琵琶湖に浮かぶ、沖島。
去年、唯一の交通手段が存続の危機に陥りました。
島のピンチ、その後どうなったのでしょうか。
■日本で唯一、人が暮らす湖に浮かぶ島「沖島」
新年度となった、ことし4月。
【杉浦健介さん】「ちょっと自信がないなあ 口パッサパサやし」
どこか落ち着かない様子なのは、杉浦健介さん。大学を卒業したばかりの、24歳です。
【近江八幡市・小西理市長】「杉浦健介さま、あなたを『近江八幡市地域おこし協力隊』に委嘱します」
この日、市長直々に“あるピンチ”の救世主に任命されました。
滋賀県近江八幡市。琵琶湖に浮かぶ「沖島」。
対岸から定期船で10分。日本で唯一、人が暮らす湖に浮かぶ島です。
古くからの街並みが残り、春には湖岸の道に「桜のアーチ」がかかります。美しい景色が話題となり、観光客はここ10年で2倍に。
その一方で、かつて800人以上いた住民は214人に減少。若者が島の外に出ていき、65歳以上の高齢者が70%以上を占めています。
そんな中、去年、島の住民の生活をおびやかす出来事が起きました。
沖島と対岸を、片道10分で結ぶ定期船の船長の1人が、定年退職。
今の便数を維持するために後継者を探しましたが、高齢化が進む島では見つかりませんでした。
■島のピンチ 定期船存続の危機
「おはようございます」
船に乗って、島の小学校に外から通う子どもたちもいます。
定期船は通勤・通学など、日常生活に欠かせません。
【沖島の住民】「わたしは勤めてるけど、この船を毎日利用している」
【沖島の住民】「きょう、病院(に行く)」
(Q.島には病院はないんですか?)
【沖島の住民】「診療所だけ。(定期船は)都会でいうバスみたいなものよ」
【おきしま通船 冨田甚一船長】「船がないと、色んな用事でも使えないので、乗務員を何とか確保して、今まで通りに運航したい」
このピンチをなんとかしようと動いたのは、沖島のある近江八幡市。
本来、地域への協力やPR活動を任せる「地域おこし協力隊」に、船長の業務を加え、募集を始めたのです。
■住民は「地域おこし協力隊」を大歓迎
自治体がお金を出して、若い世代に移住してもらい、定期船を維持する作戦です。
そして…応募者12人の中、面接などで選ばれたのが、杉浦さんでした。
もう一人の協力隊・平尾友里さん(35)と、沖島での生活が始まります。
【杉浦健介さん(24)】「まず島民の方に僕の存在を知ってもらう、仲良くなるっていうことを第一に」
力強く目標を掲げた杉浦さんですが…実は、船の運転の経験はゼロ。
本当に大丈夫なのでしょうか!?
【住民とやりとり】「(名刺)自分で作りました」
【沖島の住民】「杉ちゃんや」
【沖島の住民】「あんたら2人は神様です。なかなかいないもん、こんなちっぽけな島に(来てくれるなんて)。ありがたいこっちゃやで」
大歓迎の住民の期待に応えようと、意欲は人一倍です。
【杉浦健介さん】「この辺も片づけたいっちゃ、片づけたい。いいんですか、勝手にやって」
■沖島の魅力で移住を決意 「景色や人がお金に換えられないくらいすごい」
協力隊の任期は、最長3年。なぜ、移住を決意したのでしょうか。
長髪を束ねる杉浦さんは滋賀県内の大学に通っていました。
興味を持ったら飛びつく性格で、海外でのワーキングホリデーなどを経験しました。
【沖島の住民】「ちょんまげ、あかん」
【杉浦健介さん】「えー!ちょんまげ好きなんですけど僕」
【沖島の住民】「きれいな髪の毛やね」
【杉浦健介さん】「ありがとうございます」
そんな、杉浦さんをひきつけたのは、沖島が持つ魅力でした。
【杉浦健介さん】「ここ絶対夕日きれいやなと見に来たのが最初。その時見た夕日が、今まで見た中で一番くらいきれいな夕日だった。水面にオレンジ色が差し掛かって、向こうの山脈に落ちていく姿がきれいで。『こんな不便なところなんで来たん』って、島の人結構言うんですけど、この景色とか温かい人とか、お金に換えられないくらいすごい」
■初めての船の操縦 「一番大きいのはワクワク」
さぁ、まずは、船の免許の取得から。いよいよ訓練開始です。
【おきしま通船 冨田甚一船長】「この係留の仕方ね、着岸するのは向こうもこっちも一緒」
冨田船長から教えてもらうことの、全てが初めて。
船を係留するときの縄結びも…。
【杉浦健介さん】「あってんのかこれ。なんか違うな。こんなんでしたっけ?」
通し方に悪戦苦闘…。
たくさんある操縦席のボタンも…。覚えられるでしょうか?
【杉浦健介さん】「これから島になじんでいけるのかという不安もありつつ、一番大きいのはワクワクですかね。期待がかかってる、責任感とワクワクと不安が混じりながらですね」
■若い船長が島のいつもどおりの生活を守る
そして3カ月後。
波の影響を受けやすい船の係留を、難なくこなす杉浦さんの姿が…。
杉浦さんは無事、船舶免許を取得。さらに特訓を重ね、お客さんを乗せられるようになりました。
島は、いつもどおりの生活が続けられています。
【おきしま通船 冨田甚一船長】「若いから早いね。初めて習った人にしては早いですね」
【杉浦健介さん】「あははは」
【おきしま通船 冨田甚一船長】「余裕の笑いですね、今の」
【杉浦健介さん】「違う!違う」
【おきしま通船 冨田甚一船長】「完璧らしいですわ」
【杉浦健介さん】「おはようございます」
杉浦さん、少し顔つきが変わったような…。
【杉浦健介さん】「船=人の命を預かるから、安心して乗ってもらえるように信頼してもらえる人になるのが第一かな。沖島自体、魅力がある島なので、来てもらう人を増やすために、玄関口に立ってる人なのでそこは意識したい」
若い船長が、沖島を未来へと運んでいきます。
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月2日放送)