日本の主力ロケット「H3(エイチスリー)」に載せる“より軽量な”燃料タンクの開発に、坂井市の繊維資材メーカーが挑みます。宇宙ビジネス参入を果たしたのは、得意とする「炭素繊維」の技術。その強みや背景、そして課題を取材しました。

◆炭素繊維の技術で宇宙産業へ

宇宙へ飛び立つ大型のロケット。そのロケットの部品は、物資の輸送量やコストの面で軽いことがメリットになります。
 
そこで、ロケットに搭載する燃料タンクを“より軽いものにしよう”というプロジェクトに挑むのが、坂井市の繊維資材メーカー「丸八」です。
 
「炭素繊維」の技術を“強み”に、創業88年での新たな挑戦です。
 
菅原寿秀社長はプロジェクト発表時の記者会見で「炭素繊維は非常に軽くて強いのが特長。まさに有効活用できる分野が宇宙。やっと、そこに手がかかった」と話していました。


丸八は昭和11年に創業し、当初は繊維機械の部品を製造・販売していました。
 
昭和50年代から衣料用ニットの製造を始め、次第に自動車用のシート材を手掛けるように。そして2000年代に入ると、新しい素材の「炭素繊維」に乗り出しました。
 
これまでに、水素自動車の燃料ステーションに使うタンクを開発したほか、ラケットなど、さまざまなスポーツ用品、モータースポーツの車両に使われる部品を手掛けています。


◆厚さ4ミリ、液体水素が漏れないタンクの開発

ロケットの燃料タンクは現状、金属製ですが、これを「炭素繊維と強化プラスチック」の材料に置き換えることが、今回のミッションです。
 
最大のポイントは、「軽さ」と燃料を漏らさない「耐久性」の両立。開発会議では課題などについて意見が―
 
「強度はいいけれど、液体燃料の漏えい…そこだよね、ポイントは」
「低温疲労による疲労、体力…そこは実験で確認する必要があるね」
  
最終的に目指すタンクの大きさは直径約5m、長さ8m。大きさの一方で「軽さ」を追求するため、タンクを形作るのは炭素繊維のみ。
 
その厚みは何と、わずか4ミリとする計画です。
 
丸八・将来開発部の中島正憲部長は「液体水素に対応する技術は、今回初めてチャレンジする。液体が漏れないようにすることが非常に難しい。薄くしないと重くなるので、ロケット打ち上げに不利になる。4ミリぐらいにしないと」と話します。

タンクを薄くするためにポイントとなるのが、炭素繊維の“巻き方”。
 
特殊な作り方で、世界的な第一人者とされる東京大学の生産技術研究所・吉川暢宏教授(福井市出身)が「設計」を担当します。「スペースXのイーロン・マスク氏もタンク製造を紹介しているが、ロケットには載せていない。やはり(水素)燃料が漏れる。設計の技術でどうしたら“漏れ”を最少にできるか…ちゃんと打ち上げられる信頼性が一番」
  
実現すれば、“世界初”の製造技術で、タンクの重さは金属製の半分ほどになるということです。

◆実用化は10年後、福井の技術が宇宙へ

実はこのプロジェクト、4年ほど前から宇宙航空研究開発機構=JAXAと共同研究を進めていて、今年、JAXAの「宇宙戦略基金事業」採択されました。    
  
丸八の菅原社長は「宇宙分野はまだまだ決まったことがなく規格になっていない。難しいがしっかり進めることでビジネスチャンスになる」と意気込みます。

4年後をめどに、まずは小型のタンクを製造して基礎技術の確立を目指します。
  
「繊維に携わる仕事が、いま宇宙の仕事につながっている。福井・北陸は世界に冠たる繊維産業を取り戻すように、今度は宇宙で、福井から発信したい」(菅原社長)
 
実用化の見込みは約10年後。福井の技術が“宇宙に飛ぶ”、その日に期待がかかります。

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