今、全国で半数以上の企業が後継者不在となるなか、岡山市南区の会社が社員に社長を引き継ぐ「従業員承継」の道を模索しています。そこに込めた65歳の新米社長の思いに迫りました。
朝の公園で太極拳をする男性。65歳の新米社長、千々木久人さんです。
(チヂキ 千々木久人社長)
「気持ちいい。朝、体を動かすと」
岡山市南区にあるグッズ製作会社、チヂキ。学校や企業の旗にイベントの記念品、さらには銅像まで、様々な商品を販売しています。創業者は、父の昭平さん。代々、親族を中心に受け継ぎ久人さんは4代目社長です。
(チヂキ 千々木久人社長)
「記念品をもらう人、一人一人に、おめでとうと気持ちを(込めている)」
社長に就任したのは63歳の時。年齢を考えてすぐに始めたのが事業承継の準備です。引き継ぎなどで10年はかかると言われています。
(チヂキ 千々木久人社長)
「元気で頑張って70歳まで。なるべく若い有望な人に継いでもらいたいと思うが、誰という特定は出来ていない」
ー社員とハイタッチー
出社してきた社員をハイタッチで迎える久人社長。親族に後継者候補がいないため、社内から後継ぎを探す従業員承継を考えています。2025年の始め、17人の従業員に思いを伝えました。
(チヂキ 千々木久人社長)
「私も社長に就任してまだ1年半ではありますけど、私が70歳になるまでの5年間で経営健全化を図り、次の若い世代へバトンタッチを考えています。我が社には20代から50代までいるが、年功序列は一切ありません。もはや同族経営の会社でもありません」
今、少子化などの影響から進んでいるのが後継ぎの、脱ファミリー化。去年発表されたデータによりますと同族承継が32・2%に対して内部昇格による就任が36・4%と上回っています。社員の本音は。
(社員)
「影で支えるのが得意なのでアシスタントとして仕事をしたい」
「前に出るタイプではないので、できれば誰かの背中を押したい気持ちはあるが出番が来る時もあるという心づもりでいる」
専門家は従業員に後を託す難しさをこう分析します。
(岡山県産業振興財団事業承継・引継ぎ支援センター金原光広さん)
「従業員承継は非常に難しい。仕事と経営は重なっているようで違う。失敗したらリスクも大きいので担当仕事だけをやりたい人は躊躇する」
それでも、久人社長には従業員承継にこだわる理由がありました。
(チヂキ 千々木久人社長)
「住み込みの人とは食事も一緒にするし風呂も交代で使っていた。会社の人はファミリー」
かつて、父親が社長だった頃、千々木家は社屋に住み従業員と共に生活していました。その記憶から久人社長にとって従業員は家族そのもの。他の会社との合併や譲渡などは考えていないと言います。
(チヂキ 千々木久人社長)
「ずっと使ってもらえるか不安が出ると思う。会社の方針ががらっと変わるかもしれない。(M&Aは)なるべく避けたい、一番最後の手段」
後継者探しを急ぐのには年齢以外の理由も。
(チヂキ 千々木久人社長)
「一番最初に発症した時、小腸に潰瘍があると」
粘膜などに潰瘍ができる難病・ベーチェット病です。
(岡山大学病院 渡辺晴樹医師)
「根本的に治すことは難しい。ストレスがかかると悪くなるので無理しない方が良い」
(チヂキ 千々木久人社長)
「これはうちのチッキー」
今、久人社長が力を入れているのが会社のキャラクター、「チッキー」の知名度アップです。訪れたのは県内有数の人気ベーカリー総社市の「トングウ」。人気グッズとコラボして、チッキーを知ってもらおうという戦略です。企業向けの商品が多いチヂキにとって、一般消費者向けのグッズ展開は新たな挑戦です。
(チヂキ 千々木久人社長)
「少子化で人口も減っていくと(グッズを売る)イベントが小規模になる。新しい客や販路を開拓して商品の幅を広げないと」
従業員が引き継ぐ意思を固めた時、安心して承継できるように、事業の拡大を模索する日々が続きます。
(チヂキ 千々木久人社長)
「ピンチというより、自分の勉強、試練。従業員を仲間として家族同様に大事にしてくれる人が望ましいと思う」
全国の社長の平均年齢は60.7歳と34年連続で上がり続けています。社長には会社経営と同時平行で後継者を見つけることも求められています。