中学校の授業に必修科目として取り入れられているダンス。障害がありながらダンスに打ち込む1人の少女を取材した。

「私は娘の障害を受け入れてない…」

福岡・古賀市に暮らす金子花さん(14)は、生まれつき呼吸を調節することができない。20万人に1人とも言われる難病、先天性中枢性低換気症候群なのだ。そのため母親の美奈子さんが、痰の吸引など日々の生活をサポートしている。

花さんの日々の生活を母親の美奈子さんがサポート
花さんの日々の生活を母親の美奈子さんがサポート
この記事の画像(14枚)

2010年生まれの花さん。生後3ヵ月で気管支を手術して以来、人工呼吸器が欠かせない生活を送っている。

障害のある娘を育てていくなかで、さまざまな葛藤を抱えていた美奈子さん。「発達が遅れていくにつれ、こういうことがあるから残念。これが出来ないから残念と思っていた。私は娘の障害を受け入れてないなと思った」とかつての自分を振り返る。

14歳になった花さん。いま、ダンスに夢中だ。美奈子さんは、花さんがダンスと出会ったことで美奈子さんの子育てに対する考え方が大きくかわったという。

ダンスに夢中な花さん
ダンスに夢中な花さん

「普段の生活のなかで、娘ができないことがあっても、それは『残念ではない』。そう考えようと思えるようになった」と美奈子さんは話す。

多様な人々がそれぞれの身体で表現

福岡市のダンス教室『コココのダンス』。花さんが美奈子さんと定期的に通い続けている教室だ。参加者が踊っているのは、1970年代にイギリスで生まれたコミニティダンス。年齢や性別、障害などに関わらず、誰もが参加できるのが特徴で、既存のダンスの形式や技術に縛られず、多様な人々がそれぞれの身体で自由に表現することを重視している。

創造性やコミュニケーション能力を高める効果があるとして、学校や福祉施設、病院などで積極的に取り入れられているダンスだ。

花さんを指導するダンスアーティストのマニシアさんは「出会った頃は、花さんが、表現することを恥ずかしがっていた。でもいまは、体で表せている」と花さんの成長を語る。

外に出る機会が少なく内向的だったという花さんだが、教室の参加者たちと一緒にコミュニティダンスを学ぶうち「人にも関心を向けるようになった」と美奈子さんは娘をみている。

自分から提案 初めて自分を表現

2025年5月に開かれたコミュニティダンスを披露するイベント。本番当日、花さんは会場に一番乗りした。「きょうは、張り切っている。娘が思う表現ができたらいいと思う」と美奈子さんも花さんの気持ちの高まりを感じていた。

参加者のなかには、公募で集まった重い障害のある子どもたちの姿もみられた。それぞれが出されたテーマに沿って即興でダンスを披露する。

この日、即興で求められたダンスのテーマは、時の流れを表す『朝・昼・夜』。花さんが踊るパートは、1日が始まる『朝』だ。早速、参加者と一緒に振り付けを考えていく。

花さんは、大きく手を広げて、朝をイメージした振り付けを自分から表現する。これまでの花さんにはなかったことだ。その姿を見た美奈子さんは「これまでは、質問しても、自分のオリジナルの答えは、なかなか出てこなかった。きょうは、自分でパッと両手を広げた。嬉しかったし、成長したな…」と嬉しそうに語った。

参加者と一緒に花さんが感じた朝のイメージをダンスとして完成させる。これまで他人の動きに合わせることしかできなかった花さんだったが、自分から提案し、初めて表現することができたのだ。

「これからは、ダンスだけではなく、日頃の生活のなかでも娘の表現が、自然に出てくるようになったらいい。ワクワクしながら見ています」と美奈子さんは花さんの更なる成長に期待を寄せる。花さんを指導するマニシアさんも「ダンスは生きる力を与えてくれる。それを伝えたい」と語る。

コミュニティダンスを通じて成長を続けている花さん。ダンスの力で引き出された可能性は、これからもさまざまな場所で生かされそうだ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。