「私たち被爆者の90年はありません」
被爆80年の「原爆の日」を前に、広島県被団協の箕牧智之理事長はこう語った。
次の被爆90年、被爆100年を背負っていくのは、あの日を知らない子どもたちだ。
8月6日の平和記念式典で世界に発信される「平和への誓い」。その言葉は、未来を担う子どもたち自身の手で生み出されている。

約1万人から選ばれた20人

6月末の土曜日。朝から広島市の小学生20人が集まった。「平和への誓い」の検討会議に参加するためである。
彼らは市内144校、約1万人の小学6年生が書いた作文から選ばれた20人。作文選考を経て、2025年の「平和への誓い」をともに作り上げる役目を担う。

原爆資料館で写真や遺品などを見学
原爆資料館で写真や遺品などを見学
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会議に先立ち、子どもたちは原爆資料館を見学。何度も訪れたという子もいたが、この日は写真や遺品などから“被爆者の声なき声”に耳を澄ませる。

検討会議でグループごとに話し合う子どもたち
検討会議でグループごとに話し合う子どもたち

その後の検討会議では、グループになって話し合い、感じたことを言葉にしていく。
「なんて言えばいいんだろう…。一人ひとりの人生だから、他の人に再現することはできない。だから一人ひとりの命を大切にしたい」
子どもたちは悩みながらも“自分の言葉”を探す。原爆資料館の展示から読み取った思いが、次から次へと付箋に書き込まれていった。

模造紙に付箋を張って意見を整理
模造紙に付箋を張って意見を整理

誰かの言葉が別の誰かの気づきを引き出す。やがて何百枚もの付箋がいくつかのテーマに分けられ、模造紙の上にカラフルな思考の断片が広がった。

「違いは間違いではない」

最後はグループごとに発表。
「平和に1つの正解はありません。人によって平和の形は違うのです」
どのメッセージも力強く、会議に参加していた大人たちの心に響くものだった。

模造紙に整理した意見をグループごとに発表
模造紙に整理した意見をグループごとに発表

「違いは間違いではありません。違いを完全に間違いと認めるにはまだ早いのではないか」
そう発表したのは山本小学校6年・清水琉成くん。この検討会議で実感したことがある。

「自分と意見が違う人がいても、その考えを認めることでこんなに新しい世界ができるなんてびっくりしました」
河内小学校6年・林由希菜さんは「未来について考える人もいて、自分の想像を広げることができました」と振り返った。

被爆者じゃない自分にできること

検討会議に参加した20人の思いを集め、そのうちの2人が平和記念式典で「平和への誓い」を発信する。2025年の「こども代表」に選ばれたのは、祇園小学校6年・佐々木駿くんと皆実小学校6年・関口千恵璃さん。

佐々木くんは小学2年生の時から平和公園で英語によるガイドを続けている。英語は、幼いころから英語教材を使って身につけた。多くの外国人観光客に向けて案内する。
「あれが原爆ドームです。1915年に建てられました。設計はチェコ人の建築家、ヤン・レツルです」
あの日、広島で起こったことを世界中の人に知ってもらいたい。一方で、小学5年生の時にはこう話していた。
「被爆者じゃないから。その時のみんなの様子や気持ちはわからない。ただ絵を見たり話を聞いて感じているだけなので。でも、知らなくてもできることだけはやりたいと思う」
被爆者ではない自分が、何をどう伝えられるのか。その問いに向き合いながら活動を続けてきた。そんな佐々木くんが「平和への誓い」で伝えたい言葉があるという。

こども代表・祇園小学校6年・佐々木駿くん
こども代表・祇園小学校6年・佐々木駿くん

「たとえ1つの声でも真実に希望を込めて語れば、世界を変えられるかもしれない。あなたもこの1つの声になってみませんか」

8月6日、世界へ届く「子どもの声」

関口さんは“子どもだからこそできること”を大切に、平和記念式典に臨もうとしている。
「大人は子どもよりたくさんの知識を持っているのに、その大人たちがどうしてこんな悲惨な戦争を引き起こしてしまったんだろうと感じます」
検討会議では一人ひとりの声にうなずき、多様な考えを吸収しているようだった。

こども代表・皆実小学校6年・関口千恵璃さん
こども代表・皆実小学校6年・関口千恵璃さん

「日本のスケールではなく世界に向けて発信できるから、わくわくしています」
被爆地・広島の子どもたちの思いを世界へ届けたい。そんな使命感が関口さんの瞳に宿っていた。

あの日を知らない子どもたちが80年後の広島に立っている。被爆者なき時代へ向かう今、未来を生きるすべての人々に2人はどんな言葉を発信するのだろうか。
まもなく8月6日を迎える。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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