エアコンのブランド「霧ヶ峰」。もちろん、長野県諏訪市の「霧ケ峰高原」が由来となっています。なぜ、この名前を付けたのか。取材を進めると、かつてはこの他にも「上高地」や「軽井沢」など信州由来の製品があったことが分かりました。信州とエアコンの知られざる関係に迫りました。
■「霧ケ峰」といえば、エアコン!?
標高約1600メートル、諏訪市の霧ケ峰高原。猛暑が続く中、涼を求めて多くの観光客が訪れています。
愛知県から来た親子:
「(愛知より)こっちの方が涼しい」
「すごく涼しい」
「霧ケ峰」といえば何をイメージしますか?
東京から来た夫婦:
「一つだね」
「エアコンです」
「『♪きりがーみねー』です」
上田から来た夫婦:
「エアコン」
「(涼しくて)『さすが“エアコン霧ヶ峰”だな』って話していたんです。(エアコンと)同じくらい涼しい(笑)」
ほとんどの人が「霧ケ峰といえば“エアコン”」と答えました。
■58年前に発売 なぜ「霧ヶ峰」?
家電量販店では―。
(記者リポート)
「ありました、エアコン売り場の一角に三菱電機の『霧ヶ峰』が並んでいます」
三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」。1967(昭和42)年に発売されエアコンの「世界最長寿ブランド」といわれています。
現在は一般的になっている回転送風機・ラインフローファンを世界で初めて採用しました。
2024年、累計生産台数が4400万台を突破した人気のエアコン。その名前は、もちろん夏でも涼しい「霧ケ峰高原」から取られています。
■以前は上高地、軽井沢、志賀も
ただ、涼しい場所は他にもある中、なぜ「霧ヶ峰」なのか?メーカーに話を聞きました。
三菱電機(株)静岡製作所ルームエアコン販売企画グループ・山岡徹さん:
「霧ヶ峰以外にも、(かつては)上高地と軽井沢と志賀という高原の名前のエアコンがございました」
実はほかにも信州の「避暑地」が名付けられたエアコンがあったというのです。
標高約1500メートルの「上高地」に、避暑地の代表格「軽井沢」。そして、山岳リゾート「志賀高原」も。
いずれも、「霧ヶ峰」と同じ時期に生産が始まり、当時の製品カタログにはさわやかな風景を写した写真が使われています。
それぞれタイプが違い、「上高地」は持ち運びが可能な「床置き形」、「軽井沢」と「志賀」は提携先の企業があったアメリカで一般的だったという窓枠にはめて使う「窓掛け形」。
そして、「霧ヶ峰」は現在も一般的な「壁掛け形」です。
■「避暑地ブーム」の中、高原の名前に
なぜ、信州の避暑地の名前に?
三菱電機(株)静岡製作所ルームエアコン販売企画グループ・山岡徹さん:
「(開発当時は)別荘ブームだったり、避暑地ブームだったりというのもあった。(当時)当社の保養所が白馬にありまして、涼しい、心地の良い快適な空気を感じて、自分たちがつくっているエアコンという製品、心地良い空気をお客さまにお届けするのと似てるよね、ということで発想を得て、高原の名前をつけたらどうだろうと」
当時、日本は高度経済成長期。「別荘ブーム」の真っただ中でした。”避暑地に別荘を持つ”、人々の「憧れ」がネーミングに反映されたといえそうです。
■「ブランド力」で長野県の高原に
さらに―。
山岡徹さん:
「実は当時、長野県の高原の名前以外にもいろいろ候補に上がっていたそうなんですね。実際に、(静岡製作所のある)静岡県の日本平も候補に上がっていたと記録が残っていて、ただやはり避暑地というイメージだったり、ブランド的なイメージ、全国的な知名度で、やはり長野県の高原が強く、採用させていただいたと」
当時、三菱電機が生産していたエアコンは「霧ヶ峰」「上高地」「軽井沢」「志賀」の4種類のみ。「世界水準の山岳リゾート」を目指す信州の「ブランド力」は当時から高かったようです。
■時代と共に「上高地」などは姿消す
その後、時代と共に生活スタイルも変化。壁掛け形の「霧ヶ峰」は室外機と分けられるため小型化が進み主流に。
一方、床置き形の「上高地」、窓掛け形の「軽井沢」「志賀」は需要が落ち込み、姿を消していきました。
山岡徹さん:
「生活というか家屋の状況というか、日本の家屋の特徴に合っていた壁掛け形エアコンだったので『霧ヶ峰』が結果的に残った」
「霧ヶ峰」以外のエアコンがあったことは、今では県民も含めあまり知られていません。
(Q.以前、「上高地」「軽井沢」「志賀」と名前がついたエアコンが)
街の人:
「全然知らないです」
「分からないです」
「(ご存じない?)ないです、『霧ヶ峰』だけです」
■「一緒にブランド育てていければ」
今も名前が残った「霧ヶ峰」。「霧ケ峰高原」のPRにも一役買っていて、2017年の生誕50年の節目には諏訪市が「知名度向上に貢献した」と感謝状を贈っています。
地元の観光関係者も―。
飲食店「ハローアゲイン霧ヶ峰」平出和代さん:
「(「霧ヶ峰」の名前は)うれしいですね、やっぱり。霧ケ峰が大好きなので、うれしいです」
霧ヶ峰自然保護センター・有賀沙織さん:
「本当にそういう場所があるのを知らなかったという東京のお子さんとかもいらっしゃいます。その名前がエアコンとしても知られているのは、地元の人にとっても誇りというか、全国に知れ渡っている名前だと思うので、うれしいです」
信州とエアコンの知られざる関係。厳しい暑さが続く中、信州の涼しげな風景を思い浮かべながら風を受けるのもいいかもしれません。
三菱電機(株)静岡製作所ルームエアコン販売企画グループ・山岡徹さん:
「われわれ三菱電機、ルームエアコンに関わるものみんなですね、長野県の霧ケ峰高原に愛着持っておりますので、一緒にブランドを育てていっていただければなと」