16年前、大村市で女性が行方不明になり、その後遺体で発見された事件で、4日長崎地裁で殺人の罪に問われている内縁の夫に判決が言い渡される。確かな物証がないまま状況証拠を重ねた殺人事件は、どのように裁かれるのか。
「私は殺していない」
殺人の罪に問われているのは、住所不定の無職・馬場恒典被告(75)。

「私は殺していない。全て否定します」
2025年6月に長崎地裁で始まった裁判員裁判で、馬場被告は起訴内容を全面的に否認。

犯行の直接的な証拠がない中、検察は馬場被告の知人や被害者の家族など16人の証言と現場にわずかに残された事実を積み重ね、犯行を立証することを迫られた。
検察側・弁護側の主張が真っ向から食い違う
この裁判は、馬場被告が殺人を全面否認していて、検察側・弁護側の双方で主張が真っ向から食い違っている。

馬場被告は2009年、大村市の自宅で、内縁の妻を鈍器で殴り殺害し自分が管理していた倉庫に遺棄したとされていて、遺体は9年後に白骨化した状態で見つかった。

検察側は、遺体がくるまれていたシーツや周辺にあった繊維片まで調べ、「いずれも被害者や馬場被告の身の回りにあったものと一致する」と主張した。

また、被害者との間に金銭トラブルがあったこと、被害者がいなくなった後、周囲に対し「北九州市の病院に入院した」など嘘の説明をしたり、警察に捜索願を出さなかったりするなど不審な行動があったことから、馬場被告が犯人と推認できると結論付けた。

しかし、この事件では、殺害に使われた凶器や犯行日は特定されておらず、殺害現場とされる大村市の自宅からは被害者の血痕も見つかっていない。
馬場被告は一貫して殺害を否定していて、遺体を遺棄したとされるプレハブ倉庫にも「行ったことがない」と主張している。
冤罪を生む危険性を指摘する専門家も
こうした状況証拠だけを積み重ねる裁判のあり方に、警鐘を鳴らす専門家もいる。

イノセンス・プロジェクト・ジャパン 石塚 章夫 理事長:こういうケースの場合の判断の難しさ。証人だけで判断する場合の典型。
石塚さんは38年の裁判官経験があり、今は弁護士として活動している。

記憶や証言は変遷の可能性があるため、この事件に限らず、状況証拠で立証しようとする場合、「冤罪を生む危険性がある」と指摘する。
イノセンス・プロジェクト ジャパン 石塚 章夫 理事長:(裁判は)検察官に立証責任がありそれを証拠に合理的な疑いがないかっていうことを聞き判断する。常に証言を聞くとき、古い証言を聞くときには考えないといけない。

7月の論告弁論で検察側は犯行の残虐性、遺族の処罰感情などから馬場被告に懲役18年を求刑した。
積み重ねた状況証拠から裁判員は有罪、無罪、どのような判断を下すのか。馬場被告の判決は、長崎地裁で4日午後3時から言い渡される。
(テレビ長崎)