前編集長が『真実の商人』出版へ
ニューヨーク・タイムズ紙はトランプ大統領批判の急先鋒のような存在だが、やはりそれは行き過ぎた偏向報道のようだ。そう指摘したのが、他ならぬ同紙の前編集長なのだから間違いないだろう。
ニューヨーク・タイムズ紙で2011年から14年まで編集長をつとめたジル・アブラムソンさんは『真実の商人』という本を書き上げ来月発売が予定されているが、それを前に、一部のマスコミにその内容が流され報道された。
「偏らない報道」は実現不可能なのか?
先ずニューヨーク・ポスト紙は本の次の部分を引用している。
「(現在の編集長)バケットはタイムズ紙を”野党”にしたくはないと公には言っているが、彼の新聞は紛れもなく反トランプだ」
「記事の見出しには(反トランプの)意見がむき出しに掲げられているし、分析記事とされるものも同様だ」
「タイムズ紙の反トランプ報道が明確になればなるほど、同紙を改革したアドルフ・オックスが1896年に掲げた「恐れもえこ贔屓もなく偏らない報道」という編集の原則は、今の分裂社会では実現不可能だと不信を抱かせることになる」
またフォックス・ニュースは、アブラムソンさんの本の次の部分を重視して引用している。
「タイムズ紙はトランプ政権発足後の6ヶ月間に電子購読者を60万人増やし合計200万人を超えた”トランプ景気”があったことも反トランプ報道を勢いづけた」
「読者のほとんどが進歩派であるタイムズ紙は、数多くの反トランプ報道を掲載し続けることで財政的な報賞を得たのだ。大統領選後は購読者が減るものだが、逆に誰もが予想できなかったほど読者が増えた」
これらの報道が出た後、アブラムソンさんは「タイムズ紙に否定的な部分ばかりが引用されて不本意だ」とAP通信に語っているが、ここまで前編集長が指摘するのはやはり軽視できない。
「(NYタイムズ紙は)反トランプに偏っている」
アブラムソンさんは、ニューヨーク・タイムズ紙初の女性編集長として登用されたが、前任者の男性の編集長に比べて給与が低かったことを「差別」だと訴えたり、英国人女性を主筆に採用しようとして経営陣と衝突し3年間で解任されたが社外での彼女の評価は高く、解任の発表で同紙の株は4.5%下落した。
「私は財布の中に小さなオバマの人形を入れている。時折取り出して、この国に進歩的なアフリカ系の大統領がいたことを思い出すためだ。おかしいかもしれないが、トランプ時代にはそれが安らぎを与えてくれるのだ」
昨年5月アブラムソンさんがガーデアン紙に書いたコラムの一節だ。彼女がトランプ大統領をよしとしない進歩派であることはこれからも明らかだ。その彼女が「反トランプに偏っている」というのだから今のニューヨーク・タイムズ紙の偏向は推して知るべしだ。
それは米国内では「周知の事実」で、読者もそれなりに納得してニューヨーク・タイムズ紙の記事を読んでいるのかもしれないが、問題は同紙を「ジャーナリズムの鑑」のように崇めている日本の場合だ。日本のマスコミが同紙を引用してトランプ大統領のニュースを伝える時は、記事を鵜呑みにしない方が間違いがないだろう。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)