親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる、慈恵病院の『こうのとりのゆりかご』
いわゆる『赤ちゃんポスト』、そして病院の担当者にのみ身元を明かして出産する
『内密出産』についてです。これまで国内の病院で唯一、熊本市の慈恵病院だけが取り組んできましたが、今年、東京の病院が新たに受け入れを開始。さらに大阪でも検討が進んでいて広がりを見せている一方で、現場では混乱を訴える声が上がっていることが分かりました。
【3月31日東京での会見 賛育会病院 賀藤均院長】
「本日3月31日午後1時より『内密出産』ならびに匿名での生後4週間以内の赤ちゃんの預け入れである、いわゆる『ベビーバスケット』の取り組みを開始します」
東京・墨田区にある賛育会病院が今年3月末、いわゆる『赤ちゃんポスト』そして『内密出産』の受け入れを始めました。さらに・・。
【6月 大阪・泉佐野市 千代松 大耕市長】
「望まない妊娠であったりとか、誰にも相談できずに結果として悲惨な事件につながってしまうというケースもあるので必要ではないか。行政として、各方面と協力しながら進めていけるのではないかと考えた」
大阪の泉佐野市が自治体主導で来年度にも取り組む考えを表明し6月、市議会が関連予算案を可決しました。
『赤ちゃんポスト』は熊本市の慈恵病院が『こうのとりのゆりかご』として2007年に国内で最初に開設して18年。また『内密出産』は同じく慈恵病院が2019年に導入を表明して6年。ようやく大都市圏で新たな動きが出てきました。それは国内の病院として唯一活動してきた慈恵病院・蓮田 健理事長が長年、願ってきたことでもありましたが・・。
【8月28日慈恵病院・蓮田健理事長】
「日本における、いわゆる『赤ちゃんポスト』とか『内密出産』の方向性が
今変わろうとしていて、岐路に立たされていると思う」
【相談記録 蓮田理事長提供】
5月14日・佐藤さん(仮名)「今もうブラックリストに入ってるはずだけど、どこかでお金借りようと思います」5月18日・さとうさん(仮名)「もうどうしたらいいかわからないです」
これは内密出産を希望して東京・賛育会病院に相談した女性が熊本市の慈恵病院・
蓮田理事長に訴えた内容の一部です。
【8月28日慈恵病院・蓮田健理事長】
「(東京・賛育会病院から)匿名性の撤回を求められ、費用の負担も求められ、
その女性が混乱状態になって(相談してきた)」
慈恵病院には同様の相談がこれまでに15件以上寄せられていて、その後、東日本から慈恵病院に来て内密出産をしたケースが5例に上っているということです。
【8月28日慈恵病院・蓮田健理事長】
「『赤ちゃんポスト』とか『内密出産』という看板は出ているが『どうせ頼っても、名前を明かすよう説得される』と思えば、女性たちは頼らなくなるので、この二つのシステム自体が危うくなってくると思う」
蓮田理事長は女性たちからの相談をもとに8月、賛育会病院に対し匿名性の保障や
内密出産に係る費用などについて回答を求める質問状を提出。
また関係する墨田区や東京都、こども家庭庁へも見解を尋ねる文書を提出しました。
【8月28日慈恵病院・蓮田健理事長】
「日本における、いわゆる『赤ちゃんポスト』とか『内密出産』の方向性が
今変わろうとしていて、岐路に立たされていると思う。今、各医療機関は自分たちの方針でやっている。今回の賛育会病院の動きは病院側のリスクを回避するために
(匿名性の撤回を求め費用負担を求めて)変形し、変質し始めている」
東京・賛育会病院はTKUの取材に対し「慈恵病院から病院長宛ての質問状は受け取ったが、どう対応するかなどについてメディアには答えられない」
また「内容は個人情報に当たるのでコメントはしない」としています。
【9月1日・熊本市役所】
今年7月、熊本市の大西一史市長はフランス・エクサンプロヴァンス市の総合病院を視察しました。フランスでは匿名での出産が法制化されていて国内すべての医療機関で対応しています。
【9月1日・熊本市 大西一史市長】
「(フランスでは)「確立された法律があって運用され、協力する機関がいくつもあって、ちゃんと連携して機能している」
フランスでは匿名での出産を希望する女性を医師や助産師、乳幼児専門看護師、
家族・夫婦間アドバイザーなど多様な専門職がサポート。出産後も国が一貫して女性や生まれた子どもを支援する仕組みが確立されているということです。
【熊本市 大西一史市長】
「予期せぬ妊娠で悩む人たちに対してもきちんと対応していくことを、やはり法律で定めてその体制をしっかり構築するということ。それにより各自治体も民間企業・団体の協力も求めながらやっていく体制がつくられている。国としての姿勢の違いが
やはり大きいなと思った」
慈恵病院の『こうのとりのゆりかご』への赤ちゃんの預け入れは昨年度末までに193人、そして『内密出産』はこれまでに56例に上ります。
『内密出産』をめぐっては慈恵病院には最近、これまでになかった新たな相談も
寄せられています。
【慈恵病院 蓮田健理事長】
「未成年の女性が内密出産を求めて来る。『未成年だからできない』と突き放してしまうと結局頼る所がないので一人でどこかで隠れて出産する可能性がある。殺人とか赤ちゃんの遺棄につながる可能性があるので突き放すことはできない。赤ちゃんが亡くなったりすれば相当後悔すると思う」
法制化されていない日本で新たに取り組む方針の大阪・泉佐野市は、先進事例として
近く慈恵病院や熊本市などを視察する予定です。
【9月1日・熊本市 大西一史市長】
「その後の養育や(子どもの)出自を知る権利の問題だとかいろいろな問題が
どんどん出てくる可能性がある。自治体の長として(『赤ちゃんポスト』に預け入れられたり『内密出産』で生まれた)子どもの名付け親にもなる場合があるので、責任とその重さを私としては伝えられればいいと思っている」
そして蓮田理事長は「これまで慈恵病院が培った18年間の経験を他の地域でも
生かしてほしい」と語ります。
【慈恵病院・蓮田健理事長】
「当初は慈恵病院の職員が赤ちゃんを預けた女性を追いかけて行って説得した時期もあった。『赤ちゃんのためだったら名前を明かすのもありなのではないか』と思ったこともあったが、女性からすると全然そういうつもりはなくて信じて(赤ちゃんを
預け入れに)来ている。『匿名性を保障してくれる』と。私どもと同じような失敗を
一からしてもらいたくない。女性の実情に合わせないと赤ちゃんも助からないので。
他人の失敗を踏み台にしてスタートしてもらいたい。大阪でもぜひ慈恵の失敗を
繰り返さないような形で活動してほしいと思っている」
岐路に立つ『赤ちゃんポスト』『内密出産』。大都市圏へ広がる一方、今なお手探りの状態が続いています。