思い出に訴えることが有効
テンポとメロディは高密度に時系列情報を運び、脳内に情動タグ付きで保存されるため、言語や静止画像よりはるかに強力に自伝的な記憶を揺り起こします。
日本では2023年、インターネットラジオ配信のradiko社が脳科学ベンチャーのNeUと共同で音声広告と映像広告の違いについて脳計測を含む実証実験を行った結果、「音声は映像と比べて、過去のことや以前触れたときの状況などを思い出し『自分ごと化』につながりやすい」と報告しています。
これは、広告においても聴覚からの訴求が自伝的記憶、つまり潜在意識の中の思い出に訴えかけるアプローチとして有効であることを示唆していると言えそうです。
思い出といえば、真っ先に出てくるのは「懐かしい」という感情です。次は、その懐かしさにニューロマーケティング的視点からフォーカスしてみてみましょう。
なぜ「懐かしい」は売れるのか
子どもの頃、紅白歌合戦を見ていて「なんで毎年同じ歌手が同じ歌ばかり歌っているんだろう?」なんて疑問に思ったことはないでしょうか。
それがいつの間にか大人になって、昔ヒットした曲を今年も元気に歌ってくれている姿を見ると、なんだかそれだけで温かい気持ちになりますよね。

青春時代に聞いた懐かしい音楽、いわゆる懐メロは、世代で流行の違いはあれど、嫌いな人はあまりいないのではないでしょうか。きっと今の流行曲も、10年後20年後にはこころの中で懐かしいメロディに変わるはずです。
ちなみにリズム・メロディといった音楽の違いを聞き分ける能力は、加齢とともに低下するそうです(※2)。「最近の歌は全部同じに聞こえる」という中高年世代の嘆きは、生物的に仕方ない部分もありますね。