南海トラフ地震臨時情報が発表された際に、住民、地方公共団体、事業者が取るべき対応を示したガイドラインの改定版を内閣府が公表した。1年前に初めて南海トラフ地震臨時情報が出された際、鉄道の運行やイベントの開催などで混乱したためだ。
「巨大地震注意」具体例なく対応に違い
南海トラフ地震の想定震源域でマグニチュード6.8以上の地震や地殻内で異常な変動が観測された場合、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」が発表される。その後、専門家などの評価検討会でマグニチュード8クラスの地震が発生したと評価された場合、次の巨大地震が発生する可能性が高まっているとして、「巨大地震警戒」が発表される。

一方、地震の規模がマグニチュード7以上8未満と分かった場合などでは、「巨大地震注意」の臨時情報が発表される。課題が生じたのは、「巨大地震注意」に関しての南海トラフ地震の防災対応ガイドラインの記載だった。
以前のガイドラインは「巨大地震警戒」を中心に解説されていて、「巨大地震注意」に関する記載が少なかった。1年前の8月8日、日向灘を震源とする地震で南海トラフ地震臨時情報が初めて出され、「巨大地震注意」が発表された際に課題が浮き彫りになった。
一部の鉄道事業者は、自主的に運休や徐行運転などの対応をとったり、イベントなどを中止する事業者や地方公共団体もあった。しかし防災対応ガイドラインには、「巨大地震注意」が出された時に、鉄道事業者などの企業が取るべき対応の具体的な内容が示されていなかったため、対応に違いが出るなど混乱を招いた。
このことを受け、内閣府は南海トラフ地震臨時情報の防災対応ガイドラインを見直し、改定版を公表した。
「阿波おどり」の防災対応事例も記載
新しいガイドラインでは「巨大地震注意」が出た場合についての解説が拡充され、「共通編」「地方公共団体編」「事業者編」と3つの章立てで再構成された。
「共通編」では「南海トラフ地震臨時情報」が発表された場合、地震の予測は困難だが、平常時と比べ、南海トラフ沿いで大規模地震が発生する可能性が高まっているため「南海トラフ臨時情報」が発表されることと、住民は「自らの命は自らで守る」という原則に基づいて行動し、地方公共団体や事業者は「安全確保」と「社会活動の継続」とのバランスを考慮して、「自ら判断することが重要」と明示した。また、住民、地方公共団体、事業者などは南海トラフ臨時情報が発表された時の対応を各地域と意見交換や情報交換を行い、あらかじめ決めておくことが有効であることも示した。

「地方公共団体編」では被害の大小に応じた住民への呼びかけや各地域の場所や実情に応じた防災対応を示している。
「事業者編」では「巨大地震注意」において、政府は鉄道事業者に対し、運休や徐行運転などの運行規制を求めることは原則しないこと。公共事業については、斜面など揺れの影響が大きい作業や津波に影響を受ける作業に対して、情報に応じた作業の一時中止、必要な措置を講じた上での工事継続、津波避難を含む作業員などの安全確保を行うことが示されている。

また、自治体や企業の判断材料として、2024年8月に南海トラフ地震臨時情報が初めて出された際、来場者の安全対策を講じて開催した徳島県の「阿波おどり」や、静岡県下田市で市内10カ所の海水浴場を職員が巡回して、ライフセーバーにハザードマップを渡して避難場所の確認を呼びかけたことなどが対応の事例集として記載された。自治体や企業に実際の事例を参考にして、今後の対策作りに役立ててもらうのが狙いだ。
地震の危険は常に…家族や地域で防災の意識高めて
南海トラフ巨大地震は、30年以内に80%程度の確率で起きるとされている。
南海トラフ地震の想定震源域で一定規模以上の地震が発生し、続けて大規模地震が発生する可能性が平常時と比べ相対的に高まった場合、南海トラフ地震臨時情報が発表される。
この後「巨大地震警戒」が発表されれば、7日以内にマグニチュード8クラス以上の地震が発生するのは10数回に1回程度とみられていて、大規模地震が発生するリスクは地震発生直後ほど高くなる。
「南海トラフ臨時情報」が発表されず、前触れもなく地震が起きる可能性もある。南海トラフ巨大地震で被害を減らすには事前の避難など、備えをしておくことが重要だ。
初の臨時情報が出されて1年が経つ。改めて家族や地域で話し合い防災の意識を高めて地震に備えてほしい。