夏の高校野球宮城県大会。16年ぶりの公式戦勝利を目指し、初戦に臨んだ加美農業高校野球部に密着しました。
加美郡色麻町に校舎を構える加美農業高校。農業科の授業の一環として、計26頭の乳牛や和牛などを飼育。東京ドーム17個分の広大な土地は高校として本州最大の敷地面積を誇ります。
そんな自然豊かな場所で牛よりもやや少ない人数で活動しているのが24人の野球部員です。
増子晴琉主将(3年)
「絶対にチーム全体で心ひとつにして取らなきゃいけない。公式戦勝利を目標に全員で頑張ってます」
実は数年前まで部員はわずか2人と、大会には連合チームで出場していた加美農業高校野球部。2017年に赴任した佐伯友也監督は自作で野球部の魅力を紹介する資料を作成し、オープンスクールに来た中学生に配るなど勧誘に力を入れました。
佐伯友也監督(Q.増子主将について)
「将来、自分たちが社会に出た時に、少しでも自分の人生に自信をもって頑張れる力を身につけさせたいと思って」
佐伯監督の熱意もあり、2020年には単独チームを結成できるまでに部員数が回復。以降、毎年欠かさず生徒が入部しています。
部員の中には、高校から野球を始める生徒や不登校を経験した生徒など、さまざまな境遇を持つ生徒がいます。キャプテンの増子選手も挫折した過去を持つ1人です。
増子晴琉主将(3年)
「中1の時に、硬式野球・シニアのチームに入っていて、色々人間関係とかそういうトラブルが起きて、1回硬式野球をやめて、そこから学校も行かなくなって…」
野球から離れ、学校にも行かなくなった中学時代。それでも…。
増子晴琉主将(3年)
「ちょっと部活動をさぼろうとして『休みます』と連絡をすると、佐伯監督が家まで迎えに来てくれて、部活に来させるという熱心な指導のおかげで、しっかり学校生活も送りつつ、部活動も充実しているのかなと。野球があるから学校行こうとか、すごくかけがえのないもの」
佐伯友也監督(Q.増子主将について)
「入学当初は自信がないことだらけだったので、2年半を通して逃げ出さないで前に向かって進もうっていう気持ちを持ってやってくれた結果。いま本当にいろんなところで前に出て挑戦してくれてる姿がありますので、そういう成長は凄く感じています」
野球を通して遂げた確かな成長。
多くの生徒が寮生活を送る加美農業。寝食を共にすることで仲間との絆が強まります。増子選手にはそんな仲間たちと共に成し遂げたいことがあります。
増子晴琉主将(3年)
「キャプテンとしてはこのメンバーに公式戦勝利っていう景色、グラウンドで校歌を大きい声で歌う景色を見せてあげたいので」
実は、2020年に単独チームに復活してからいまだ公式戦での勝利がない加美農業高校野球部。それでも今年春の大会では勝利まであと一歩というところまで迫りました。
増子晴琉主将(3年)
「自分たちも粘り強く戦えば、僅差のゲームで試合を進めることができる。すごく自信につながった」
佐伯友也監督
「仲間の力を借りながら、ひとつひとつできることを増やして、その中のできることが成功体験につながって、加美農業高校野球部にとっての公式戦1勝は、甲子園出場くらいの価値のある大きな歴史が動く1勝でもあると思っていますし、生徒たちと一緒に頑張りたい」
「甲子園だけがすべてではない」。
3年間の成長を証明する最後の夏に挑みます。
増子晴琉主将(3年)
「他のところに行ってれば、また挫折してやめただろうなって思いながら加美農で野球しています、最近は。先生たちにも感謝ですし、このメンバーは特に自分にとってはかけがえのない存在。チームを勝利に導けるように頑張りたいと思います」
13日、初戦に臨んだ加美農業。3年前にコールド負けを喫した気仙沼高校と対戦しました。
3回、2アウトランナー3塁のチャンスで2番・早坂選手。打球が相手のエラーを誘い、加美農業が先制に成功します。
しかし4回、1アウト2塁のピンチから気仙沼の5番・阿部選手にタイムリー3ベースを打たれ、同点とされると。連打で逆転を許してしまいます。
それでも、増子選手がこのファインプレー!悪い流れを断ち切ります。
そのまま、1点ビハインドで迎えた8回、増子選手の第4打席。チームをけん引してきた頼れるキャプテンのこの夏初ヒット!その後、2アウト3塁とし、打席には4番・武田選手!値千金の同点タイムリー。増子選手がホームを踏み、勝利への望みをつなぎます。
その後試合は9回で決着がつかず、延長タイブレークへ。
10回表、無得点に終わり迎えたその裏。一打サヨナラのピンチを招きます。そして…。
16年ぶりの公式戦勝利を目指した増子選手たちの夏は終わりました。
佐伯友也監督
「ほんとにみんなで新しい歴史を作ろうっていうことで、この夏に向けてやってきてくれて、繋いでくれたことは、間違いなく新しい伝統になってるし、しっかり次につないでいけるように頑張っていこうね」
佐伯友也監督と増子晴琉主将
「本当にお疲れ様な。お前が残してくれたものは大きいよ」
一度は廃部の危機を経験しながらも、新たな歴史を紡ぎ始めた加美農業高校野球部。確かに灯った炎は次の世代へ受け継がれていきます。
増子晴琉主将(3年)
「このメンバーで野球やれてよかったなって思うし、負けちゃったけど、このメンバーじゃなきゃ多分野球続けてないし、試合もこういう結果には繋がってないだろうなって思うし、野球続けてよかったなって思えたから。本当にありがとうございました」