特定危険指定暴力団『五代目工藤会』のトップが逮捕された“頂上作戦”から11年。現在の工藤会と北九州の街の変化を取材した。
工藤会に対するイメージにも変化
一般市民も標的にする凶悪性から、かつて北九州を暴力で支配した特定危険指定暴力団・五代目工藤会。

2014年9月11日。福岡県警が、工藤会のトップだった野村悟総裁(78)の自宅に強制捜査に入り、野村被告とナンバー2で会長だった田上不美夫被告(69)の逮捕に踏み切った、いわゆる頂上作戦から11年が経った。

北九州市の街頭で話を聞くと「事件がしょっちゅう起こっていました。今は、ほとんどない。怖くない。街を歩いていてね」と話す男性や「昔はピストルバンバンでめちゃめちゃやばかったみたいな話は聞いたんですけど、今は全然、そういうのは感じたこと1ミリもないです」と話す女性もいた。

また暴排運動に参加してきた男性は「頂上作戦から、やっぱり官民が一緒になって“暴排”ということでやってきたのが、(良い方向へ)変わっているんじゃないかなというのは最近、感じますね」と話す。街には、工藤会に対するイメージにも変化がみられた。
24時間365日 携帯電源入れっ放し
かつて市民に威圧感を与えていた組事務所は撤去されるなどし、構成員の数もピーク時から大幅に減少している。

工藤会を離脱した元組員たちは現在、どのように生活しているのか。
元工藤会系組員で30代のAさん。数年前に組織を離脱したあとは、それまでの人間関係を断ち切るために街を離れたという。

「刑務所に入ったことがあって、周りの方を見ていると『今回8回目です。今回10回目です』と笑いながら出入りしている方を見て、ちょっと恐怖にかられたっていうのが正直あって、続けていっても一生、塀の中と外を出入りするだろうな」と話す。
組員だった当時は、複数回、刑務所に入っていたというAさん。刑務所の出入りをこの先も繰り返すであろう自身の将来に恐怖を感じ、離脱を決意した。

「組織を離れて一番は、気を張らなくていいことですね。組織内部の人間であろうが、外部の人間であろうが、誰が裏切るか分からない。誰に足をすくわれるか分からない。どこで警察が介入してくるか分からない。あとは組の上の人たちにどう使われるか分からない」

「役職が上の人に1日付いて回るような日もありましたし、携帯を24時間365日電源入れっぱなしで『4コール以内に出なさい。3コール以内に出なさい』みたいな…」

「いま携帯は、基本的に逆にマナーモードにしっ放しで、音が鳴るのが未だに嫌というのが正直あって…、やっぱりある意味トラウマなんでしょうね。それが」とこれまでの生活を振り返る。

現在は、運送業に就いているAさん。収入面の不安はあるものの生きがいを感じているという。
組織にいた事実を話すことはない
「組織にいたときに入ってくるお金は、基本、日銭になんです。毎日毎日、何かしらのお金が入ってくる。今の場合は固定月給。そこから総支給からいろいろな引かれものをして手取りいくらですと。一般の方たちと同様の金銭感覚を持つっていうことにはすごい苦労しました

「今の生活をしてて得になるというか、いいなって思う点は、ちゃんと働けば働いた分、きちんとした報酬ときちんとした評価をしてもらえるということですね。組の方は、そこに絶対、人の好き嫌いっていう感情が入ってきて、そこで足を引っ張られたり、逆に引き上げられたりっていうのが、ものすごく色濃い世界なので。今の生活の方が楽しいって感じているので、そこに戻りたくないっていうのが一番」

Aさんは、自分が工藤会にいた事実を話すことはまずないという。
「それはもうトラブルの種にしかなりません」
「ヤクザしかできんと思いよった」
元工藤会系組員で50代のBさん。野村被告らの逮捕後、組織を離れた。現在は福祉関係の仕事に就いている。

「出所して出てもう事務所も使えないかたち、自分が慕っている人は誰もいなかった」と頂上作戦後を振り返る。長年『ヤクザ』として生きてきた男性。『かたぎ』の世界で生活を始めて感じたことは金銭感覚の違いだったという。

「最初は1ヵ月、これだけ苦労して働いてこれだけかと。工藤会にいた頃は、不安定ですよね。金が入るときは入るし、入らないときは本当、2ヵ月、3ヵ月入らなかったら、自分でどうかせないけんし、そういうときには必然的に悪いことしなくちゃいけないし、お金の有り難みが分かって無駄遣いはすまいと。それから物欲もなくなりましたね、。ブランド品を嵌めろうとか、渡世にいたときみたいにそういうことも一切なくなって目標の100万円も貯めて、それからですね、真面目に生活するのも悪くないなと思ったのは」

「(組織に戻りたいと思ったこと?)一瞬ですけど、よぎりましたけど、一瞬。でも今の会に魅力はないし、すぐ一瞬で消えたですけど。(なぜまだ辞めない人間がいるか?)やることが見つかってないからじゃないですかね。自分がしたいことが。それしかできないと勘違いしてる。自分もそうやったけ。これしかできん、ヤクザしかできんと思いよったけん、(ヤクザを)しよったわけですよ」
福岡県警 組織壊滅のため元組員支援
頂上作戦の開始を境に変わった工藤会、そして北九州の街。しかし福岡県警は、工藤会に対する取り締まりの手を緩めてはいない。
福岡県警の森中正暴力団対策部長は「未だ組員は、資金獲得活動のための犯罪を行っています。今年に入りまして、覚醒剤の密売や賭博、闇金事件等で工藤会組員を逮捕しています。工藤会では、執行部メンバーを入れ替えるなど、組織の再興の動きも見られるところでありますが、総裁の野村、会長の田上の体制が維持されており、特定危険指定暴力団としての危険性、脅迫性は維持されたという状況にあります」と語る。

また離脱支援について森中正暴力団対策部長は「積極的な離脱就労支援を行っておりますので、暴力団からの離脱を希望している組員の皆さんは積極的に相談して頂ければと思います。全力でサポートいたします」と語った。

これまでの生き様でもあった「ヤクザ」の道を断った元組員たち。県警が目指すのは、工藤会の壊滅。そのための捜査と組員たちの離脱支援が共に進められている。
(テレビ西日本)