見通しの甘さにより暗雲が立ち込めている静岡県立中央図書館の移転整備計画。なぜ、このような事態に陥ったのだろうか?

交付金の見込み違いで紛糾する委員会

「事の重要性をわかっていないと感じる」

「県庁内の事務方が思考停止に陥り、事業費や県費負担の増加に対する危機感が欠如していたことが最大の要因」

「リーダーの塚本副知事に出席してもらい、どういう構想・方向で進めていたのかという説明を受けたほうがいい」

不穏な空気に包まれた6月の県議会文教警察委員会。

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やり玉に挙げられたのは静岡県立中央図書館の整備にかかわる県教育委員会の対応だ。

県教育委員会の池上重弘 教育長は「県民のみなさまに多大な心配をかけていることについて改めて深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」と謝罪した。

県立中央図書館の完成予想図(提供:静岡県)
県立中央図書館の完成予想図(提供:静岡県)

事の発端は2025年5月。

これまで136億円を見込んでいた国の補助金について交付額が34億円に留まる見通しとなったことが明かされた。

この時、自民改革会議の相坂摂治 代表(当時)は「もう一度、見直していくことも必要かなと思う」と述べれば、ふじのくに県民クラブの四本康久 会長は「額にびっくりした」と呆れ、公明党県議団の蓮池章平 団長は「説明を聞いても納得はできていない」と不信感を露わに。

前知事時代も火種となった県立中央図書館の移転問題

なぜ、このような事態を招いたのか?

建物の老朽化を理由に元々は川勝前知事の時代に決まった県立中央図書館の移転。 

川勝平太 知事(2019年当時)
川勝平太 知事(2019年当時)

当初は図書館を核とするレストランや宿泊施設などが入った“文化力の拠点”を整備することが計画されたが、2019年に川勝平太 知事(当時)が「やくざの集団もいますからね。やくざもいるじゃないですか。ごろつきがいるじゃないですか」と構想に賛同しない議員を侮辱する発言をしたことで最大会派の自民改革会議が猛反発する。

その結果、2020年に川勝知事は「これはいったん白紙に戻すのが正しいと思う」と方針転換に追い込まれ、文化力の拠点構想は立ち消えとなり図書館の移転計画だけが残ることとなった。

県立中央図書館の移転予定地(静岡市)
県立中央図書館の移転予定地(静岡市)

その後、当初180億円程度とされた事業費は人件費や資材の高騰から298億円まで膨れ上がっている。

補助金額の大幅変動は想定できる事態

そこへ来て発覚した補助金の減額問題。

ただ、公共政策学を専門とする静岡産業大学経営学部の小泉祐一郎 教授は「社会資本整備総合交付金は全国から応募が殺到すると、交付額が減ってしまう。国に聞いても教えてくれないので、どれくらい貰えるかはわからない。相当貰えるかもしれないし、もらえないかもしれない」と補助金額が大幅に変動することはある程度は想定しうる事態だったと指摘する。

さらに、この問題を複雑化させているのが補助金の見込み額を県議会に伝えたタイミングだ。

県教育委員会は1月の段階で想定額を大幅に下回る交付額になることを把握していたものの、その事実を伝えたのは自民改革会議の当時の代表だけだった。

結局、県議会に対して正式に報告をあげたのは4カ月が経過した5月になってからだ。

静岡県議会(2025年6月)
静岡県議会(2025年6月)

小泉教授は「財源的な見通しについては流動的な面がある」とした上で「そういう点を議会に対して、しっかり説明しておけばこんなに揉めない。そこの説明を当初の段階からしっかりやるべきで、説明が大雑把で不十分だった」と分析する。

失敗を繰り返さないためには…

一方で、言うまでもなく県教委の責任は大きいものの補助金や交付金について専門的な知識を持つ県の財政当局にも責任の一端はあるとも指摘。

今後、同じような失敗を繰り返さないために「債務負担行為という予算額の議決ではないという点に説明の欠落が生じる1つの要因があるのではないか?」として「『今年度いくらです』という予算議決ではなく、『数年間でいくらくらいの契約をしたい』という議決で、そういう意味では普通の予算と比べると説明が簡略化しがちな点がある」と話す。

静岡県・鈴木康友 知事
静岡県・鈴木康友 知事

そのため、将来にわたり金銭負担をする場合に、予めその内容や限度額を定める債務負担行為であっても丁寧な説明を心がけるべきだと強調。

静岡県・鈴木康友 知事
静岡県・鈴木康友 知事

鈴木知事は今回の事態を受けプロジェクトチームを立ち上げた上で新たな図書館の計画を見直すことを表明している。

大型の公共事業は多額の税金が投じられることになるだけに責任ある調査や協議が求められている。

(テレビ静岡)

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