今回は戦没者の孫世代を中心に戦争を語り継ぐ「語り部事業」についてです。戦後80年を迎え、自らの経験を伝えられる人が減っていく中、“戦争を知らない世代”が朗読劇で思いをつなぎます。
【県遺族会青年部 荒田博記部長】
「平和ボケの中で育った世代なんで少しでも行動ができればなってささやかな思いです」
8月9日、佐賀市で開かれた「平和の語り部県大会」
県内の戦没者遺族らの団体、佐賀県遺族会が終戦から80年の節目の今年、初めて開催しました。
【堀田さん語り部様子】
「火事だーっ、火事だぞーっと、男性の声、いかん、このままじゃ焼け死んでしまう、とにかく力を振り絞りました」
県遺族会の3人の語り部が、約350人を前に自身の、また長崎の被爆者から継承した戦争体験を語りました。
また会場では、戦争体験者の話をもとにした朗読劇も披露されました。
【朗読劇】
「私は本当に悔しい、悲しい、この子の姿を見たかったろうし、抱いてもらいたかった」
登壇しているのは戦没者の孫世代が中心で、57歳から81歳の県遺族会の青年部の有志など6人です。
【出征兵士妹役の朗読劇】
「いくらお国のためと言っても私はやっぱり兄さんに帰ってきてほしい」
県遺族会青年部の部長をつとめる荒田博記さん62歳。
“戦争を知らない”世代ができる語り部活動として朗読劇を去年から始めました。
【県遺族会青年部 荒田博記部長】
「1人でやるわけじゃないから分担しながら、協力しながらっていうところで、また皆さんにも繋ぎやすいんじゃないかなと」
県遺族会には現在、28人と1団体が「語り部」として活動していますが、講話として1時間程度語ることができるのはわずか5人ほど。
一方、語り部の派遣の依頼は今年すでに約50件と、担い手が十分にいるとは言えない状況です。
体験をいかに語り継いでいくのか大きな課題となる中、朗読劇を通した新たな活動が始まったのです。
「気になったのが、幸子さんの通信兵というところ、情報をキャッチして伝えるっていう、キャッチっていう言葉が合わない、その時代に合わないのかな」
この日は有田町の平和祈念式典で朗読劇を披露。
朗読する詩は体験談をベースに県遺族会の西田富子会長が作った「出征兵士を見送る家族の物語」です。
【出征兵士役の朗読】
「どうか私の両親、妻、そして産まれてくる子ども、家族のことを本当によろしくお願い致します」
【出征兵士役 畔田宏治さん】
「ビルマで戦死してるんですよね、実際僕のおじいちゃんが、ちょっとこう感慨深いものがありますね」
決して人前に立つことに慣れたメンバーではありませんが、出征する兵士やその家族と自らの祖父たちを重ねながら気持ちを言葉に込めます。
荒田さんが遺族会の活動に積極的に関わるきっかけのひとつも祖父が戦死した鹿児島を訪れたことでした。
【県遺族会青年部 荒田博記部長】
「ここでうちのおじいちゃんが亡くなったんだ、と思うともう、やっぱり気持ちも当然こう動く」
【荒田義毅さん】
「昭和19年の多分夏休みじゃったと思うとですけどね、召集受けたとはですね浜崎駅で汽車に乗ってから出て行ったとそれを見送ったのが最後ですね」
荒田さんの父の義毅さん、89歳。
荒田さんの祖父で義毅さんの父・直海さんは、終戦の約1年前に召集を受け、満州に配属されました。
【荒田義毅さん】
「満州から台湾に移動するというようなことで最後にですよ、なんかね、遺言のような感じの手紙来たんですね、そん中に爪と頭の髪を一緒に入れちゃった、それが遺骨の代わりになった」
直海さんは満州から輸送船で台湾に向かう途中、鹿児島沖でアメリカの潜水艦の魚雷による攻撃を受け戦死しました。遺骨は海に沈んだままです。
【荒田義毅さん】
「昭和20年の冬になってから戦死の報告来たごとですね、結局海ん中で沈んどるけん、遺骨の白い箱だけ戻ってきましたけれども、中は空っぽ」
終戦当時、小学校3年生だった義毅さん、戦後は5人兄弟の長男として家を支えてきました。
【荒田義毅さん】
「母がシクシク夜泣いたりしよった、子供はなんも言われんから黙ってそれを聞いちょるというような感じで」
戦争で父を亡くし残された家族で生き抜いてきた体験を中学校などで精力的に語ってきた義毅さん。
地元の遺族会の会長も務めた一方、活動の難しさも感じてきました。
【荒田義毅さん】
「国策によって心ならずもね、死なねばならなかった戦没者の、世間から忘れられないように、ために、遺族会があるということもよく考えてくれ言うとですけれども、分からん人間は分からんですね」
【県遺族会青年部 荒田博記部長】
「朗読劇も何人かに断られましたもんね、やってくれって言ってもそこまではって、無理にお願いしてもう遺族会も来んよっていうようになってもらうのはまた困るしね…だから本当に難しいですね」
【荒田博記さん 閉会のあいさつ】
「戦没者・戦争被害者に思いをはせながら、これからも語り部として平和の尊さを伝えてまいりたいと思います」
「平和の語り部県大会」を決意の言葉で締めくくった荒田さん。思いは各世代に届き始めています。
【戦没者の孫】
「本当に全然戦争を知らない世代の方がやってるのは、逆に何もやらなくて自分はいいのかなみたいな感じがしてちょっとすごいなと」
【戦没者の娘】
「これからはみんながほんとに平和っていうか、そういう風なことについてね、語り継いでいく、実際にしていくってことが大事かなって」
【県遺族会青年部 荒田博記部長】
「一緒に活動できる人を待ってますよっていう風な声掛けも壇上からしましたけども次の世代の気持ちが1つになればですね、これはうまく皆さんに伝えることができるかな」