湾とどう付き合うべきか。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
我々はあくまで1972年の日中共同声明に基づいており、中国に間違ったメッセージを送るべきではない。ただ、海洋でもいろいろな事故や事件がある中、軍事ではなくあくまで海洋警察権の世界においてどのような形で安全を確保するのか。そうした部分で台湾と話し合いを行うことは、私は共同声明に反するとは思わない。

岸信夫 防衛相(左)、蔡英文 台湾総統
岸信夫 防衛相(左)、蔡英文 台湾総統

岸信夫 防衛相:
WHOには台湾がオブザーバーとして参加をしていたが、近年それができなくなってしまった。今回、台湾のコロナ対策は非常にうまくいっている。その知見は国際社会で共有したい。台湾自身も直接共有したいと思う。安全保障とか外交というより人道に近い問題でさえ、中国は台湾の国際社会への参加を認めない。これは改善できる点。日本も台湾のオブザーバー参加を支援してきた。

ミサイルを撃ち落とすのではなく、一発も撃たせないための敵基地攻撃

竹内友佳キャスター:
河野前防衛大臣が計画停止を発表したイージス・アショアの代替策として、防衛省が提示した内容。洋上プラットフォームにイージス艦の構成品を搭載するとして、石油採掘リグのような施設、商船、護衛艦の各イメージ。

反町理キャスター:
陸上のシステムを使うこの3つ以外に海上のイージス艦を増やすという意見も。岸さんの選択肢は。

岸信夫 防衛相:
陸上のシステムをそのまま使うということではないにせよ、有効活用はしていくべきだと思う。自民党内からはイージス艦を増やして対応すべきとの意見もある。従来からのイージス艦と合わせた運用面の負担も考慮し、最善のものを検討していく。

反町理キャスター:
イージス・アショアの計画停止後に浮上したのが敵基地攻撃論。この能力を日本が持つことについて。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
敵基地攻撃能力の議論が始まったのは1956年。60年以上議論している。そろそろ結論を出したらどうですかと私は思う。日本の専守防衛とは一体何なのか。

反町理キャスター:
ミサイル防衛における抑止には「拒否的抑止」と「懲罰的抑止」があるといわれる。これまでの日本は「来たら撃ち落とすぞ」という前者。敵基地攻撃というと後者に広がってくる。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
そのような分類は学者の議論。学問的には正しい。しかし、実際にいかに相手を抑止するかという観点から、どの程度の最小限の対処力が必要かという議論を現実的にすべき。これだけでは議論が先に進まない。

岸信夫 防衛相:
何のための防衛か。我が国の平和と安定、さらに国民の命、平和な暮らしを守るためです。すると本当は、飛んできたミサイルを撃ち落とすということもしたくない。一発も撃たせないようにしたい。そのために最初の一発はとにかく無力化しますよという意思表示として、現行憲法の範囲内で、国際法を遵守し、必要最低限の攻撃力を確保すること。

サイバー攻撃に対しても「専守防衛」遅れを取っている日本

竹内友佳キャスター:
菅総理から岸防衛大臣への就任時の指示には、宇宙・サイバー・電磁波などの領域で優位性を確保しすべての領域を横断的に連携させた真に実効的な防衛力を構築すること、という内容も。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
今まで国会でしてきたような、五感でわかることについてだけの防衛議論の物差しで考えてはダメ。新領域で戦争が始まる時代になっている。ではサイバー攻撃などは武力攻撃なのか。アメリカは10年以上前から議論しそれなりの結論を出している。壊滅的なサイバー攻撃がアメリカに加えられた場合、通常兵力を使ってでも反撃する可能性があるというのが趨勢。そのような状況で日本が何をすべきなのか。

反町理キャスター:
現代のサイバー戦に対して専守防衛という言葉が合うのか、どういう向き合い方をしていけばよいか。

岸信夫 防衛相:
サイバー、デジタルという分野でも専守防衛は基本的な考え方として我が国の前提。ただしこの場合、誰がどう攻撃をしているかの特定さえ非常に難しい。どのように24時間365日監視するか。世界的に見れば日本は遅れをとっている分野。しっかり対応していく。

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