2年目を迎えた熊本で初めての夜間中学、県立ゆうあい中学校。年齢や国籍、動機などが異なる生徒たちが通っています。成長を目指すそれぞれの思いを見つめます。
(7月25日)
熊本で初めての夜間中学、県立ゆうあい中学校です。去年4月に開校し、2年目を迎えました。
この日は、来年度の入学希望者の説明会が開かれ、学校や医療福祉施設などの関係者も訪れました。
(作文発表)
【1年生 田上 とき子さん(65)】
「つい先日、クラスの友達に私の髪を整えてもらうことがありました。その方はプロの理容師さんです。おかげですっきりしました。年齢も近いせいか、何でも話せる大切なお友達です。『将来は一緒にシェアハウスで暮らそうね』と口にしています」
【田上 とき子さん(65)】
「中学校の時に(実家の)農家が忙しくて、あまり学校に行けてなかったので、学び直すことができたらいいかなと。ハンセン病や水俣病のことを習って、熊本県人として、まだ本当に知らないことが多くて、意欲的に、前向きに頑張っていこうと思います」
現在、年齢、国籍、動機が異なる生徒たち37人が学んでいます。1コマ40分間、1日4コマの授業があり、希望者には給食もあります。
【2年生 木本 礼子さん(70)】
「普通の学校と違って中間テストや期末テストはありません。ただ時折、今の学習がどのくらいに理解しているかという小テストみたいなのはありますが『分からない時は(教科書を)見ていいですよ』みたいな」
2年生の木本 礼子さん、70歳です。昼間は介護の仕事をしています。
去年、入学することを周りに伝えたところ、賛成する人はいなかったそうです。それでも〈学び直したい〉という思いが募りました。
【木本 礼子さん(70)】
「義務教育の9年間に12回、学校変わったんですよ。それで勉強もついていけないし、友達もできない幼少期を過ごしました。ゆうあい中学校の情報を聞いて〈行ってみよう〉ということで来ました」
【入学希望者】
「『総合的な学習』の時間は何をするんですか?」
【木本 礼子さん(70)】
「加藤清正のことを勉強しようとか、熊本の水のことを勉強しようとか、タブレットで調べて情報を抜粋して、最終的には(みんなの)前に出て『私はこういうことを調べました』と発表します。それができなかったからとか上手じゃなかったからとか、そういうことで批判したりとか劣等感を抱かせるようなことはまずないです」
(湧心館高校体育館)
ことし2月に行われた『学びの祭典』です。生徒たちがそれぞれこれまでの学習の成果を発表しました。
(研究発表)
「なぜ熊本の水はおいしいのか。研究のきっかけ、〈熊本市の水道の水がおいしいから地下水について調べたい〉と思いました」
(英語/自己紹介スピーチ)
「ハロー!エブリワン(みなさん、こんにちは)アイアムリエイトウ(私は伊藤利枝です)プリーズコールミーリエ(「利枝」と呼んでください)」
【1年生(当時)伊藤利枝さん(62)】
「普段、授業の中で(みんなが)いろいろ学んだことが見える形で伝わって来て、とてもいい学習発表だったと思います」
(自分史の発表)
【3年生(当時)田中 憲章さんの発表】
「夜間中学校に通うようになって、孫と一緒に勉強するようになった。早めに学校に行けるように現場の人たちが気を配ってくれます。入学した時よりも字がきれいになって書けるようになったと思う。これまでに経験したことがなかったことをさせてもらったことは私の一生の宝物としたいです。こんないい中学校はあと1年いたかったです。終わり」
(Q/3年生から始めたんですか?)
【田中 憲章さん】
「好きな学年から入られたんですよ。少しでも短い方がいいでしょう。先が短かいから。いろいろな人間がいて楽しいと思います」
(Q、おじいちゃん、お勉強しているのはどう思いますか?)
【阪本 愛奈さん】
「頑張っていると思う」
【田中 憲章さん】
「普段、ボーッとしとるもんね」
【熊本県立ゆうあい中学校 小原 ひとみ 校長】
「交流活動や体験活動などを重視して取り組んできた中で、生徒さんたちの自信につながったのではないかと思います。ここから大きく自分らしいところをたくさん発揮してもらえたらいいなと思っています」
(音楽/ハンドベル)
(演奏する3年生(当時)木村 綾乃さん)
【母/木村 美樹さん】
「(娘は)不登校でほとんど学校行けてなかったので、周りの人がいろいろ話しかけたりとか、接してくれることでうれしく感じているみたいですね。いろいろな経験をされている方が多いので、そういう人たちとうちの子が関われて、うれしく思います」
(自分史の発表)
【3年生(当時)増永 和利さんの代読】
「私の方で代読をさせていただきます。ゆうあい中三年、増永 和利。私が幼かった時、父と母はいつも喧嘩をしている記憶しかなく、覚えているのは湯飲みを投げつけられたことだけ。初めて父のために太宰府天満宮で買ってきた湯呑みを1週間ぐらいで父から投げつけられた。6年生の時、両親は離婚した。結局、どっちにもついていかず、一人で生きていくほかになかった。ナースとして『ご苦労さん。君がいてくれて、とても助かったよ』と男性患者さまが言ってくれた時、涙が出た。患者さまが退院するとき、うれしかった。以前のようにはできないが、ナースとして自分ができることをやりたい。これで発表を終わります」
(日本語/作文発表)
【3年生(当時)ニコ ユウキ シナダハンさん(17)
フィリピン出身 去年9月来日】
「私は今、ゆうあい中で、高校に入るために一生懸命勉強しています。少しずつ勉強して少し話せるようになりました。高校でいろいろなことに挑戦したいです。高校で3年しかないなら、全力を尽くすつもりです。私はこの生活をとても楽しみしています。そのためにこれからももっと頑張ります」
【木本 礼子さん】
「とても楽しかったです。みんなそれぞれですね。自分で学んだことが正々堂々と発表できて、とても良かったと思います」
(入学希望者説明会7/25)
【小学校学習支援員 竹本 栄子さん】
「『何歳からでもチャレンジできるんだ』『勉強できるんだ』というのを聞いて、〈私もチャレンジする目標を立てようかな〉と思いました。今、いっぱい悩んでいる子供たちもいると思うので、大人の方もいると思うので、こういう素晴らしい所があるんだと伝えていきたいと思います」(木本さんが入学希望者を案内)2年目の熊本県立ゆうあい中学校。〈学びたい〉という思いが詰まっている場所です。
【木本 礼子さん(70)】
「習ったことを全部はもう難しいと思うんですけれども、ここに来て、教えてもらったことを覚えていきたいと思います。飽きない学校です。毎日来るのが楽しいですね」
10月には3つの学校で『体験授業会』(午後6~8時)が行われます。
10月1日(水)八代工業高校
10月2日(木)人吉高校
10月3日(金)ゆうあい中学校
【問い合わせ】電話 096-371-1771