大阪市北区の立体駐車場で9月9日、生後6カ月の赤ちゃんが頭の骨を折る重傷を負った事故。
同じ型の立体駐車場の協力を得て独自検証したところ、見えてきたのは「車庫内のセンサーなど安全対策が十分でなかった可能性」と最も重要な「ドライバー以外は車庫内に入る前に車から降ろさせる」という原則が守られていなかったのではないかという事態でした。
■生後6カ月の赤ちゃんが重症 事故発生と同型の立体駐車場で検証
9日、大阪市北区の機械式立体駐車場で起きた事故。
【目撃者】「顔が真っ黒な状態になった赤ちゃんが、救急隊員の方に抱っこされてて」
生後6カ月の赤ちゃんが頭の骨を折る重傷を負いました。
なぜ、事故が起きたのか?
「newsランナー」では事故が起きた場所と、同じ型の立体駐車場の協力を得て緊急取材しました。
取材で見えてきたのは事故当時、現場の駐車場で起きていた危険な状況。
【整備業者】「入庫時は、必ず運転手さんだけが入っていただく」
本来、安全であるはずの立体駐車場での事故。その原因に迫ります。
■事故現場では一体何が? 取材で分かった当時の状況「突然パレットが稼働」
多くの人が利用する機械式の立体駐車場で、起きた事故。その時、事故現場では何が起きていたのか。
捜査関係者などへの取材で、事故当時の詳細な状況が分かってきました。
まず被害にあった生後6カ月の赤ちゃんの乗った車は、駐車場に前向きに入ります。
母親は車を降り、ベビーカーを後部座席側のパレットの外に置いて、赤ちゃんをのせます。
その後、3歳の長男が助手席側の後部座席に乗っていたため、母親が左側に行くと、シャッターが閉まり、中に閉じ込められたというのです。
さらに突然、パレットが稼働。時計回りに90度回転し、置いていたベビーカーに当たった結果、パレットの下のおよそ30センチのくぼみに落下したのです。
ベビーカーに乗っていた赤ちゃんは、コンクリートの底に頭を打ちつけ、頭蓋骨を折る重傷を負い、今も入院しています。
■「真っ黒な赤ちゃんが救急隊員にだっこされて」現場を見た人の証言
事故が起きた直後の様子を見ていた人は、当時の様子についてこう語ります。
【事故直後を目撃した人】「(自分が)降りてきた時点で、赤ちゃんは泣いていて、落ちたところや上がってきた瞬間は見ていないんですけど。顔が(汚れて)真っ黒な状態になった赤ちゃんが救急隊員にだっこされていて。恐らくお母さんとお父さん、おじいちゃんか、3人ぐらい大人の方がいたんですけど、みんなが泣いてて」
事故当日の夕方には、被害者の関係者が車を引き取りに訪れ、駐車場の従業員らが謝罪をする場面も見られました。
国土交通省によると、機械式立体駐車場での重大な事故は、おととしまでの17年間で53件起きていて、そのうち死亡事故は16件となっています。
■点検業者に取材 赤ちゃんが落ちた隙間は「メーカーによっては深さ2メートル以上」
今回の事故はいったいなぜ起きてしまったのか。
「newsランナー」では、事故のあった「エレベーター式」と呼ばれるものと、同じ種類の立体駐車場を営業する別の会社を取材。
駐車場の点検などを専門に行っている業者に話を聞きながら、どこに注意すべきポイントがあったのか探ります。
まず車が入庫し、パレットが回る様子を見てみることに。
【P.S関西(点検業者) 末永勝利さん】「隙間ですね」
【ディレクター】「隙間大きいですね」
現れたのはパレットの下の空間。小さな子供であれば、すっぽりと入ってしまう大きさです。
【P.S関西 末永勝利さん】「(この駐車場の)ピットの深さは、浅いほうだと思います」
(Q.これでも浅い方?)
【P.S関西 末永勝利さん】「浅い方です。メーカーによっては深さ2メートル以上のメーカーもある」
■機械の年式やメーカーによっては数が少ない センサーの“盲点”
次に、パレット部分に近づいてみると、“あること”に気が付きました。
(Q.これもセンサー?)
