川は危険と隣り合わせ

東京・青梅市、多摩川沿いにある「釜の淵公園」は、車だと都心から1時間半程度の距離にある。付近には駐車場もあり、都心の気温が36.8度の暑さになったこの日は、朝から多くの人が川遊びに来ていた。

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近くではカブトムシも見つけることができる自然豊かな環境、休日は河原でバーベキューを楽しむ人で賑わうという。そんな一見のどかな場所でも、川は危険と隣り合わせだ。

河川財団「No More 水難事故2025」より
河川財団「No More 水難事故2025」より

河川財団の調査では、都市部からのアクセスが良い河川ほど水難事故が多く、多摩川は全国で3番目の事故数となっている。(琵琶湖は法律上「河川」として扱う)河川財団によると、今回取材した釜の淵公園付近では、2003年から2024年に7件の水難事故が発生、計4人が死亡している。

警察庁によると、2024年1年間に、全国の海や川などで起きた水難事故は、過去10年で最も多かった。このうち中学生以下が犠牲となったケース(全28人)を分析すると、6割以上にあたる18人が犠牲になったのが河川だった。

川に適したライフジャケット

どうすれば川の事故を防げるのか。フジテレビ アナウンス部で「防災班」として活動している上垣皓太朗アナウンサーが、河川財団 河川・水教育センターの上席研究員 菅原一成さんに同行いただき、検証した。

菅原さんによると、まず重要なのは、適切な装備だ。特に「川に適したライフジャケット」を着用することだ。

菅原さんからライフジャケット着用の手ほどきを受ける上垣アナ
菅原さんからライフジャケット着用の手ほどきを受ける上垣アナ

川には、水面下に様々な複雑かつ強い流れがあり、陸上からはなかなか判別しにくい深みがある。そんな環境下で頭部を水面上に出し続けるために、浮力を補う最も有効な手段が、川に適したライフジャケットを着用すること。

河川財団「No More 水難事故2025」より
河川財団「No More 水難事故2025」より

ライフジャケットはホームセンターでも購入することができるが、中には浮力・構造・強度等の問題から川での活動には向いていないものがある。川は流れが速い。流れによって脱げてしまうことのないよう、認証制度の認定を受けた製品を買うのも一つの目安だ。河川法は、ライフジャケットの着用を義務づけてはいないが、国交省は川に適したライフジャケットの着用を推奨している。

河川財団「No More 水難事故2025」より
河川財団「No More 水難事故2025」より

河川財団によると、足元は濡れてもよい運動靴やスポーツサンダル(かかとがしっかり固定できるもの)が望ましい。また、化学繊維でできたシャツなどを着用すれば濡れても乾きやすい。さらに、頭部を衝撃から守るために、場合によっては水抜きがあるなど専用に開発されたヘルメットをかぶることも推奨されている。

「水辺の安全ハンドブック」より
「水辺の安全ハンドブック」より

流域の状況を確認する

国交省が運営する「川の防災情報」では、現在の川の水位を知ることができる。地点によっては、現在の川の様子と、平時の川の様子を、河川カメラの画像で比較することもできる。

河川財団「No More 水難事故2025」より
河川財団「No More 水難事故2025」より

どこに雨が降ったら川が危険になるか把握することも重要だ。川を流れる水の源は、川の上に降った雨だけではない。土地に降った雨も、地表を流れ、地中に染みこみながら、川へと流れ込む。今回の取材現場(東京・青梅市 多摩川 釜の淵付近)の場合、山梨県小菅村、山梨県丹波山村、東京・奥多摩町などに雨が降ると、水かさが増す。菅原さんは「流域で雨が降った場合は勇気をもって川遊びをやめることが重要」と強調する。

実際に川へ-水が澄んでいても数歩で深みに

水中に小さな魚が泳いでいるのが見えるほど、水面は澄んでいた。しかし、川には深みがあり、錯覚で実際よりも水深が浅く見えることもある。

上垣アナが水へと入っていく。すると、たった6歩進んだだけで、川底に足がつかなくなった。川特有の強い流れによって体はコントロールを失う。この日、川の水量はいつも通りだった。よくこの付近で釣りを楽しんでいるという男性は「いつもより流れは穏やか」と話していたが、水中では一気に体が流される。

流されたらラッコのような「漂流姿勢」

体が流された場合、身を守るために重要なのが、ラッコのようにつま先を立て、顔は正面を向けた漂流姿勢だ。

漂流姿勢を取らず、体が流木などにひっかかった場合、毎秒2メートルの急な流れでは、およそ200キロの強い力で押さえつけられてしまう。

一方、漂流姿勢を取っていれば、ひっかかるリスクを下げることができる。前方の状況を把握しながら流れ、流れのゆるやかなところを見極めて、川岸へ脱出する。菅原さんは「漂流姿勢もライフジャケットがないとできない。ライフジャケットがないとかなりリスクは高いというのが川のフィールド。川で遊ぶ際、ライフジャケットは必須」と話す。水の事故ゼロへ。楽しい川遊びのため、万全の備えをお願いしたい。

百武弘一朗
百武弘一朗

災害対策チーム 1986年11月生まれ。國學院大學久我山高校、立命館大学卒。社会部(司法、警視庁、宮内庁、麻取部、遊軍)、夕方ニュース(ディレクター)、FNNバンコク支局、FNNプロデュース部を経て現職。