福岡に在留する外国人の数が過去最多を更新するなか、福岡県警が直面する深刻な課題に迫る。
滑らかな中国語 許されない誤訳
福岡県警国際捜査課の宮原智樹警部補(49)。中国語の通訳が専門の「通訳警察官」だ。この日は、九州・沖縄8県から通訳警察官が集まりスキルを争う大会に参加した。

大会は、器物損壊事件の目撃者である中国人女性から、当時の状況を聞き出し捜査員に伝えるという設定で進められていく。

宮原警部補の口から滑らかに淀みなく出てくる中国語。順調に通訳を進めていたなか、確認事項があると通訳を止め、再び目撃者に聞き直す。重要な証言になる可能性もあり、誤訳は許されないのだ。

この大会で、丁寧で正確な通訳を貫いた宮原警部補は見事に優勝。中国語の審査員を務めた蒋昌さんは「正確性と一生懸命、通訳業務を完成するその姿にとても感動しました。在日中国人の一員として、もし福岡県警でこういうプロの通訳者がいるとすごく安心します」と宮原警部補の語学力を称えた。

中国人による1家4人殺害も担当
高校卒業後、2年間、親の勧めで中国に留学したという宮原警部補。帰国後に出会ったのが、通訳専門の警察官という職業だった。

2003年、福岡市東区で一家4人が中国人留学生に殺害された事件をはじめ、これまでさまざまな現場での取り調べのほか、福岡に在住する外国人や観光客に向けた啓発チラシの翻訳なども担当。今では、この道27年の大ベテランだ。

「私がいたから『こういうことが分かった』とか『人を助けることができた』とか、自分の語学が警察活動、犯罪捜査や被害者支援など各方面に活かせることに非常にやりがいを感じます」と宮原警部補は話す。

通訳歴20年の同僚女性は「発音とかスピード感とかも全然、速いし、知らない言葉もいっぱい知ってらっしゃる」と宮原警部補に信頼を寄せる。

また通訳歴21年の同僚女性も「文章のなかで分からない単語とか、どう訳していいか分からない単語があったとしても、これまでの経験とか前後の流れから想像して的確なものを選ぶ」と宮原警部補のスキルに一目を置く。

出入国在留管理庁によると、福岡に在留する外国人の数は2024年末の時点で約11万3千人と過去最多を更新。国籍別ではベトナムと中国がそれぞれ2割前後を占めている。

当然、外国人が関係する事件や事故も多くなり通訳警察官の需要が高まるが、課題となっているのが人材不足だ。県警の通訳警察官は現在130人だが、外国人の増加に対応し切れていないのが現状で、2024年は通訳業務の約4割が民間に委託された。

宮原警部補は「語学ができる捜査員を育成することによって、警察官自らが外国語を使って事情聴取をしたり、捜査指揮をしたりしながら、少ない人員で回せるというメリットがある」と今後、外国語のできる警察官を育成することが重要だと話す。
「国際捜査官の仕事に興味が…」
この日は、通訳警察官の担い手確保を目指し、博多警察署で外国語を専攻する大学生や専門学生ら約30人が参加した県警の職場体験会が開かれた。

講師として参加した宮原警部補は、日本と中国のマナーの違いで実際にトラブルがあったことなどを挙げ、中国の文化や社会的背景を理解する重要性を説明する。

参加した学生の1人は「ちょっと興味が湧いて来た。国際捜査官の仕事についてみたいなと思いました」(中国語専攻・大学3年生)と前向きだ。

また別の参加者は「警察官でこういう語学を扱う専門の職員がいるんだっていうのを初めて知りました。職業選択の視野に入れようかなと思っています」(中国語専攻・大学4年生)とこちらも前向きだ。

県内で暮らす外国人が増加するなか、いかに通訳を確保するか。言語や文化の違いを超えて共生するためますます重要な課題となっている。
警察庁の新たな取り組みとは
外国人の関わる犯罪が増え、通訳警察官の需要が高まるなか、民間の通訳へ委託する動きもあるが、希少言語については民間でも人員を確保しにくい状況に変わりはない。福岡県警では、独自に現地でのホームステイ(1年間)をしながら現地の大学で学ぶ海外研修プログラムにより通訳警察官を育成している。このプログラムでネパール語の通訳が6人誕生した。

さらに、通訳の需要増加に対応して警察庁は、外国人を取り調べる際に電話を使い、遠隔でも通訳を可能とする新たな取り組みを発表した。これまで外国人が交番などを訪れた際には電話を使って通訳することもあったが、取り調べの場合は原則「対面」とされていた業務の効率化が期待できる。
(テレビ西日本)