来年8月に営業を終えるホテル立山の建築史をたどるツアーが来月から始まるのを前に、9日メディア向けに公開されました。

1970年代に建てられたホテルは、当時の面影を残しまるでタイムスリップしたかのような魅力があります。

「こんな高地に建設することが前代未聞のことだった」

ツアーの案内人は大阪公立大学、建築史に詳しい倉方俊輔教授です。

ホテル立山が建設は1969年・昭和44年から始まりました。

中部山岳国立公園内に位置し、自然環境保護の厳しい規制の中で標高2000メートルを超す山岳地帯にホテルを建てるのは、当時、前例のない挑戦でした。

時代は、日本経済が高度成長した絶頂期。1970年の大阪万博の2年後に完成し営業が始まりました。

建物の設計思想は時代を反映し自然環境に対する考え方が今とは違っていたと言います。

*建築史家(大阪公立大学) 倉方俊輔教授
「鉄筋コンクリートでできていて、堅牢なもの。安心感のあるものの中にいるから、この世界と対峙しながら、雄大な自然を眺められることにつながっている」

立山ホテルは冬は、積雪20メートル、気温は氷点下24度にもなる厳しい自然環境に耐える設計が施されました。

*建築史家(大阪公立大学) 倉方俊輔教授
「山岳ホテルはヨーロッパではかなり豊かなリッチなホテルで、(山の)上にながらも地上と同じような暮らしが成り立っていることがホテルそのものということ」

登山が大衆化し多くの人が山を楽しむ時代となる中、ホテル立山は強い自己主張するように屋根は赤く塗られ、併設されている室堂ターミナルが大きな「矢印」を描くようなデザインとなっています。

直線的で規則正しい建築は、自然の中で異質な存在感を放っています。

*建築史家(大阪公立大学) 倉方俊輔教授
「多分わざとこの打放しコンクリートの部分を出して、ここも梁がつなげ合わさって、これほど太いもんが支えられて、向こうに規則的に柱がある。人間が人間の場を作っていくという強さが、さりげなく反映されている」

また、当時を代表する「モダニズム」という建築スタイルが取り入れられた室内は、機能的で合理的なデザインとなっています

*建築史家(大阪公立大学) 倉方俊輔教授
「屋根がいかにもモダニズム的。外から表れている形が、中に入ってもそのまま表れている。規格的な線を使うので、基本的に直線でできている。そういうところもモダニズム。外から見ても装飾らしい装飾はなかったことも」

1つ1つはあえて無造作のように見えるデザイン。しかし全体として美しく調和しています。

*建築史家(大阪公立大学) 倉方俊輔教授
「宮廷風につくろうとか、教会みたいに学校作ろうとか、作る時にその場所、目的、材料、そういったものをフラットに見て、いまにない形でも作っていい。それがモダニズム」

そのモダニズムによる機能性と素朴で優雅な造りは、53年間の厳しい気候にも耐え、大規模な修繕を行わずとも、ラウンジは開業当時とまったく同じ状態を保っています。

今回のメディア向けツアーでは、ラウンジや客室、ターミナルなど11カ所が紹介されました。

まるでタイムスリップしたかのように建築を体感できるツアーは、ホテル開業53年目にして初めて企画されたといいます。

一般向けの建築ツアーは、来月から来年秋にかけて計9回の開催が予定されています。

*立山黒部貫光 ホテル事業部 金森伸一郎部長
「日本に、富山に、こんなすごい所があったことを違う切り口で知ってもらって、ここに来てよかったと最後まで思ってもらえばすごくうれしい」

半世紀を超えて立山黒部アルペンルートの観光の顔となってきたホテル立山。

営業終了までの残りおよそ1年、建築ツアーを通して、その歴史と価値が多くの人の記憶に刻まれていきそうです。

富山テレビ
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