【P.S関西 末永勝利さん】「センサーです。安全装置の一部ですね。このセンサーは、向こうの斜めに走っているもの。ドアが半ドアで開かないかとか、パレットからはみ出してないか、そういった部分を見ます」
パレット付近の様々な場所に張り巡らされたセンサー。車のドアが開いていないか、適切な位置に駐車しているか、などをチェックするためのものです。
その一方でセンサーには“盲点”も潜んでいました。
【P.S関西 末永勝利さん】「この位置だと、感知しない可能性はありますね」
(Q.ドア横ぐらいだと?)
【P.S関西 末永勝利さん】「そうですね」
(Q.パレット外の検知は難しいことも?)
【P.S関西 末永勝利さん】「それは難しいと思います。古い機械の場合は、パレット外のセンサーの数は少ないのは事実」
車に反応するセンサーは多くついている一方、機械の年式やメーカーによっては、パレットの外の人やモノに反応するセンサーの数が少ないことがあるのです。
■事故原因は「センサーの数が少ないか、感知しない所にいた」と点検業者
こういったことを踏まえて修理業者は、今回の事故原因の可能性について、こう話します。
【P.S関西 末永勝利さん】「人も立っている状態で、機械が動いたのならセンサーの数が少なかったのかもしれません。またはセンサーが感知しないところに、たまたまいらっしゃった。中に入られて、お子さんをベビーカーに乗せられて出るまで、結構な時間かかると思うんですね。その時間を係員さんが『出られた』と勘違いされれば、(操作ボタンを)押してしまうことはあり得ると思います」
捜査関係者によると、駐車場のアルバイトの男性は警察の聴き取りに対し、「中に人がいる時にボタンを押した」と話しているということです。
■「最も大切な注意点が徹底されていなかったのでは」と点検業者の指摘
さらに今回の事故では、機械式駐車場を運営する時の「最も大切な注意点が、徹底されていなかったのではないか」と末永さんは指摘します。
【P.S関西 末永勝利さん】「機械式駐車場の中には、運転手だけが入るのが原則。特に子供はこういった隙間とかに落ちる可能性があるので、絶対に(車庫内に)入ってはいけません」
機械式駐車場では、事故のリスクを減らすために、ドライバー以外は車庫に入る前に降りてもらうよう案内するのが原則。
しかし事故当時、車庫の中には、母親と子供2人が入っていました。
取材に協力してくれた駐車場でも、係員が必ずドライバー以外を車から降りるよう呼びかけ、車庫内に人がいないことを確認したうえで、機械を操作することを徹底しているということです。
【P.S関西 末永勝利さん】「パレットの重さだけでも500キロ。車が乗っているとそれ以上。その鉄の塊が回ってくる、それは危険。機械は何に当たっても動こうとする。止まりません。スタートボタン押される係員が、しっかり確認するのが、一番の安全対策だと思う」
生後わずか半年の赤ちゃんが頭を骨折するという痛ましい事故は、防ぐことができなかったのか。
安全管理の徹底が求められます。
■菊地弁護士「『中に人がいない』確認を怠ったのが大きな問題」
駐車場を捜査したアルバイトの男性は「中に人がいるときにボタンを押した」と話しているということです。
菊地幸夫弁護士は「駐車場を操作する人が『中に人がいない』ことの確認を怠ったのが大きな問題」と指摘しました。
【菊地弁護士】「駐車場法という法律がありまして『こういう基準で作らないといけない』という基準、国土交通省が“立体駐車場のガイドライン”というものを定めているんです。
そこには『操作する人が中をモニターで、あるいは直接目視で確認して人がいないときに操作しなさい』とか、『人がいる場合には、センサーが反応して、動かすスイッチを押しても機械が動かない』というような基準を求めているんです。
とにもかくにも、操作する人が『中に人がいない』と確認することを、怠ったかもしれないというところが大きな問題だと思います」
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月11日放送)